「電子帳簿保存法」の改正内容と、フリーランスがやっておくべきこと:企業内弁護士が監修
2022年に改正された「電子帳簿保存法」の、「電子取引のデータ保存」の猶予期間が2023年12月で終了します。法改正によりどのような影響があるのか、フリーランスエンジニアはどのように対応したらいいのか、分かりやすく解説します。現在フリーランスで活躍しているエンジニアの皆さん、今後フリーランスになることを視野に入れている皆さん、そしてフリーランスエンジニアとビジネスを行っている皆さん、参考にしてください。
こんにちは。「働き方の新しい『当たり前』をつくる」を事業ミッションに掲げ、ITフリーランスと企業のマッチングサービスを展開する「ギークス」です。
「フリーランス保護新法」「インボイス制度」とフリーランスエンジニアに関係する法律を解説してきました。今回は、企業内弁護士としてギークスの法務領域を担っている恩田(経営管理本部 コーポレートデザイン部 法務総務チームリーダー)監修のもと、2022年1月に改正された「電子帳簿保存法」、特に2023年12月までの猶予期間が設けられている「電子取引のデータ保存」に関して、フリーランスエンジニアに関わる視点で解説していきます。
1 電子帳簿保存法とは
企業、個人を問わず、事業活動を行った場合は、確定申告およびこれに基づく納税が必要です。そのためには申告内容の裏付けとなる資料を作成、整理する必要があり、そのような書類は広く「帳簿」と呼ばれています。企業であれば経理部門が作成を担当することが多いかと思いますが、フリーランスの場合はご自身で作成、整理します。
「電子帳簿保存法」(正式名称「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」)は、「納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため」に、「国税関係帳簿書類の保存方法」について特例を定めるものです(第1条)。
なお、この法律は、詳細を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則」(以下単に「規則」といいます)にて定めていますので、あわせてご確認ください。
電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(e-Gov)
税金の申告や納税などのために作成される帳簿(例:仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、売上帳、仕入帳)などには多くの種類、形式があり、紙で保存する必要があります。しかし、近年はこれらの書類をそもそもデータ上でのみ作成、保存するケースが多くなり、わざわざ紙で保存しようとする場合、印刷や保管コストを要することになります。
そこで、電子帳簿保存法では大きく3種類に区分して、「電子」での保存を可能とするルールを定めています。それぞれ細かなルールがありますが、いずれも、「改ざん防止」「税務署による適切な調査を可能とする」という観点が重要な軸となっています。
例えば、紙で保存されたものの場合、これに改ざん(修正や追記)がなされても、比較的容易に見抜くことができます。しかし電子データの場合は、さまざまな手法で最初からそのような記載であったかのような書類を作成できてしまいます。
また、紙で保存されている場合(きちんと整理されていることが前提ではありますが)、税務署が必要な書類を比較的容易に閲覧、確認できますし、持ち帰って精査することも可能です。ところが、電子データの場合には、確認したい書類を発見するには、その書類がどこに、どのような形式で保存されているのかを知らなければ困難ですし、データのままでは閲覧の方法も限られることにもなりかねません。
電子帳簿保存法は、これらに配慮しつつ、電子データでの保存ルールを細かく定めているのです。
2 3つの保存方法
電子帳簿保存法は、以下の3種類に分けて保存ルールを定めています。
- 電子帳簿等保存
- スキャナ保存
- 電子取引データ保存
電子帳簿等保存
「電子帳簿等保存」とは、原則として紙で保存する必要がある国税関係帳簿、国税関係書類について、最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成した場合に、そのままデータによって保存することができるというものです(第4条1項・2項)。つまり「税法上保存が必要な帳簿、書類をPCなどで作成した場合は、プリントアウトせずにデータのまま保存することができる」という仕組みです。
スキャナ保存
「スキャナ保存」とは、取引の相手先から紙で受け取った請求書などについて、これをスキャンしたものでの保存が認められる制度です(第4条3項)。
電子取引データ保存
電子帳簿等保存とスキャナ保存は義務ではなく「実情に応じてこちらを選択してもOK」「ただし、その場合はルールを守ってください」というものです。
他方で、「電子取引データ保存」は義務となっており、今後は、電子取引により授受した取引情報(注文書、領収書などに通常記載される事項)を電磁的記録により保存する必要があります(第7条)。
ここからは、電子取引データの保存にしぼって説明します。
3 電子取引データ保存の概要
「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引のことで(第2条5号)、いわゆるEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)取引、インターネット上のサイトを通じて情報を授受する取引などをいいます。
また「取引情報」とは、取引に関して受領し、または交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。
電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含みます)を行った場合も、電子取引に該当します。電子メール本文に取引情報が記載されている場合はその電子メールを、電子メールの添付ファイルにより取引情報(領収書など)が授受された場合はその添付ファイルを、それぞれ、HDD、コンパクトディスク、DVD、磁気テープ、クラウド(ストレージ)サービスなどに記録、保存することが必要です。
