失敗するプロジェクトと成功するプロジェクト:アジャイル時代のプロジェクトマネジメント入門(4)
プロジェクト管理の基礎からアジャイル開発の理想と現実、成功例と失敗例、を紹介し、ベストプラクティスを提案する連載。今回は、開発プロジェクトを成功させるために重要な2点を紹介し、その2点がアジャイル開発で、どう有効なのかを解説します。
本連載では、「アジャイル時代のプロジェクトマネジメント」というテーマで、プロジェクトマネジメント/プロジェクト管理の基礎から、アジャイル開発の理想と現実、成功例と失敗例、そしてベストプラクティスの提案までを紹介します。
前回の『「アジャイル」という言葉が一人歩き――アジャイル開発における理想と現実』では、実際の開発現場での理想と現実、失敗談を中心にお話ししました。
今回は、成功するプロジェクトの共通点を洗い出し、アジャイル開発の利点をどのように生かしていくかをお話しします。
さまざまな手法を実践したプロジェクトの比較
プロジェクト手法には、アジャイル、ウオーターフォール、プロトタイプ、スパイラル、またはそれらの複合型などがあります。各手法に関しては連載第2回「現代のプロマネが知っておきたいアジャイル開発の基礎知識まとめ」で比較しているので、ぜひご一読ください。
開発手法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
ウオーターフォール | 大規模開発に向いていて、SIのデファクトスタンダードのため、慣れているクライアントが多い | 前工程に戻る前提がないため、仕様変更に弱い |
プロトタイプ | 早い段階でクライアントからフィードバックを受けられるため、要件漏れを防ぎやすく、仕様の精度が上がりやすい | 評価できるアウトプットが必要なため、コストがかさむ可能性が大きい |
スパイラル | 大規模開発に向いている。ちなみにプロトタイプと併用して進むことが多い | 開発の初期段階でシステムの全体像が見えにくいため、結果的にスケジュール、コストがかさむ可能性が大きい |
多様なプロジェクトの進め方がありますが、進め方を問わず、「成功するプロジェクト」に共通する要件は何なのでしょうか。
以下に最も重要だと思う2点を紹介します。
うまくいくプロジェクトの要件
コミュニケーションがプラットフォーム化しているプロジェクト
弊社、Cuonでの経験則になりますが、成功するプロジェクトは「コミュニケーションがプラットフォームとして成立しているプロジェクト」といえるのではないでしょうか。
『もしドラ』のヒットで日本でも一般的に有名になったピーター・ドラッカー氏は、かつてこう言いました。
コミュニケーションで一番大切なことは、相手が口にしていない言葉を、聞き分ける力である。
この言葉には、「相手が全てのことを口にしているわけではない、もしくは全て言葉で表せるものではない」という意味が含まれていると思います。
プロジェクトを進める過程で、プロジェクトマネジャーに大事なことは、下記の4点だと考えます。
- 相手の意図を正確に汲み取ること
- 汲み取った意図が正しいか確認すること
- こちらの意図を正確に伝えること
- 意図が伝わったかどうか確認すること
そして、クライアントを含めたプロジェクトに関係するステークホルダーが情報を分断・隠匿しない、共有化できる文化・プラットフォームを醸成することが重要ではないでしょうか? コミュニケーションを放棄し、途中で投げ出すようなプロジェクトマネジャーがいるプロジェクトは成功するはずがありません。
MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)の実践
「MECE」という考え方をご存じでしょうか。「漏れなく・重複なく」という意味を持つ言葉で、マクロ経営学でしばしば用いられる言葉です。MECE最大のメリットは、物事を「漏れなく・重複なく」意識的に思考することによって構造的に捉え、優先順位を付けて選択・行動できることです。
プロジェクトの上流段階でプロジェクトマネジャーがMECEを実践できた場合、プロジェクトはまず失敗することがないでしょう。なぜならば、漏れや重複は主観的な価値観から発生しがちなファクターであり、プロジェクトを失敗へと導くきっかけとなり得るからです。しかし、このMECEはあらゆる事象を完全に想定しておく必要があるため、容易に実現できるのものではありません。
アジャイル開発だと、プロジェクトは成功しやすいのか?
コミュニケーションの機会が発生しやすい
アジャイル開発は、その特徴からコミュニケーションの機会が発生しやすく、軌道修正を行いやすい手法であるといえます。
また、昨今はChatWorkやSlackなどのコミュニケーションツールが豊富です。これらのツールは細かな投稿と、投稿にひも付くファイル・資料やタスクの関連付けを行ってくれます。アジャイルに限った話ではありませんが、環境面含めコミュニケーションの機会を増やしていくことが大切です。
MECEを実践しやすい
アジャイル開発の方法の一つであるスクラムには「ふりかえり」過程が存在します。プロジェクトを定期的に振り返ることで自分たちのやり方を洗練させていく過程です。この過程があるアジャイル開発はMECEの考え方を実践しやすい方法であるといえるでしょう(先ほど紹介したツール群を使えば、時系列でさかのぼったり、タグ付けされたキーワードを参照したりすることで容易に「ふりかえり」ができますね)。
今回紹介したようにアジャイル開発に向いているプロジェクトは、クライアントがチームの一員となることにより、ビジネスの動きと要件の関連性が整理・可視化されているプロジェクトではないかと思います。
アジャイル開発は変化に柔軟な開発手法ではありますが、決して楽というわけではありません。Cuonでもアジャイル開発を取り入れていますが、試行錯誤の連続です。ただし、これらの試行錯誤が知見になるところはアジャイルのメリットであるともいえます。
次回は、プロジェクトを成功に導くベストプラクティス
次回の記事ではCuonで実際にあったプロジェクトの話を交え、プロジェクトを成功に導くベストプラクティスを紹介します。
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