仮想サーバ1800台を無停止でフルクラウド化する――ゼンリンデータコムが明かすVMware Cloud on AWSの活用ポイント:特集:百花繚乱。令和のクラウド移行(5)(1/2 ページ)
多数の事例取材から企業ごとのクラウド移行プロジェクトの特色、移行の普遍的なポイントを抽出する本特集「百花繚乱。令和のクラウド移行」。ゼンリンデータコムの事例では、VMware Cloud on AWSを活用した移行のポイントをお届けする。
オンプレミスの既存システムをクラウドに移行する場合、本来取り組むべき業務とは関係のない作業が数多く発生することになる。「新規開発に集中させてほしい」という開発からの要望や、「ビジネスの競争力につながるのか」という営業からの問いに応えながらフルクラウド化を実現するにはどうすればいいのか――ゼンリンデータコムが採用したのがVMware Cloud on AWS(VMC)だ。
VMCによる移行のポイントは、どこにあるのか。2019年6月に開催された「AWS Summit Tokyo 2019」のセッション「フルクラウド化に向けたAWSとVMware Cloud on AWSによるハイブリッドクラウドの実践」から探る。
API機能開発をきっかけにAWSクラウドへ全面移行を決断
個人向けの「いつもNAVI」サービスから、法人向けの地図API、位置情報ソリューションまで、ゼンリンの地図を活用したサービスを提供するゼンリンデータコム。サービス数はおよそ150に上り、携帯キャリアやテレビ局向けに専用環境を提供したり、コンシューマー向けサービスを提供したりしている。これらサービスの基盤を提供しているのが、技術統括部インフラグループだ。
ゼンリンデータコム 技術本部 技術統括部 副部長 渡邊大祐氏は「ゼンリンデータコムの商用サービスを提供するためのシステムインフラ全般を担当しています。開発部隊約150人に対し、技術統括部は10人弱。B2C、B2B、B2B2Cなど多種多様なサービスの特性を踏まえてインフラを構築しています」と話す。
システムは3階層のWebシステムで、基本的にはオープンソースソフトウェア(LAMP)で構成。クライアントからのリクエストはWebサーバ、アプリケーション(AP)サーバ、データベース(DB)サーバで処理し、必要に応じてAPサーバからの処理を「Engineサーバ」と呼ばれる検索/地図生成サービスが受け持つ仕組みだ。インフラとして管理するのは、ファシリティの面から、これらミドルウェアの一部だ。
Amazon Web Services(AWS)の取り組みは2012年ごろからで、VMware製品上の仮想サーバに加えて、一部のサービスの処理やAPIでは、クラウドサーバ(Amazon EC2)を利用してきた。
「2018年時点で仮想サーバ1800台、クラウドサーバ2400台という構成でした。サーバ仮想化が完了し、コストや可用性のめどが立ちそうになった中、『2020年以降に向けた中長期のインフラ方針をどうするか』という状況で存在感を増してきていたと感じたのがAWSです。クラウドの機能性、柔軟性、スケーラビリティはもちろん、マネージドサービスが驚異的な速度で進化していました。ビジネスの中核となる共通APIの一部がAWSで稼働していたこともあり、AWSによるフルクラウド化に“かじ”を切りました」(渡邊氏)
既存資産を生かしつつクラウドのメリットを享受できる点を評価
ただ、既存システムをAWSに移行する場合、本来取り組むべき業務とは関係のない作業が数多く発生することになる。例えば、開発部門にとっては旧バージョンのOSのバージョンアップ検証やAWS仕様準拠の変更対応、プログラムの改修や動作検証、運用手順の変更、メンテナンス対応などだ。
「開発からは『クラウド移行よりも新規開発に集中させてほしい』という要望があり、営業からは『移行はもうかるのか』『ビジネスの競争力につながるのか』と問われます。そうした声に応えながらフルクラウド化を実現するにはどうすればいいのか――そこで採用したのがVMCです」(渡邊氏)
渡邊氏は、VMCについて「AWSのベアメタルインスタンス上で仮想マシンが稼働できるサービスです。サービス提供元はVMwareでありベアメタルインスタンスの料金も含んでいます。非常にシンプルなサービスです」と説明。VMCを選択し、評価した理由として「製品機能、人材、運用の仕組みといった既存資産を生かしつつ、ハードウェアからの解放といったクラウドのメリットを享受できること」を挙げた。2018年にPoC(概念実証)を開始し、問題ないことを確認。仮想マシンをそのままクラウド化することを目指した。
利用に際しての注意点としては、VMCの利用最小単位が「i3.metal」(36物理CPU、512GBメモリ、10TBのNVMe SSD)で、1年利用でも少なくとも2800万円かかること、利用料金がクレジット引き落としであること、サーバ/ネットワーク/AWS担当の連携が必要といったことを挙げた。
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