「床で寝る」って日本の人に言ったら、びっくりされた:Go AbekawaのGo Global!〜アゼストの張さんfrom中国(後)(2/2 ページ)
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回もアゼストでデータの分析や機械学習の研究などに従事する張 志穎(チョウ・シエイ)さんにお話を伺う。業務経験を積み、少しずつ日本での仕事にも慣れてきた張さんが「日本人はすごいな」と思うところとは。
将来は「気軽に相談してもらえる人」になりたい
阿部川 今後やりたいことは何ですか。
張さん 機械学習をもっとやりたいですね。後、マネジメントにもチャレンジしてみたい。
阿部川 いいですね。では、少し遠い将来、例えば10年後にはどんな感じになっていたいでしょう。
張さん そのくらいになると後輩がいると思うので、後輩から見て「何でも相談できる人」になりたいです。もし困ったことがあったら、いつでも気軽に相談できる人に。
阿部川 きっと、そういうロールモデルがアゼストにはいるんですね。こういう人になりたいという人が。
張さん そうですね。
阿部川 普段、日本人と仕事をする機会が多いと思いますが、印象に残ったことなどはありますか。
張さん 「仕事を間違えないようにする努力」が素晴らしいと感じています。私も今、ダブルチェックなどの“間違えないための確認方法”を勉強中です。
阿部川 なるほど。しかし確認で時間をかけ過ぎてしまうというケースもあると思います。ちょうどいいバランスで確認するためにはどうしたらいいのでしょうかね。
張さん 私が1人で担当しているものでしたら、まず自分で確認し、その結果を上長に確認してもらってから先方に送る、という流れでやっています。グループでやるときは、みんなで一緒に討論して、「このような方法、方向性でいきましょう」と決めてから仕事を始めますね。
阿部川 恐らく、その仕事のプロセスが皆さんに徹底されているんでしょうね。しつこく確認するのではなく、程よく。しかし、ダブルチェックなんて日本独自のものかもしれないですね。
張さん でも仕事を間違えないようにするためには大切なことだと思います。
阿部川 周りの方はなぜ確認が必要なのかについてもしっかり教えてくれたのですね。恵まれた仕事環境ですね。
張さん はい。私はまだそんなに日本語がうまく喋れないのですが。見守ってくれる皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。私が当たり前だと思っているけれど、他の方から見たら変っていうケースは絶対あると思います。でも皆さん、そういうときも温かく、「日本ではこういうふうに、やっているんですよ」と親切に教えてくれて、本当に感謝です。
阿部川 お話ししていると分かりますが、その親切は、張さんがご自身で手繰り寄せたものだと思います。皆さんをちゃんと引き付ける力があって、努力をしているのが、そのまま出ている感じがします。
例えば不具合の再発防止策として「確認する人を増やす」はあまりよくない手段とされています。ただ、張さんのお話を聞いて、周りに確認しながら進めるのは仕事を覚えたり職場での信頼関係を構築したりという点では有用だと感じました。大切なのは機械的にそれをするのではなく、何のためにやるのか、その作業にどのような意味があるのか(そしてそれが最適な手段なのか)を考えることですね。
「娘」という漢字は中国では「お母さん」の意味
編集鈴木 日本語について、さっき「フランス語は漢字がないから難しい」とお話しされていました。日本語には漢字がありますが、同じ漢字でも中国語と日本語で意味が違うことがあるじゃないですか。それで、失敗したことってありますか。
張さん あります! 「床」っていう漢字です。床は中国語ではベッドの意味です。「床で寝る」って日本の人に言ったら、びっくりされまました。日本で最初にアルバイトしたときも、「この荷物を床に置いてください」って指示されて「えっ?」て思ったこともありました。
もう1つ、「娘」という漢字は、中国では「お母さん」の意味です。中国に旅行してプレゼントを買う際に、「娘のために」と漢字で書いたら、小さい娘さん用なのにおばちゃんっぽいものを選ばれるかもしれません。ちなみに、中国語で「娘」を意味する漢字は、「女儿」です。
編集鈴木 最後にもう1つ。張さんが一押しの中国料理店とメニューを教えてください。「これはもう中国と同じだ」というお店などはありますか。
張さん ありますよ。池袋の「四季香」は本当に本場の料理って感じです。ホームシックになったときに行きます。お勧めのメニューは「鍋包肉(グオバオロー)」です。
Go’s thinking aloud インタビューを終えて
若さで笑顔がはじけた。聡明(そうめい)さは澄んだ目を見れば分かる。輝く瞳の裏側に数学脳が詰まっている。そして日本語も大変きれいだった。語彙(ごい)が豊富なことは感情が豊かなことにもつながる。
張さんは、われわれが物事を「丁寧に確認することが素晴らしい」とおっしゃってくれた。それは素直にうれしい。丁寧さは私たちの強みだ。
だが、私自身はそれも程度の問題ではないかと思っている。(もちろん拙速が良いとも思わないが)65点くらいの出来で走り出し、うまくいかなかったらそのとき直す、くらいの仕事の進め方ができないだろうか。80点で動き出すよりも、皆がそのスピードを是とすれば、きっともっといろいろなことが変わってくるはずだ。IT業界での競争優位はまずはスピード。これを忘れると、企業も人も衰退しか残らないだろう。
阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)
アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 訪問教授 インタビュアー、作家、翻訳家
コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学の学部長、教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行う他、作家、翻訳家としても活躍中。
編集部から
「Go Global!」では、GO阿部川と対談してくださるエンジニアを募集しています。国境を越えて活躍するエンジニア(35歳まで)、グローバル企業のCEOやCTOなど、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。取材はオンライン、英語もしくは日本語で行います。
ご連絡はこちらまで
@IT自分戦略研究所 Facebook/@IT自分戦略研究所 X(旧Twitter)/電子メール
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ローコードで「自分たちに必要なものを自分たちで作る組織」へ 神戸市が“業務継続性”にこだわった理由
2023年2月9日に開催された「@IT ローコード/ノーコード開発セミナー」の基調講演で神戸市役所の小阪真吾氏が「ローコードツールを手にした神戸市が目指すものとは」と題して講演した。ローコード開発ツールの効果を最大限に発揮するための神戸市役所の取り組みについて解説する。 - エンジニアの成長と事業の成長を両立させるには何が必要か Relic流「成長課題の乗り越え方」を解説
既存領域のDXを実現させるため、新たな事業開発に注力している企業は多いだろう。ただ、企業の成長につながる事業を生み出すのは簡単なことではない。特定の誰かが頑張るのではなく、経営層から現場のエンジニアまでが一体となって取り組む必要があるからだ。それぞれの専門性を生かし、価値を提供するために実施したRelicの取り組みとは。 - 日本の女性が「あたし」って言うの、かわいいですよね
グローバルに活躍するエンジニアを紹介する本連載。今回はトリニティでポイントサービスの開発と運用に携わるThidar Win(ティダーウィン)さんにお話を伺う。ミャンマーでは皆がそうであるようにティダーさんも医者を目指したが、あと一歩のところで断念することになる。しかし、そこから新しい道が開けた。