秘伝のソースは門外不出。お客さまには差し上げません:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(40)(3/3 ページ)
システムの開発を発注した会社が廃業することになった。今後のメンテナンスのためにソースコードの引き渡しを求めたが、契約書で約束していないからと断られた。よし、訴えてやる!
「黙ったまま渡さない」のは正しいか
だからといって、本件のようにソースコードの引き渡しについて何の約束もせず、後になってから「渡せない」というのはどうだろう。
これは法律というより商売の問題だ。
本判決を事例に、「ソースコードの引き渡しは義務ではない」と言うのはいいが、事前に何も言わずにいるのは、信用を落とし、次の商売に影響を及ぼす危険がある。さらに、本件のように裁判になってしまったら、損失はかえって大きくなってしまう。
むしろ受注者(ベンダー)は、知識がないかもしれない発注者(ユーザー)には、「ソースコードの引き渡しは必要か」と先に聞くべきだ。そうした方が安全だし、結局は得策だ。
ソースコードを渡すことになっても、「複製権」や「利用権」、あるいは「流用して使う権利」を受注者に残す交渉はできるし、先ほど挙げた例のように、ソースコード代を別に請求できるケースもある。
交渉の結果無償で全てを渡すことになっても、「ユーザーをごまかそうとしたベンダー」というそしりからは免れられる。ベンダーは、営業や契約の担当者や開発に携わるメンバーに、この考えを徹底すべきだろう。
細川義洋
ITコンサルタント
NECソフトで金融業向け情報システムおよびネットワークシステムの開発・運用に従事した後、日本アイ・ビー・エムでシステム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーおよびITユーザー企業に対するプロセス改善コンサルティング業務を行う。
2007年、世界的にも希少な存在であり、日本国内にも数十名しかいない、IT事件担当の民事調停委員に推薦され着任。現在に至るまで数多くのIT紛争事件の解決に寄与する。
書籍紹介
本連載が書籍になりました!
成功するシステム開発は裁判に学べ!〜契約・要件定義・検収・下請け・著作権・情報漏えいで失敗しないためのハンドブック
細川義洋著 技術評論社 2138円(税込み)
本連載、待望の書籍化。IT訴訟の専門家が難しい判例を分かりやすく読み解き、契約、要件定義、検収から、下請け、著作権、情報漏えいまで、トラブルのポイントやプロジェクト成功への実践ノウハウを丁寧に解説する。
プロジェクトの失敗はだれのせい? 紛争解決特別法務室“トッポ―"中林麻衣の事件簿
細川義洋著 技術評論社 1814円(税込み)
紛争の処理を担う特別法務部、通称「トッポ―」の部員である中林麻衣が数多くの問題に当たる中で目の当たりにするプロジェクト失敗の本質、そして成功の極意とは?
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細川義洋著 日本実業出版社 2160円(税込み)
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細川義洋著 日本実業出版社 2160円(税込み)
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