仕様変更にも減額にも応じたのに、契約しないってどういうことですか!:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(56)(2/3 ページ)
多段階契約にしたがために後方フェーズの契約を取れなかった下請け企業がブチ切れた! 契約内容は都度検討するけれど、契約自体は一気通貫ですよね――IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する人気連載。今回は「多段階契約における基本契約の効力」を考える。
幻の「新フェーズ3」
事件の概要を見ていこう。
東京高等裁判所 平27年5月21日判決から
ある製造業の企業から、Webで製品マニュアルのダウンロードや商品の注文ができるシステムの構築を請け負った元請け企業が、その作業を下請け企業に二次発注した。開発は以下の3フェーズに分割された。
フェーズ1 要件定義、および基本設計
フェーズ2 詳細設計、および開発
フェーズ3 導入、操作指導、および最終確認
元請け企業と下請け企業は、「全体を通しての基本契約」と「フェーズ1についての個別契約」を締結して作業を実施し、作業が無事に完了して支払いもなされた。
両者は、続いて「フェーズ2の個別契約」を結んだが、その後、エンドユーザーである製造業側から追加機能が要望されたため、フェーズ2以降の開発計画を以下のように変更した。
新フェーズ2 (追加の要件定義、追加の基本設計、詳細設計、モックの開発)
新フェーズ3 (詳細設計、および開発)
新フェーズ4 (総合テスト、受け入れテスト、導入支援)
さらに「新フェーズ2の作業の一部を新フェーズ3に移す」ことなどが協議され、それに伴い「フェーズ2の代金が約20%減額」されることになった。元請け企業は下請け企業にその金額を支払った。
ところがその後、元請け企業は下請け企業と「新フェーズ3の個別契約」を締結しなかった。当然に次のフェーズについての契約もなされるものと考えていた下請け企業は混乱した。
特に、「新フェーズ2の減額は新フェーズ3の発注の約束があったからであり、減額をさせながらフェーズ3の契約をしないことは、債務不履行又は不法行為である」として、下請け企業が元請け企業に損害賠償請求を行った。
“予定”は“約束”なのか?
両者の間には、個別契約の上位に位置する「基本契約」が存在した。
期限や費用、具体的な成果物は記されていないが、「この開発を一緒に協力してやりましょう」という意味合いの基本契約がある以上、そう簡単に個別契約締結を拒むことはできないと下請け企業が考えるのも無理はない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 要件定義も設計もしてもらいましたが、他社に発注します。もちろんお金は払いません!
東京高等裁判所 IT専門委員として数々のIT訴訟に携わってきた細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回も正式契約なしに着手した開発の支払いをめぐる裁判を紹介する。ユーザーの要請でエンジニアを常駐して設計まで進めた開発案件、「他社に発注することにした」はアリ? ナシ? - 契約もしていないし働いてもいませんが、お金は払ってください。売り上げ期待していたんですから
東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は多段階契約の落とし穴を解説する - 納期が遅れているので契約解除します。既払い金も返してください
東京高等裁判所 IT専門委員の細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は頓挫した開発プロジェクトの既払い金をめぐる裁判例を解説する - このシステム、使えないんでお金返してください
今回も多段階契約に関連する裁判例を解説する。中断したプロジェクトの既払い金を、ベンダーは返却しなければならないのか?