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ユーザーはなぜ、自社のシステム開発に協力しないのか本業が忙しいから、お手伝いはできないよ(3/4 ページ)

「受け入れテストのデータを作ってください」「ウチがやるの?」――IT“業界”解説シリーズ、第4弾はユーザー企業の「なぜ?」を解説します。

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なぜシステム導入が「本業」にならないのか

 そもそも、なぜユーザーたちの口から「『本業』が忙しい」などという言葉が出てくるのでしょうか?

 ITシステムを導入するのだって大切な仕事のはずです。顧客と商談や見積作成、新商品の企画をすることは、確かに大切ですが、良いITシステムの導入も、多少の時間はかかっても、それに勝るとも劣らない成果を出してくれるはずのものです。

 そもそも、上述した大切な「本業」だって、今やITの支援なしにはできないことが数多くあります。それでも、一般の企業では、なかなかITを本業と位置付けて、その優先度を上げる気風は十分に育っていないように思えます。

 実はかく申す私自身、IT企業にいたにもかかわらず、当時は社内のシステム導入に非協力的な人間の一人でした。

 顧客向けに作るシステムにかかわる仕事なら休日返上でも一生懸命やるのに、自社の業務のIT化となると、一気にモチベーションが下がります。「経費精算システムの要件定義に参加してほしい」と言われ、「忙しいから」と断った経験もあります。「自分の経費精算よりもお客さまの業務系システム作りの方が当然に大切だ」と当時は本気で考え、疑うこともしませんでした。

 「顧客向けのシステム作りはお金にもなるし、成功すればキャリアアップにもつながる。しかし自社内のシステムをうまく導入したところで、自分には何の得にもならない」――そんな考えが当時の私にはありました。

 お任せ系ユーザー企業の担当者たちの中にも同じような考えを持つ人は多いのではないでしょうか。

 自社の業務プロセスをITで改善することによって、コストを削減できたり、イノベーションが生まれて売り上げが上がったり、自分たちの働き方が楽になったりするかもしれないというメリットは分かるが、「目の前に顧客がいて、納期と品質を守ろうとすれば、自社のIT作りは劣後しても仕方ない」――こんな考え方が、ユーザーをITシステム導入から遠ざけて、「お任せ体質」を作り、揚げ句、プロジェクトの失敗を誘発しているのではないでしょうか。

 問題はここにあります。ITシステム導入の成否が昇進や給与に反映しないのです。

 多くの企業では、社員の成果を測るために、達成した売り上げや魅力的な製品開発、部下の管理と育成具合などを指標にします。しかし「IT導入の成功」は指標に入っていません。

 もちろん、サービスの企画やITのもたらしたイノベーションなら、昇給や出世のネタとなるかもしれません。しかし、ITシステム導入がうまくいっても、当たり前のこととして、大した評価を受けないことが、少なくとも私の見てきた数多くの事例からは考えられます。

 さらに、システム導入に割いた時間を誰かが埋めてくれるわけでもありません。昨今のようにアジャイル開発が流行してくると、ユーザー担当者の会議出席の回数は増え、その分、時間が逼迫(ひっぱく)してきます。しかし多くの企業では、それをバックアップするでもないので、担当者の残業などに頼らざるを得ない状況が続いています。

 「システム導入プロジェクトに参加しても、苦労が増えるだけ。成功したところで何の評価も受けない」では、モチベーションを持てという方が酷な気さえします。

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