みんな、ありがとう! これからは技術者として名をはせていけるよう精進するよ(Coinhive事件最高裁解説 後編):刑法感覚のないセキュリティエンジニアと技術感覚のない警察・検察との悪魔合体(3/3 ページ)
Webサイトに設置した「Coinhive」が不正指令電磁的記録保管罪に当たるとされたWebデザイナーのモロさんは、2022年1月、最高裁判所で逆転無罪を勝ち取った。裁判の争点は何だったのか、同様の事件を今後起こさないために必要なことは何か、主任弁護人と弁護側証人が解説する。
今後必要なのは「人材交流」と「立法議論への参加」
エンジニアは、そして警察や検察は、今回の判決から何を学び、どんな取り組みを進めていくべきだろうか。
平野弁護士は官民の「人材交流」を挙げた。警察も、広くは官公庁全体がサイバー人材を募ってはいるものの、なかなか魅力的な待遇やキャリアパスが用意されているとは言い難い。
「警察や検察はキャリアシステムが硬直化しており、他業界から柔軟に人材を取り入れる風潮がほとんどありません。この壁を突き破り、IT業界やその他の業界から人材を取り入れ、他の業界の常識や知識を取り入れ替え変わっていく姿勢を見せることが重要だと思います」(平野弁護士)
高木氏は、この先また新たな立法措置が検討されたり、新たな罰則が設けられたりするような場合、同じことが繰り返されないよう「情報技術と法律の両面を踏まえて意見し、議論していく体制を取る必要があるでしょう」と述べた。技術を理解した人物が議論に関わり、「こういう場合はどうなるのか」と具体的に指摘していくことが重要だという。幸い、「今では情報技術に詳しい弁護士さんもたくさんいるので、だいぶ良くなってきていると思いますが、それでもどう人材を確保していくべきかを考えていく必要があると思います」(高木氏)
そして、無用な萎縮が生じるような立法をすべきではないと繰り返し主張しつつ、警察と関わり合いを持つようなセキュリティエンジニアも、「何が犯罪か」「直罰規定がある行為は何か」といった、刑法の感覚や基本知識を理解していく必要があるとした。
セミナーの最後に、逆転無罪を勝ち取ったモロさんがあいさつに立ち、弁護団、そしてクラウドファンディングやTwitterを通じて裁判を支援してくれた人々に感謝の意を示した。
「この事件にこだわらず、何の影響もなかったかのように過ごしていけるのが一番いいのかなと思います。これからは技術者として名をはせていけるよう精進していきたいと思います」と述べ、1000人を超えるオンライン視聴者から激励とねぎらいのコメントが贈られた。
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