今日の気分を“スコアリング”できたらいいのに:Go AbekawaのGo Global!〜Aaron Bramson(後)(3/3 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。前回に引き続き、GAテクノロジーズのAaron Bramson(アーロン・ブラムソン)さんにお話を伺う。同氏が語る「サイエンス」と「エンジニアリング」との違いとは。
今、注目は「頭の中のイメージ」をスコアリングすること
現在注目しているのは「エリアの情報」です。「(日本語で)県、市、区、町名」などの情報はありますが、例えば「表参道」の情報は得られません。表参道は行政上の区画ではなく単なる道路の名前なので、情報がないのです。しかし、皆の意識の中には確実に表参道というエリアの特徴、雰囲気などのイメージがあります。ですから、表参道に関連したデータを確定して、そのエリアがどんなエリアかが分かる情報を収集できれば、どんなエリアかをより詳しく理解できると考えています。渋谷駅と表参道駅は隣同士ですが全く違うエリアであることも分かります。このことを最近、ある学術誌に投稿しました。
阿部川 私たちは、「何を探しているのか」ということも曖昧で知らないままに、何かを探していますよね。
アーロンさん それこそサイエンスです。私たちは、見つけたいものが何か正確には分からないまま研究をする。それが分かれば次はエンジニアリングの出番です。私自身、この先どのような結果が出るかは予想できません。リサーチの前に答えがあるわけではありませんから。ですから冒頭、私は科学者でエンジニアではないと申し上げました。私は科学的な結果とプロトタイプを提示し、エンジニアリングの部隊はそれを基にアルゴリズムを作ったり、処理速度を速くしたり、ユーザーインタフェースを良くしたり、サービスへの実装を助けたりする活動を続けるつもりです。
「はっきりとした答えが分からないまま、完成を目指す」というのはエンジニアの世界ではよくあることです。だからこそ仮説検証、振り返りをするわけですが、言われてみれば確かにそれは「仮説を立て、研究し、実証する」というサイエンスの動きと同じです。2つの異なる視点を組み合わせる必要があるわけですから、難航するプロジェクトが多いわけですね……。
編集鈴木 もう少し長期的にやってみたいことはありますか。
アーロンさん (日本語で)研究の中でやってみたいことは、もちろんあります。今まで地理空間のデータやネットワークを集めてきましたので、まずはそれをしっかり分析したいです。人間関係データもめちゃくちゃ興味があります。食べログのようなレストランのレイティングやトリップアドバイザーのデータと「Twitter」のデータを一緒に分析するなどです。例えばレシピもインテリアも同じ2つの店があり、1つは渋谷区に、1つは和光市にあるとします。しかし2つの店の評価が違う。それはどうしてか。よくあることだけど理由ははっきりしません。ある意味、ミステリーですよね。
和光市のお店の評価が高いとすると、店内が広いとか立地が良いなどの点が評価されているのかもしれない。逆に渋谷区はエリア全体がおしゃれなイメージだから、インテリアがちょっとおしゃれなぐらいでは評価が高くならないのかも、などいろいろ考えられますよね。もしかしたら物件の名前も関係しているかもしれません。物件にはよく土地の名前がついています、本当にそれがいいのか、あるいは施工主が有名な会社であればより良く物件の手入れができているだろうからそちらがいい、など、いろいろ可能性が考えられますが、どれが正しいのでしょうか。このような分析は誰も手を付けていないと思うので、ぜひやってみたいですね。
自分が好きな分野以外にトライして
阿部川 日本の読者、特にエンジニアに対してメッセージをお願いします。
アーロンさん 日本では、(日本語で)「使える人」という表現があります。しかし大事なことは、「誰にとってその人が使えるか」です。日本の大学は、STEM(S:Science、T:Technology、E:Engineering、M:Mathematics)の分野に秀でていて、プログラミングやコンピュータの経験はそこそこといった印象ですが、私からのアドバイスとしては「大学にいる間に、(STEMやプログラミングなどに限定せず)少しでもいいので、自分が好きな分野以外の分野にトライしてみてください」です。専門分野以外の分野を学ぶことは非常に有益で、あなたを“使える”人にします。
日本の多くの企業は研修を行い、自社のビジネスモデルや社史を徹底して教えます。だからこそ、入社した途端に使える人であれば、大きなアドバンテージになるはずです。それは、「『Python』『Ruby』『Apache Spark』を知っています」というよりももっと大きな違いを生み出します。コンピュータ言語を知っていることやコンピュータサイエンスなどを学びましたというのは、ある意味最低限のことですから。
ですからどうぞ、自分が情熱を持って自らやれるものを作り出してください。仕事を探すときも、会社から選んでもらうのではなく、自分がやれることで会社を選ぶようにしてください。「AWS」(Amazon Web Services)など技術に関する認定書を取得する人も多いと思いますが、証明書を得るのを目的にするのではなく、実際にそういった技術を使いこなせるようになってほしいのです。単に「何かを暗記しました」ではなく、少なくてもいいので本当に実務に通用する知識や技術を学んでください。そして楽しく学んでください。楽しむことが大切です。
例えばApache Sparkや「SQL」は現在も需要が高いし、「Hadoop」サーバを使えることも大切です。ただ、多くの大学ではそれらを教えてくれません。ビッグデータを扱うには、Apache SparkとHadoopが必要であることは、就職してみて分かることです。そこにはアカデミックと実践の間のギャップがあります。大学院生の時に、企業と共に何かをした経験があれば、このようなことが分かります。
それぞれの企業には、それぞれの企業が主に使っている技術があります。それを見極めることが重要です。銀行のシステムであれば「COBOL」といったように。COBOLを教えている学校は少ないと思いますが、オンラインなら教材を見つけられます。必ず方法は見つかります。ですからやりたいことを見極めて、積極的に学んでほしいと思います。そうすれば、すぐに“使える”人になれると思います。
編集鈴木 では最後に、アーロンさんの野望を教えてください。
アーロンさん えーと、えーと、私がデザインした地下足袋がABCマート全店などで売られているのを見られたら、めちゃ感動します。普通に私が街を歩いていたら私の地下足袋を売っているのを見つけたりするのが夢です。時々、私の地下足袋を履いている人に道で会います。「あー、My shoes! My shoes!」となります(笑)。
インタビューを終えて Go’s thinking aloud
「複雑系」が大学というアカデミックな組織の中で理解されないことにいら立ちを覚えた過去を冗舌に語ってくれた。それは「象牙の塔」にばかり閉じこもっている学者への批判ともとれた。しかし人のつながりは面白い。ゲント大学、理研、シンガポールでの仕事など、それらの研究の機会は、全てワークショップやカンファレンスでの人の出会いが運んできてくれた。大学ではなく、社会が彼の能力を欲した。加えて「今まで誰もやったことがない」ことこそ、アーロンさんの真骨頂だろう。地下足袋のビジネスもまだまだこの先がありそうだ。
阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)
アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、インタビュアー、作家、翻訳家
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行う他、作家、翻訳家としても活躍中。
編集部から
「Go Global!」では、GO阿部川と対談してくださるエンジニアを募集しています。国境を越えて活躍するエンジニア(35歳まで)、グローバル企業のCEOやCTOなど、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。取材はオンライン、英語もしくは日本語で行います。
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