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入館拒否や帰宅命令までしないと安全配慮義務違反になるんですね「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(101)(3/3 ページ)

個別面談し、業務も軽減し、医者との面談も行い、実家を訪問して治療方針の進言もしてきました。でも、従業員は病気になってしまいました。これ以上、どうすればよかったのでしょうか……。

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安全配慮義務は雇用者の努力だけでは果たせない。

 ただ一方で、労働者の安全を雇用者だけの努力で守り切れない場合も多くあるのではないかとも考える。

 私はいままで幾つもの企業や官庁で仕事をしてきたが、上司が部下に残業を強制するよりも、上司は早く家に帰ってくれといっているのに部下が深夜作業を連日行っているケースの方が多いように感じる(無論、職場によると思うが)。

 もちろんこうした場合でも、真因を突きつめれば、会社が現場の状況を軽んじて新たな仕事を受けてきたり、必要な人員を雇用してくれなかったりということだったりもするし、私生活を投げ打ってまで雇用者に滅私奉公することを美徳とする(ときには人事評価に影響する)風潮がいまだに残る職場もあるからかもしれない。

 しかし、そうした職場環境に異を唱えてでも、自らの健康と生活を守る責任は労働者にもあると思う。

 「こんなにたくさんの仕事は受けられない」「残業はできない」と労働者が声を上げなければ、雇用者は案外気付かないものだ。前述した通り、労働者の安全を確保するのは雇用者の義務だが、労働者の苦しみを雇用者が逐一把握するのは、現実的に難しい。心身の疲労や苦しみを積極的に訴えること、何らかの配慮を求めることは労働者ができる雇用者への協力であり、これなしには少なくともソフトウェア業界において、雇用者が安全配慮義務を果たすことは難しいと感じる。

 また、実際には明日以降でもできる仕事を今日中にやってしまいたいと作業を続けること、プログラミングなどについつい夢中になって時間を忘れてしまうこと、残業手当が欲しくて会社に残り続けることもあるだろう。いずれも、その気持ちは分からないでもない。しかし、こうした行為を続けることは、自身の健康を損ねるだけでなく、雇用者にも、そしてそこで働く同僚や上司にも迷惑であることを、労働者は心にとどめるべきではないだろうか。

 他の業種でも同じだが、ソフトウェア開発の場合は特に「従業員の安全は会社と従業員が相互に協力をして守るべきものであり、またそうしなければ守れないものである」と認識すべきだと私は考える。

細川義洋

細川義洋

ITプロセスコンサルタント。元・政府CIO補佐官、東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまでかかわったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わった

個人サイト:ITプロセス改善と紛争解決

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