ようこそ、オープンソースソフトウェアエコノミーの美しい世界へ:コンサルは見た! オープンソースの掟(最終回)(2/2 ページ)
フリーソフトウェア著作権侵害チェックプロジェクト「GVO」へのタレコミが成功し、ジェイソフトの危機を救ったコンサルタント江里口美咲。彼女が最終的に向かった場所は――。
ソフトウェアは世界の共有物
「オープンソースソフトウェアエコノミーねえ。そんなんで商売が成り立つのかなあ」
オフィスに戻り、PCのブラウザで技術情報サイト「liberty IT」を眺める美咲に、同僚の白瀬が話しかけた。
「アンタだってGmailくらい使ってるでしょ?」
美咲はPCを見つめたまま答えた。
「えっ? ああ、使ってるけど。それがどうした?」
「Gmailが出てきたときは、それまで有料のメールソフトで稼いできたソフトメーカーは大変な影響が出たと思うわ」
「そりゃあそうだろうな。あれだけの機能を持ったメールソフトがタダで使えるとなれば、わざわざお金を出して似たようなソフトを買おうって気にはならないものな」
「メールだけじゃないわ。会計ソフトだって、グループウェアだって、どんどんこうした流れになっている。Microsoft Officeだって、GoogleのG Suiteを無視できなくなってるでしょう?」
「『ソフトを作って売る』というビジネスモデルが、もう成り立たなくなるってことか」
「そうよ。だから、ソフトウェアベンダーもクラウドやらコンサルティングやら教育、メンテナンスといったサービスに注力せざるを得なくなってるのよ。ソフトのソースコードを秘匿して、自分たちだけの財産にするなんて時代は、もうすぐ終わるのかもしれないわよ」
「ソフトウェアは世界の共有物。勝負はサービスやデータ、そんな時代ってことか」
「そうね」
「ところで、その後、プレミア電子はどうなったんだ?」
「大手電機メーカーの『パラソーテック』が買い取ったみたい。優秀な技術者が多いから、カーナビはもちろん自動運転にも事業を広げようとしているパラには、それなりに魅力的なディールだったんじゃない?」
「武田社長と木村本部長は?」
「当然クビよ。株主代表訴訟を起こされることになるみたいだから、これから大変ね。GPL条項が設定されている『ボカ』を、ジェイからもらったソースや複製権、翻案権も渡さずに自動車メーカーに販売したのは問題だったわね。世の中のオープンソースは、まだGPLなどを設定してなくて本当に自由に使えてしまうものも多いけれど、今後はこういう話が増えてくるでしょうから、注意が必要ね」
うなずく白瀬の隣で、美咲は「liberty IT」の新着ニュースを読んでいた。画面には、「ジェイソフトウェアとセリエソフトサービス対等合併。カーナビとドローンの両輪で世界を目指す」というタイトルが躍っていた。
「コンサルは見た!」Season3「オープンソースの掟」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。Season4を楽しみにお待ちください
書籍
細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)
システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。
※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです
細川義洋
政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員
NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる
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