検索
連載

業績の悪い社員を解雇して何が悪いんですか?「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(93)(2/3 ページ)

昭和の経営者は、社員のことを一生面倒見るつもりで雇用してきたじゃないか。それなのに、たった数年評価が低いだけで解雇だなんて……!

Share
Tweet
LINE
Hatena

業績評価が持ち直した矢先の解雇

 原告社員の成績は、被告会社の期待に対して十分ではなかったようだ。プロジェクトマネジャーとして担当したプロジェクトは大幅なコスト超過となり、その存続が危ぶまれる状態から何年間も回復できずにいた。そこには、原告社員のプロジェクトマネジャーとしての資質、技術力、コスト管理能力などが影響していたことは提示された証拠からも見て取れるし、裁判所も、ある年において最低の業績評価を受けた原告社員の力不足は否めないとする意見を述べている。

 もっとも、それは担当したプロジェクトの難易度が非常に高く、ある意味、誰がやってもコストの維持やスケジュール管理などが難しいものでもあったともいえるようだ。被告会社は、仕事自体は簡単だったと反論しているが、実際は高度の技術知識やコミュニケーション力が必要であり、「プロジェクトのコストを年間で48〜60万ユーロ削減する」という被告会社から課された目標も非常に困難なものだったことは裁判所も認めている。

 そして、原告社員の業務成績は改善傾向にあった。これは被告会社が評価の低い社員に対して行っているPIPが奏功したこともあったようで、原告社員に業績改善のためのさまざまな指示(各種のスキル知識の獲得やコミュニケーションの改善、社内の有識者の協力を仰ぐことなど)を行ったところ、その後の数年間、社員の評価は4段階中の下から2番目に上がっていた。

 これを「改善の兆し有り」と見るか「Too Late」と見るか、そして下から2番目という評価が解雇に値するほどひどいものなのか、その辺りは就業規則にも明確には書かれていない。つまり原告社員が解雇に相当するかどうかは、そのときの被告会社の判断によるものだった。

 そんな状態での突然の解雇通知に原告社員は納得がいかない。そもそも、解雇以前に自分に対する低評価自体に納得していなかった原告社員は、上司との面談を「能力の低いあなたに面談などしてほしくない」と拒んだり、人事部との面談をも体調不良や夏休みを理由に伸ばしていたりなどしていた。褒められた態度ではないが、これも業績評価や解雇通知への強い不満の表れであろう。

 一方で、被告会社はこの時期人員の削減計画を進めていた節があり、「年齢が高く、給与もそれなりに得ているプロジェクトマネジャーが、その標的になったのではないか」という原告社員の主張も、ありそうな話ではある。ただ、確かな論証がないことから、裁判所はこの点を判断に織り込んでいない。

 いずれにせよ、成績不振の原告社員を被告会社の判断で解雇できてしまうのか、それとも業績評価改善の兆しが見える社員には解雇されるいわれなどないのか、裁判所の判断を見てみることにする。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る