CEOとCTOを兼務し戦略的課題に迅速に対応──「ガワ替え」ではないゲームで勝ち抜くことを目指す:CTOに問う(6)gloops編(2/3 ページ)
CTOとは何か、何をするべきなのか――日本のIT技術者の地位向上やキャリア環境を見据えて、本連載ではさまざまな企業のCTO(または、それに準ずる役職)にインタビュー、その姿を浮き彫りにしていく。第6回はgloopsのCEO兼CTOを務める池田秀行氏にお話を伺った。
gloopsのゲーム開発を支えるのはWindows Server/C#
編集部 変化が激しいゲーム業界ということですが、その業界で競合他社にどうやって技術的な優位性を持って戦っていこうと考えていますか? 他社と比べたgloopsの技術的な強みは何でしょうか?
池田氏 当社はブラウザーゲームで大きな成功を収めることができましたが、その成功を支えた強みの一つがWindows/Windows Serverの開発環境です。Webサービスやブラウザーゲームを開発している他社はLinuxやPHPなどいわゆるオープンソースの技術をメインにしているところが多いですが、当社はC#やASP.NETなどの技術を使って、トライ&エラーを繰り返しながら大規模なBtoCサービスをゼロから構築していきました。
また、数年前からスマートフォンで稼働するネイティブゲームアプリの開発に本格的に取り組み始めています。その開発の際にメインで使っているのが3DゲームエンジンのUnityです。幸いなことに、Unityを使ったアプリはC#で記述できるので、生産性の高いC#の強みを生かすことができます。
C#の場合、クライアントとサーバーの両方で同一の言語を利用できるのも強みの一つです。ゲーム開発ではクライアントとサーバーで技術が大きく異なり、技術者の間に距離が生まれやすいため、両サイドで技術者がシームレスにお互いの情報を共有できれば、開発を効率化することも期待できます。
また、当社ではゲームに参入した当初からデータ分析基盤の構築に力を注いできました。これも、ゲームを長く運用していくに当たって、大きな強みになると考えています。
オープンソースの技術も積極的に採用、モバイル端末間通信の進化に注目
編集部 gloopsではマイクロソフトの技術をメインに採用しているとのことですが、そのマイクロソフトは開発フレームワークであり実行プラットフォームでもある「.NET Framework」の一部オープンソース化を発表したり、Linux対応も積極的に行ったりしています。オープンソースに対するスタンスを教えてください。
池田氏 アプリケーション開発のほとんどは、C#やVisual Studioを含む統合化された生産性の高いWindows開発環境を使って行っていますが、アプリケーション開発以外で使用するサーバーについては、Linuxをベースにして、画像サーバー、ロードバランシングなどのオープンソース技術を積極的に採用しています。
今の時点では、オンプレミスのサーバーで提供しているサービスもまだ多く存在し、Windows ServerやLinuxを含むハイブリッドの環境になっています。マイクロソフトによるオープンソース化の動きは、Windows技術を使っているわれわれにとって、活用の可能性が広がるという意味で歓迎すべきことです。実際に、Linux上でどのように動作するのか、検証してみたいと考えています。
編集部 オープンソースの場合、サポートも自前で行う必要があり、その分コストも掛かると思われますが。
池田氏 C#を採用している理由も、サポートが充実しているからではなく、スピーディに開発できることにありました。オープンソースの場合も、Web上のコミュニティなどの助けを借りながら自らの力で十分にサポートは可能ですし、それは自らの技術力を高めるためにも必要なことだと思います。
編集部 技術力を高めるということですと、会社として技術研究の体制が整っていることが必要かと思います。新しい技術の研究はどのような体制で進めていますか?
池田氏 技術研究の体制としては、まずゲーム開発部隊とは別に、社内の共通基盤やフレームワークの整備を進める横串の部隊があり、そこが、ツールやミドルウエアなど新しい技術の検証や選定、標準化などの作業も行っています。
一方、ゲーム開発の部隊も、数多くのプロトタイピングを行っており、ゲームのアイデアを実現するために、ゲームエンジンやネットワークエンジンなどの新しい技術の検証を行っています。現在は、マルチプレーを楽しむゲームユーザーのニーズに応えるために、ネットワークエンジンの内製化にも取り組んでいます。品質の高いゲームを提供するためには、新しい技術領域は押さえておく必要があると思います。
編集部 新しい技術の採用は、どのようなプロセスで決定しているのでしょうか?
池田氏 常に新しい技術にキャッチアップしていかなければ、この業界で生き抜くことはできない。新しい技術や仕組みを採用するかどうかの決定は、基本的に現場を最も理解している人が判断するのがベストだと考えているので、できる限り決定権限を委譲してスピーディな新技術の採用ができるように心配りをしています。現在、10本、20本ものゲームタイトルを並行して運用しているので、新しい技術や仕組みは、比較的影響の少ないところから何段階か検証を行って、大規模なサービスへと適用していく流れですね。
編集部 最近の技術トレンドとして、どのようなものに注目していますか?
池田氏 モバイル端末間の通信がもう少し発展すれば、ゲームの幅が広がってくるのではないかと期待しています。現在でも、マルチプレーを楽しめるゲームはたくさんあるが、必ずサーバーを介して通信しなければならない。そのため、端末間で直接やりとりするといった通信方法が1つ増えるだけで、ゲームの可能性は大きく広がってくるのではないでしょうか。
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