4 求められる要件
本稿では、2024年1月以降に対応する場合を前提に、可能なかぎりシンプルに説明します。
例えば、1人で活動するフリーランスエンジニアが、取引先の企業から、PDFの請求書を電子メールに添付する形で受け取ったとします。
この場合、請求書などを保存する専門のソフトウェアを購入、使用するのであれば要件を満たすことは比較的簡単です。ところが、専用のソフトウェアはそれなりに高価なので、年間の取引件数(やりとりする請求書などの数)がそこまで多くない方々にとっては負担が大きくなります。
そこで、フリーランスの皆さんの実情に合わせた緩和措置が用意されています。
まず、基本的な要件はおおよそ以下の通りに整理されます(フリーランスエンジニアに関連が薄いと思われる内容は省略しています)。
- 改ざん防止措置(タイムスタンプの付与等)(規則第4条1項)
- 見読可能装置(ディスプレイ、プリンタ)の備付けなど(規則第2条2項2号、第4条1項)
- 検索機能の確保(規則第2条6項5号、第4条1項)
それぞれ説明していきます。
1 改ざん防止措置
一見ハードルがかなり高く思えます。なぜなら、データが改ざんされていないことを証明するためのタイムスタンプを付与することは難しく、結局、専用ソフトウェアを導入するしかないからです。
ところが、「改ざん防止措置」には幾つかのパターンが認められており、その中で最も簡単に充足することができるのが「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」の作成です。
シンプルにいえば、「事業上受領した電子データを改ざんしません」ということを宣言し、そのためのフローを記載した規程を作成すれば、「改ざん防止措置」を行っていることになるということです。しかも、テンプレートが国税庁のWebサイトで公開されており、これをベースにそれぞれの実情に合わせて記載していけばよいので、負担は大きくありません。
テンプレート:参考資料(各種規程等のサンプル)(国税庁)
2 見読可能装置
ディスプレイは当然備え付けられているものと思われますので、問題となるのはプリンタの備え付けかと思われます。
業務を行う自宅などにプリンタを置くことが求められますが、税務調査があった時点でプリンタを常設していない場合であっても、近隣の有料プリンタ(自宅近くのコンビニなど)からすぐにプリントアウトできる環境であれば、問題ないとも考えられています。
3 検索機能
原則として以下の要件を満たすことが求められています(規則第2条第6項第5号)。
- 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索の条件として設定することができること
- 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
- 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること
一見複雑そうではありますが、例えば、「Microsoft Excel」を使用して、取引年月日その他の日付、取引金額、取引先の情報を入力した一覧表を作成し、入力された項目間での範囲指定や2項目以上の組み合わせでの抽出ができるようにしていれば、「1」〜「3」全ての機能が満たされていると考えられています。
この方法により、データを保存する場合には、Microsoft Excelの一覧表に通し番号を付け、請求書データなどのファイル名にも同じ通し番号を付けて対応させるなどの方法により、一覧表からデータを検索できるようにする必要があります。
なお、請求書などの適切な整理、管理のため、上記のような方法を採ることが推奨されていますが、それでも負担が大きいという方のために、次のような緩和措置も用意されています。
まず、税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、「2」と「3」を備えることが不要となります。
さらに、売上高が5000万円以下の事業者、または、電磁的記録を出力した「書面」を取引年月日その他の日付および取引先ごとに整理されたものを提示、提出できるようにしている事業者については「1」を含めて全ての検索機能の確保の要件が不要となります。
フリーランスで活動しているエンジニアは、この「売り上げ5000万円以下」に該当するケースが多いと思われますし、請求書などについて取引先ごとに年月日順に紙で整理されていれば、ここでいう「検索機能」については、特段の対応は不要ということになります。
もちろん、税務調査時に「このデータを提出してください」といわれた際に、すぐに提出できるようにデータを整理しておくことが前提です。
以上を前提として、フリーランスエンジニアの皆さんは、以下のような対応によって電子帳簿保存法の要件を満たすことができると考えられます。
- 受け取った請求書データ(PDF)を保存する際、そのファイル名を規則性をもった内容に変更する
- 「1」の内容を記載したMicrosoft Excelの一覧表を作成する
- 「取引の相手先」や「年月」などに分類してフォルダに分け、保存する
- 「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を作成する
- 税務職員からダウンロードの求めがあった場合、「1」のデータを提出する
規則性をもった請求書データの保存例
通し番号1番 2023年9月15日にギークス株式会社から受領した11万円の請求書
→「1_20230915_ギークス(株)_110000」
このような内容であれば、かなりハードルが低くなったと感じるのではないでしょうか。
5 最後に
電子帳簿保存法は、その実施内容や時期について改正が重ねられており、制度・要件がかなり複雑な状況となっています。必要な対応はそれぞれの具体的事情に大きく左右されますので、詳しくは税理士などの専門家にお尋ねください。
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