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業務効率化だけではない 「RPA」導入で期待できる効果とさまざまな課題ビジネスパーソンのためのIT用語基礎解説

IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第20回は「RPA」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。

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1 RPAとは

 RPA(Robotic Process Automation)は、人が行っていた定型作業やタスクをソフトウェアロボットによって自動で実行する技術のことです。

 RPAは定型的な業務の自動化を得意としており、ルールベースのタスクやプロセスを自動化することで組織の業務負荷を軽減します。これにより従業員がコア業務に費やす時間を増やすことができ、組織の生産性向上に寄与します。

 RPAには得意な業務と不得意な業務があるため、導入にはまず対象となる業務の特性を細かく把握することが大切です。


図1 RPAの得意、不得意

2 RPAを構成する技術

 RPAはさまざまな自動化技術を組み合わせて構成されています。主要な技術として以下が挙げられます。

2.1 スクリプトやマクロ

 特定の処理を繰り返すスクリプト(※1)やマクロなど、決まった条件、パターンに従って自動化する技術です。スクリプトは可能な限りシンプルで読みやすい作りにすることが重要で、これによりメンテナンス性を高めることができます。

※1 スクリプト:簡易的なプログラムのこと。繰り返し実行する必要があるタスクを自動化するために書かれた一連の命令文。

2.2 スクレイピング

 Webサイトやアプリケーションの画面から情報を抽出する技術です。スクレイピングによって、ユーザーの操作を模倣し、自動的にデータの抽出や入力ができます。

2.3 ワークフロー自動化

 業務プロセスの一連のタスクを自動化する技術です。タスクの開始や完了、承認などのプロセスを自動化します。請求書の承認や支払いの自動化、人事における採用プロセスの自動化など、さまざまなワークフローに対応します。また、業務プロセスの進行状況を可視化することで、利用者間の情報共有もスムーズになります。

 また、昨今のRPAは、AI(人工知能)や機械学習(※2)の技術を組み合わせることで、より複雑な自動化が可能です。

※2 機械学習:コンピュータがデータからパターンを学習し、学習した結果を基に予測や意思決定に役立てるための手法のこと。

3 RPA導入によって期待できる効果

 RPAを導入することで、以下のような効果を期待できます。

3.1 業務効率化と生産性の向上

 これまで人の手で繰り返し実行する必要があった定型的な業務を自動化することで、人の手を空けられます。定型的な業務に使っていた時間をより価値の高い業務に充てられるようになるため、組織の生産性の向上が見込めます。

 また、RPAであれば業務の時間外も稼働できるため、より無駄なく効率的に業務を遂行できます。


図2 RPAによる自動化イメージ

3.2 作業精度の向上

 人の手による作業ではどんなに注意してもミスが起こり得ますが、RPAで自動化することにより作業品質が安定し、一定の品質が保証されます。ミスが減ることにより、ミスに対するリカバリーも不要となることから、作業精度の向上は組織全体の業務効率化に寄与するといえます。

3.3 透明性の向上

 RPAは作業の履歴を残せるため、どの作業がいつ、どのように行われたかを詳細に把握できます。これによって業務の透明性が向上し、問題が発生した際の原因追及や改善策の検討が容易になります。

 また、RPAは定められたルールに従って作業するため、内部統制の観点からも良い効果が期待できます。

4 RPAの課題

 RPAには以下のような課題が存在します。

4.1 導入コスト

 RPAの導入には、製品のライセンス以外にもさまざまなコストがかかります。

 導入する際、まずは自動化する業務を洗い出し、業務フロー全体の把握から細かい処理の流れまで明確にする必要があります。また、RPAには特定の業界の業務に特化したものや業務規模の大小、AIなどの機能の有無など、それぞれの製品に特徴があります。自動化に適した業務かどうか、自社の業務をよく理解した上で最適な製品を選定します。

 製品の選定を誤ると、導入後に使われなくなる可能性や、メンテナンスが多発して膨大な運用コストがかかる恐れがあります。単純なツールの導入ではなく、新たなシステムの導入に近しい難易度であるという認識で取り組む必要があります。

 また、RPAの導入はスモールスタートで徐々に自動化の範囲を広めていく方式がお勧めです。

4.2 複雑な業務の自動化

 複雑で非定型的な業務プロセスは、RPAだけでは自動化が難しい場合があります。特にプロセスの変更や例外処理が多い業務は自動化に適していません。このような業務を自動化しようとすると、頻繁に設定変更や業務停止が発生し、使い物にならない可能性があるため、注意が必要です。

 なお、自動化の検討の中で、複雑な業務フローを可能な限りシンプルなフローに見直すことも選択肢の一つとして考慮すべきです。

4.3 運用負荷の増加

 RPAは日々メンテナンスしていく必要があります。

 例えば、RPAで自動化した業務で使用するシステムのアップデートがあった際は、RPAの処理に影響がないかどうか調査し、必要に応じてメンテナンスします。メンテナンスにはプログラミングなど専門知識が必要なケースもあり、業務部門での対応が難しい場合は情報システム部門など専門知識を持った技術者のフォローが必要となります。

 また、シャドーIT(※3)など情報システム部門の管理が及ばない「野良ロボット」が増えることによるセキュリティリスクもあるため、それを防ぐためのガイドラインの策定などさまざまな面で運用負荷がかかります。

※3 シャドーIT:情報システム部などIT部門の承認や管理を受けず、従業員や組織が独自に導入、使用するツールやシステムのこと。組織が設けるセキュリティ基準に達していないものなどを使用することにより情報漏えいにつながるリスクがある。

5 今後の展望

 RPAを導入することで年間数千時間から数万時間もの業務効率化を実現した実績もあり、上述の課題はあるものの、さまざまな業界で導入が増えています。RPAは単純作業や定型業務が多い業界においては非常に効果的で、人手不足の問題への解決手段の一つにもなり得ます。

 課題として挙げた非定型業務の自動化においても、AI技術や機械学習と組み合わせることで一部解決できた事例も存在します。RPAとAI技術の組み合わせは、従来のルールベースの自動化から、予測分析や意思決定を含むより高度な自動化を実現します。総務省はRPAによる自動化のレベルを3段階で表現しています。

 RPAというキーワードが出始めた当初は、メンテナンスなどの運用コストの高さから導入後に使われなくなるケースもよく耳にしましたが、それらの課題が解消されつつある今、よりRPAの普及は進んでいくものと思われます。

古閑俊廣

BFT インフラエンジニア

主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。

現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。

「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。

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