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GPLに違反したから、わが社は経営破綻するしかないコンサルは見た! オープンソースの掟(8)(1/2 ページ)

フリーソフトウェアの権利監視団体から警告を受けた「プレミア電子」。「ジェイソフト」さえ何とかすればと楽観視する木村に、社長の武田は重大な事実を告げる――わが社はもうカーナビを作れない!

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コンサルは見た!

連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。



登場人物

プレミア電子

takeda

武田

カーナビシステムベンダー「プレミア電子」社長。日本のカーナビ市場独占状態を維持するために、優秀なカーナビソフトを作る「ジェイソフトウェア」を自社で抱え込んでおきたい。同社を子会社化すべく、契約の解除、人材の引き抜きなど、攻撃を続けていたある日、フリーソフト「ボカ」をベースにしたカーナビ「バルサ」がGPL違反であると監視団体から警告を受ける。

kimura

木村美智子

システム企画部長。同社初の女性取締役を狙っている。武田の“汚い”仕事の実行部隊。


前回までのあらすじ

カーナビベンダー「プレミア電子」が、GPLに基づくフリーソフトウェアを元にしたカーナビ「バルサ」をソース非公開で販売しているのは著作権侵害であるとコンサルタントの江里口美咲に告げられた、プレミア電子 技術企画部長の木村美智子。

裁判沙汰になっても資金も体力も劣る中小企業に負けるわけはないとタカをくくっていたが、武田社長に届いたメールを読んで事態の深刻さに気が付く。それはGPL監視団体からの警告メールだった。団体に連絡をとって対応しようとする木村に武田の怒声が降り掛かる――キミは、まだコトの重大さが分からんのか!!!

第1話 ベンチャー企業なんて、取り込んで、利用して、捨ててしまえ!
第2話 大手の下僕として安定の日々を送るなんて、まっぴらゴメンだね!
第3話 あまっあまのスイーツ社長なんて、大手に利用されて当然よ!
第4話 カーナビの要は使い勝手の良いアプリだ。よそには渡さん!
第5話 ソースコードの中に逆襲のネタを見つけたわ
第6話 ジェイソフトはプレミア電子を著作権侵害で訴えます!
第7話 貴社は重大なGPL違反を犯しています


わが社は世界中から総スカンを食らうんだ!

takeda

「木村くん。キミはまだコトの重大さが分からんのか! フリーソフトウェア違反監視団体から警告を受け取ったということは、そのまま日本の著作権法違反を問われるということだ。バルサのシェアは国内トップで、もう数百万台の車に搭載されている。その分の売り上げは、イコール不当に得た利得ということになる。つまり、われわれはジェイソフトウェアに膨大な金額を払わなければいけないということだ」

 そこまで一気に話すと武田は息をつき、木村の「幾らぐらいになるのでしょうか」との問いに、吐き捨てるように答えた。

 「知るか、そんなもの。この団体は、来月ハノーバーで開かれるフリーソフトウェアに関する国際会議の席上で、わが社をGPL違反企業として名指しで批判するそうだ。そうなれば、プレミア電子は、国内外のIT企業から総スカンをくらい、まともな取引ができなくなる!」

kimura

「落ち着いてください、社長!」

 木村は深呼吸した。部屋に入るなり怒鳴られて多少冷静さを失っていたが、少し落ち着いてみると武田が狼狽(ろうばい)し過ぎているように思えてきたのだ。国際会議で非難を受けたとしても、世界中からそっぽを向かれるとまでは思えないし、木村が考えたストーリー通りにことを進めれば、ジェイソフトウェアは間もなく消滅して、著作権侵害そのものがなくなるはずだ。木村は武田をなだめようとした。

 「社長、ここはひとつ冷静に……」

 しかし、武田の怒りは全く収まらなかった。

 「これが冷静でいられるか!」

 「し、しかし社長。ジェイソフトウェアにはしかるべき手を打っておりまして、間もなく……」

 武田は木村を無言でギロリとにらんだ。

 これから最も重要なことを木村に伝えなければならない、怒鳴りっぱなしでは言葉もうまく出てこない――そんな気がして、武田は声をいったん低く落とした。

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