エンジニアに学歴は必要ですか?:おしえて、キラキラお兄さん(5/5 ページ)
僕は「自由」なわけじゃない、「自分勝手」なだけだ――HAL9000に憧れてIBMに入社し、同社初の“ドクター未満”で研究所所員となった米持幸寿さんは、自身のキャリアを振り返って、こう評す。人に恵まれ、運に恵まれ、何より努力を重ね、やりたいことを実現してきた米持さんの挫折と、過去の自分への恨みを晴らした出来事とは。
「自由」ではなく「自分勝手」にやってきただけ
米持さんは、自分の経験に基づいていえることが3つある。
1つは、お金と家族と健康という、最低限の生活を守るのが重要だということ。これまでほとんど病気をせずに来た米持さんだが、その秘訣(ひけつ)は睡眠を十分に取ることだそうだ。
2つ目は、自由奔放に見える米持さんのイメージからは意外だが「最初の3年は我慢して、4年目くらいから自分勝手にやる」ということ。
「たぶん誰でも、新しいところに入った時に『こんなはずじゃなかった』って思うはずです。けれど2年か3年は我慢しておとなしく言われたことをきっちりやって、その部門の中で『こいつはできるやつだ』と思わせるようにしないと、自分のやりたいことも何もできない」
自分勝手をやるには、周りに自分の実力を認めさせなければならない。また「郷に入っては郷に従え」ではないが、普段みんながどういうふうに仕事をしているかを身に付けることが重要だ。
そしてもう1つは「世の中、自分の知らないことばかり」ということだ。自分の専門以外の分野はもちろん、自分の専門分野でも知らないことの方が多いし、逆に自分が知っていることは他の人が知らないことが多い。いろんな人が集まる意味はそこにあるという。
話を聞けば聞くほど、興味の赴くまま自由にやってきた、と表現したくなる米持さんのキャリア。けれど、「僕は自由なわけではなく、自分勝手なだけです」と米持さんは言う。
なぜなら、誰かに「自由にやっていいですよ」といわれるまでもなく、やりたいこと、必要だと思うことを勝手にやってきたからだ。「言われていることだけやっていればリスクは低いけれど、何も生み出さないし、何も打破できないでしょう。自分はリスクをとって勝手にやっています」との論だ。逆に言えば、誰かにやれと無理強いされるまでもなく、ただ自然とやっていただけだという。
時には、自分がやりたかったわけではない仕事をすることもあったそうだ。けれど、いずれやりたい音声対話技術につながる何かがあるかもしれない、という思いで続けてきたこともあるという。
これは、エンジニアとしての仕事を続けるかどうか、悩んでいる人には参考になる考え方かもしれない。
「IBMの同期に、エンジニアとして入社したけれどやめた人がいました。その人は、『エンジニアをやれ』と言われたからやっていたのであって、『やめろ』と言われてもやる人ではなかったわけです。逆に、たとえ『プログラミングをやめろ』と言われてもプログラムを書かずにいられない人は、エンジニアをした方がいいと思います」――米持さん自身がまさにそうだった。
こんなふうに自分勝手にやっていたら、不思議と人の縁も付いて回る。「僕は、自分がすごい人というよりも、周りにすごい人がいる人、だと思っています。そういう人に巡り会えた、そこがありがたかったなと思います」という。
「人生の波を10年単位で見ているんですけれど、落ち込んでいる時に限って誰かがそこを救ってくれるんです。自分勝手にやりたい放題、楽しくやっているときに知り合いがいっぱいできて、その後、しゅーんと落ち込んだ時にその人たちが救ってくれる、そういう感じです」
「IBMでHAL 9000を作りたい」という夢を抱いてから数十年。IT市場や技術の変化もあって、「IBMで」という部分こそ変わってしまったかもしれないが、大学の研究と自身の事業を通じて、「HAL 9000のように人と自然言語で話ができて、仕事のパートナーになるようなシステムを目指しています」という米持さん。ゴールまでの10年に期待したい。
手塚治虫が、スピルバーグが、そして全世界の子どもたちがあのころ夢見たテクノロジーは、現在どこまで実現できているのだろうか?――映画やテレビドラマに登場したコンピュータやロボットを、現代のテクノロジーで米持さんが徹底解説する「テクノロジー名作劇場」も、ぜひご覧ください。
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