GPLに違反したから、わが社は経営破綻するしかない:コンサルは見た! オープンソースの掟(8)(2/2 ページ)
フリーソフトウェアの権利監視団体から警告を受けた「プレミア電子」。「ジェイソフト」さえ何とかすればと楽観視する木村に、社長の武田は重大な事実を告げる――わが社はもうカーナビを作れない!
問題はジェイソフトだけじゃない!
「木村君、今回の件はジェイソフトと関係のない部分の方が深刻だ。バルサに載せているミドルウェアは、わが社が全てを自前で作ったわけじゃあるまい?」
「あっ……!」
木村は顔から血の気が引くのを感じた。バルサに載っているミドルウェアは、そのほとんどが、GitHubなどから入手したソースコードを素にして作っている。それらもGPLに抵触しているかもしれない……。
言葉に詰まる木村に、武田が言った。
「技術者と法務部にバルサのミドルウェアを調べてもらった。残念ながらそのほとんどは、GPLに基づいて公開されたソースコードを改造していた。わが社はそれらを一切公開せず、顧客にもオブジェクトプログラムのみを提供している。当然GVO(The gpl-violations.org project)は、これについても警告をしてきた」
「な、何と言ってきたのですか?」
木村の脳裏に最悪の予測が浮かんだ。そのとき、武田が拳で机を思い切りたたいて大声でわめきだした。
「今まで作ってきたバルサのミドルは、全てGPL違反で差し止め。つまり、わが社はもうバルサを売ることができない上に、わが社が使ったソフト全てに対して、つまり世界中に損害賠償をして歩かなければならない。分かるか!!! わが社は、天文学的な金額の債務を負った上に、もうカーナビを作れないんだぞ!!!!!」
「ま、まさか……」
さすがの木村も両膝の力を失い、その場にへたり込んでしまった。カーナビの販売ができずに膨大な債務を負うということは、すなわちプレミア電子の経営が破綻するということだ。
武田と木村はそれっきり黙り込み、ただ座り込むしかなかった。
つづく。「コンサルは見た!」Season3「オープンソースの掟」の最終回は、8月2日掲載です
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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