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ユーザーはなぜ、自社のシステム開発に協力しないのか本業が忙しいから、お手伝いはできないよ(4/4 ページ)

「受け入れテストのデータを作ってください」「ウチがやるの?」――IT“業界”解説シリーズ、第4弾はユーザー企業の「なぜ?」を解説します。

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変わるべきは担当者よりも企業全体

 ユーザー側担当者の協力を促すためには、企業がかなりの改革を行わなければなりません。デジタルトランスフォーメーションをうたうなら、この辺りを根本から考え直す必要があります。

 まずは「ITこそ生き残りのカギである」という意識付けが、社長から一般社員まで全ての人間に必要です。

 ITをうまく活用して成長した企業は日本国内でも幾つもあります。こうした事例を追体験しながら、「自社をITで生まれ変わらせる」という意識を徹底することが大切です。

 次に大切なのは、「社員たちがシステム導入プロジェクトに参加できるだけの時間を作れるように組織を整備すること」でしょう。

 担当者が抜けた穴を皆で補い合い、場合によっては一部の作業を外に出すことも考えなければなりません。もちろん、それにはお金も掛かります。しかしそれも「将来の成長のために必要な投資」と考えるべきでしょう。

 さらに、「システム導入プロジェクトの成功を正しく評価して、社員のキャリアアップや昇給に関連付けること」が必要です。

 こうした施策をとって、担当者がプロジェクトに真に参加し、お任せ体質から脱却する。そうすことで、真に必要なIT、イノベーションや業務改革を起こせるITをタイムリーに投入できるようになる。これこそが、今後の企業が目指すべき方向性でしょう。

ユーザーを“お任せ体質”にしないために

 最後に、ITベンダーの読者たちに向けて、「それでもユーザーをお任せ体質にしないための方法」を、私の経験を元に書いてみます。正直、この手のことに「銀の弾丸」はなく、私の経験でも百発百中というわけでもないのですが、参考になれば幸いです。

 まずは「WBS作成時に、ユーザーサイドのタスクに担当者の名前を期限、成果物と共に記す」こと。

 「タスクの実現可能確度をその場で直接確認」し、「期限が守られなかったときのリスクも併せて知らせておく」と良いでしょう。WBSを担当者の上司に共有しておくと、さらに良いかもしれません。

 自分の名前が書かれて、やらなかったときの被害まで知らされれば、ユーザー担当者もさすがに積極的にならざるを得ません。

 リスクを知らせるときは言葉遣いに気を付けなければなりませんが、「○月○日までに可能でしょうか? もし無理でしたら、全体のスケジュールを見直す必要がありますが……」といった言い方にすれば、脅迫めいたことにはならないでしょう。

 そして、「依頼したら、何度もリマインドする」こと、「期限通りに作業をしたら、お礼を言う」こと、そして何より、「ベンダー側も自分の期限を守る」ことが大切です。

 ユーザー担当者も人間ですから、その心にどう訴えるかが大切ということでしょう。

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる


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