ペーパーレスの展開に1年以上かける企業は時代遅れ、ガートナーが日本のデジタルイノベーションに関する展望を発表:電子化に終始するDXは大きなリスク
ガートナー ジャパンは、日本のデジタルイノベーションに関する展望を発表した。デジタルトランスフォーメーションが本来のデジタルイノベーションではなく、単に電子化やクラウド活用に終始するようでは大きなビジネスリスクを生み出すとしている。
ガートナー ジャパン(以下、ガートナー)は2021年3月10日、日本のデジタルイノベーションに関する展望を発表した。デジタルトランスフォーメーション(DX)が本来のデジタルイノベーションではなく、単に電子化やクラウド活用に終始するようでは大きなビジネスリスクを生み出すとしている。
今回の展望は、DXや電子化への取り組みに関して2つの点について論じている。
DX戦略を明確にしないと競合企業にシェアと成長機会を奪われる
1つ目は、「自社のDX戦略が実際に何を意味するものかを明示していない企業は、競合企業にシェアと成長機会を奪われる」という分析だ。多くの企業で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応としてDXを進めようとする機運が高まっている。テレワークを拡大せざるを得ない状況に置かれ、ペーパーレスや脱印鑑といった電子化の取り組みが進んだ。
だが、ガートナーは「社会全体がデジタル化に向かう中で、企業が進めるDXの意味合いが、新規ビジネス開発などのデジタルイノベーションから、ペーパーレスなど電子化やクラウド活用のような足元の要求を満たすための取り組みに偏るケースが増えている」と指摘する。
ガートナーのアナリストでバイス プレジデントを務める鈴木雅喜氏は次のように述べている。
「世間で言われているDXは、紙を使った処理の電子化やレガシーマイグレーションを指す場合と、デジタルイノベーションを指す場合、あるいはその両方を指す場合が混在している。それぞれの取り組み方や成功率は異なり、必要となる人材やスキルも大きく変わる。これら2つを明確に分けて考え、取り組むべきだ。現在は電子化が広がっているが、デジタルイノベーションに向けた取り組みを弱めるべきではない。3〜5年後には、DXに成功した企業と成功しなかった企業の差は今よりも大きくなる。中長期的なDXの取り組み方針を明確にすべきだ」
ペーパーレスの展開に1年以上かける企業は時代遅れ
2つ目は「ペーパーレスの展開に1年以上かける企業は時代遅れになる」という点だ。COVID-19の影響で、企業でペーパーレス化や電子化が一気に進んだ。ペーパーレスに関する技術は必ずしも新しいものではないのに、これまでペーパーレス化が進まなかった最大の原因は、企業の「従来のやり方を変えない組織文化や人の考え方」だとガートナーは分析する。
ガートナーは「昔ながらの進め方や既存の紙でのやりとり、対面式の人のつながりを堅持するといった、一見完成度が高いように思えるビジネス成果を生み出す流儀を変えない企業は生産性とスピードの面で大きく立ち遅れる」と指摘する。ペーパーレス化に当たってクラウドを導入する場合、スモールスタートすれば3カ月程度で導入できる。だが、実際にはまず提案依頼書を作り、何年もかけてクラウドに一気に大規模移行しようとするケースも見られる。
鈴木氏は次のように述べている。
「技術活用が進んでいる企業と、目前の対応を重視しすぎて結果的に後れを取った企業の差が顧客や取引先から見ても明らかになれば、企業のブランドイメージが損なわれ、顧客満足度や企業への期待感の低下をもたらす。技術の導入だけでなく、社内慣行や組織文化、人の考え方を変えることが重要だが、その解決には時間がかかる。一方、COVID-19によって、日本のDXが新たな局面を迎えている。感染拡大前の状況にただ戻せばよいといった考え方は少数派となり、かつての常識がもはや通用しないことに多くの人が気付いている。こうした中、DXに向けた取り組みとして、目前のペーパーレス化や脱印鑑はもちろん、将来のビジネス改革や新事業開発といった面でも変化を求め、舵を切るのにまたとない機会が訪れている」
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