エンジニアに学歴は必要ですか?:おしえて、キラキラお兄さん(2/5 ページ)
僕は「自由」なわけじゃない、「自分勝手」なだけだ――HAL9000に憧れてIBMに入社し、同社初の“ドクター未満”で研究所所員となった米持幸寿さんは、自身のキャリアを振り返って、こう評す。人に恵まれ、運に恵まれ、何より努力を重ね、やりたいことを実現してきた米持さんの挫折と、過去の自分への恨みを晴らした出来事とは。
やるべきことを見つけては事業部から事業部へ移っていったIBM時代
今の米持さんからすると意外なことだが、最初の仕事はカスタマーサービス部門でのトラブルシューティングだった。顧客のところでエラーが発生したらソースコードを調査し、バグを見つけて修正するもので、ロボットという夢からも縁遠い地味な仕事だ。けれど「この時代に、マイクロフィッシュ(マイクロフィルムの一種)で保存されていた偉大な先人が書いたソースコードを読むことができたのは、大きな財産でした」という。
おとなしく仕事をこなしていた米持さんが本領を発揮し始めたのは、3年ほどたってからだった。
「4年目に、ディスク障害でデータが取り出せなくなってしまったお客さんがいました。そのお客さんのために、昔でいうユーティリティーソフトのようなものを書いてダンプアウトさせてデータを復旧させたら、ものすごく喜ばれました。あ、プログラムを書くってこんなに喜ばれることなんだ、と思いました」
翌年には、メインフレームの運用作業を自動化するソフトウェアを自力で開発し、提供し始めた。すると評判が評判を呼び、米持さんはサービス部門に在籍しながら、自然とプログラム開発に専念することになった。「やっぱり何かを作りたいんですよ。自分のどこか奥底に、『何かを作って人にあげる』というのがあって、やめられないんですよね」と振り返る。
そうして13年たった。インターネットの普及を背景に企業システムにも徐々に変化の波が押し寄せていた。米持さんは、自宅では大型PCを購入してLinuxをビルドし、Webサーバを立てたりしていた一方で、「Web時代の到来を見据えて、社内で勝手に研修を開催していました」という。
そんな彼のウワサを聞きつけたソフトウェアグループのマーケティングマネジャーに社内公募の形で引き抜かれ、Javaに始まり、WebサービスやSOA、IBMが買収したRational、そしてWeb2.0と、さまざまなテクノロジーのエバンジェリストを担うことになった。
あくまで「興味のあること、その時やるべきことへと、取り組むものをどんどん自分で変えていっていました」と米持さんは言う。ただ、上司からすると、勝手に隣の事業部のプロダクトを背負い込み始める、部門長泣かせの存在だったろうとも振り返る。
クラウドサービス事業部に行ったのも似たようないきさつからだ。東日本大震災が起きた日の夜、支援としてクラウドサービスのリソースを提供すべきだと隣の事業部長に直談判に行き、「やる以上は言い出しっぺのお前がやれ」と言われて担当することになったという。
こうしてさまざまな業務を経て最終的にたどり着いたのが、テキストマイニングを行う「IBM Content Analytics」、今でいう「Watson Explorer」だった。昔からの夢だった人の言葉を処理し、理解するコンピュータ、HAL 9000に一番近い技術だ。だが、当時の仲間が退職してしまったこともあって長くは続かず、途方に暮れていたところに届いたのがIBM東京基礎研究所からの誘いだった。
「IBMの研究所なんてドクターしかいないところで、高専卒の僕なんて行けないと思っていたんですよ」と米持さん。米国のWatson研究のトップとの面談でも「僕、高専卒で大卒の学歴がないんですけれど」と伝えたが、帰ってきた言葉は単純明快。「So what?」(それがどうした。やるの、やらないの?)だった――。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「2001年宇宙の旅」の「HAL 9000」を、2019年のテクノロジーで解説しよう
スピルバーグが、手塚治虫が、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、2019年現在どこまで実現できているのだろうか?――映画や漫画、小説、テレビドラマに登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで徹底解説する「テクノロジー名作劇場」、第5回は「2001年宇宙の旅」だ - 「バビル2世」のコンピュータを、2017年のテクノロジーで解説しよう
手塚治虫が、スピルバーグが、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、2017年現在どこまで実現できているのだろうか?――「鉄腕アトム」や「2001年宇宙の旅」に登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで徹底解説する「テクノロジー名作劇場」、第1回は、横山光輝先生の「バビル2世」だ! - 「ナイトライダー」の「K.I.T.T.」を、2017年のテクノロジーで解説しよう
手塚治虫が、スピルバーグが、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、2017年現在どこまで実現できているのだろうか?――映画やテレビドラマに登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで徹底解説する「テクノロジー名作劇場」、第2回は「ナイトライダー」だ - 「わたしは真悟」の「モンロー」を、2018年のテクノロジーで解説しよう
手塚治虫が、スピルバーグが、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、2018年現在どこまで実現できているのだろうか?――映画や漫画、小説、テレビドラマに登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで徹底解説する「テクノロジー名作劇場」、第3回は楳図かずお先生の「わたしは真悟」だ - 「火の鳥」の「ロビタ」を、2018年のテクノロジーで解説しよう
スピルバーグが、横山光輝が、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、2018年現在どこまで実現できているのだろうか?――映画や漫画、小説、テレビドラマに登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで徹底解説する「テクノロジー名作劇場」、第4回は手塚治虫先生の「火の鳥」だ