被告弁護人と高木浩光氏は何と闘ったのか、そしてエンジニアは警察に逮捕されたらどう闘えばいいのか(Coinhive事件解説 前編):権利は国民の不断の努力によって保持しなければならない(2/3 ページ)
Coinhive、Wizard Bible、ブラクラ補導――ウイルス作成罪をめぐる摘発が相次ぐ昨今、エンジニアはどのように自身の身を守るべきか、そもそもウイルス作成罪をどのように解釈し、適用すべきか。Coinhive事件の被告人弁護を担当した平野弁護士と証人として証言した高木浩光氏が詳しく解説した。
身を守る上で大事なのは公判段階よりも捜査段階
ITエンジニアは恐らく、逮捕や検挙といった「荒事」とは無縁の人生を送ってきた人が多いであろう。セミナーでは、Coinhive事件で被告の弁護を担当した平野弁護士が、そんなITエンジニア向けに、刑事事件の手続きの流れと身を守るポイントを紹介した。
ITエンジニアが罪に問われる可能性のある犯罪は、ウイルス罪の他にも、「わいせつ物陳列罪」「著作権法違反」「電磁的記録不正作出」など幾つかある。中でも1996年の「ベッコアメ事件」は、日本最初のネット犯罪といわれるものだが、「この捜査過程において、顧客のIDリストを差し押さえたのは違法捜査だとして取り消しにあった。20世紀のインターネット初期のころから、違法捜査を巡り、警察とITエンジニアとの間には摩擦があった」と平野敬弁護士は振り返った。
理解している方も多いだろうが、「逮捕」されただけでは有罪とはならない。警察が捜査を行い、その捜査を通じて証拠が十分に集まったとなれば、検察に送検され、起訴するか不起訴処分にするかを決定する(被疑者が罪を認めて争わない場合には「略式起訴」となることもある)。起訴された場合は、いよいよ裁判所において公判が行われ、裁判官が一連の証拠を確認し、弁論を踏まえて判決を言い渡すという流れだ。
弁護士の役割として多くの人が想像するのは恐らく最後の公判の段階で、弁護などのために熱弁を振るうイメージだろう。だが実は、それ以前の捜査段階でこそ弁護士が支援できる部分が大きいし、ITエンジニアが自分の身を守るために留意すべきポイントもこの段階にある。
仮にも日本は法治国家である。同氏は憲法31条を挙げ、「捜査機関は法律に根拠があることしかできない」ことを覚えておいてほしいと述べた。そして、具体的に身を守る武器として「黙秘権」「令状主義」「弁護士専任権」があることを紹介した。
黙秘権とは、捜査、公判、いずれの段階においても黙っておくことができる権利だ。
これは、警察側が、被疑者が「二度としません、反省しています」といった具合に、本人が言っていないことまで調書に記してしまう「作文調書」問題に対抗する上で重要だという。
「『そんなことは言っていません』といっても『じゃあ反省していないのか』と言われて反抗できる人はなかなかいない。しかし、こうしていったん意図的な調書が作られてしまうと、後々被疑者が不利になる。黙秘権を行使し、弁護士と相談しながら作るといい」(平野氏)
令状主義は、警察が何らかの捜査を行う際には裁判所の令状が必要というものだ。
警察がやってきて、例えば「IDとパスワードを教えてほしい、それがルールだ」とか、逆に「撮影や録音はしないでほしい」とかといった具合に指示された場合には、それが何のルールによるものか、令状によるものなのか、それともお願い(任意)なのかを確認すべきだとした。
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