IPA、企業のITモダナイズを支援する「システム再構築を成功に導くユーザガイド」を公開:開発会社と正しく意思疎通を図るための「要件定義ガイド」も用意
IPAのソフトウェア高信頼化センターが、ITシステム再構築における課題解決を支援する「ガイドブック」を公開。システムの再構築/モダナイズで必要となる、「企画と計画の工程で留意すべきポイント」などを提言している。
情報処理推進機構(IPA)のソフトウェア高信頼化センター(SEC)は2017年1月31日、システム開発時の課題となる「上流工程の作業不備に起因した手戻り」の解決を支援するガイドブック「システム再構築を成功に導くユーザガイド」と「ユーザのための要件定義ガイド」を公開した。
「システム再構築を成功に導くユーザガイド」は、企業が現在運用するシステムを再構築する際に、「システム開発会社と正しく意思疎通する方法」や「どのように最適な手法を選択するか」を提言する、ITシステムのモダナイズを支援するガイドブック。
システムの再構築においては、長期間運用し、改善を繰り返した現システムの仕様に引きずられ、仕様があいまいなまま着手してしまうことがシステム再構築における課題の1つに挙げられる。同ガイドブックでは、企業がシステム再構築/モダナイズに必要な、企画と計画の工程で留意すべきポイントをリスト化。下流工程でのリスクを回避するために必要な計画の策定方法を、実践に即した形式で紹介している。
一方の「ユーザのための要件定義ガイド」は、企業が開発を依頼するシステム開発会社に「正しく要求を伝える」ためのガイドブック。要件定義の工程では、企業の要求が開発会社に正しく伝わらず、開発プロジェクトの現場で作業不備が発生することがある。同ガイドブックでは、要件定義に熟練した有識者がこれまでのプロジェクト経験から「ありがちな間違い」を課題として示し、「解決策の勘所」を具体例を挙げて説明している。
IPAがこれらのガイドブックを公開する背景として、「デジタルトランスフォーメーション」「第3のプラットフォームへの刷新」などとクラウドの活用を見据えたITシステムのモダナイズが必須と叫ばれる中で、既存システムの仕様と機能を継続しながらも、ITシステムを安全かつ確実に再構築する必要もあるという、情報システム業界全体の課題を挙げている。
例えば、1990年代に構築された金融機関の勘定系や企業の販売/在庫管理といった基幹系システムでは、これまでの幾度にも及ぶ追加開発によって、肥大化、複雑化、属人化が進んだ。これらの状況を解決すべくシステムを再構築するには、現システムの業務要件や性能、信頼性などといった仕様を的確に把握し、新たなシステムに刷新する必要がある。しかしその開発途中で想定以上の仕様漏れが顕在化し、手戻りによる開発期間の長期化やコスト高につながるケースが散見されている。
IPAはこうした業界全体の課題解決を図る目的で、企業のシステムモダナイゼーションを支援する「モダナイゼーションワーキンググループ」を2016年3月16日に立ち上げ、ユーザー企業とITベンダーが連携してシステム再構築に関するガイドラインを策定してきた。今回のガイドブックはその成果の1つだとしている。
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