「私に期待していることは何ですか?」を超えて――キャリア自律するための問いの立て方:仕事が「つまんない」ままでいいの?(120)(3/3 ページ)
人生100年時代、キャリアを自分で築いていくためにはどうすればよいのでしょうか? エンジニアの主体性と自律について考えます。
もし、目の前に倒れている人がいるとしたら……
では、「キャリア自律に必要なマインドセット」とは、どういったものなのでしょうか。ボクは「目の前に倒れている人がいた場合の振る舞い」に似ていると思っています。
道端で見知らぬ人が倒れていたとします。その人を助けようと思ったとき「私に期待していることは何ですか?」とは言わないでしょう。恐らく「大丈夫ですか?」「痛いところはありませんか?」など、相手の状況を確認するような声を掛けると思います。そして「どなたか、救急車を呼んでください」などと、周囲の人に支援を依頼することでしょう。
誰かが「助けてくれ」というから助けるのではありません。「期待しているのはこれだ」と言われるからその行動を取るのでもありません。目の前の状況に対して、何が起こっているのかを観察し、必要ならば話を聞いて事実を確認する。そして、目の前の状況をより良くするために必要なことを自ら考え、行動する。これが、分かりやすい「自発的、自律的な行動」です。
「何を当たり前のことを言っているんだ」と思われるかもしれません。ですが、ちょっと気を許すと「私に期待していることは何ですか?」などと質問してしまいます。まずはこの、依存的な状況を認識する必要があります。
自律するための問い
ところで、なぜ「私に期待していることは何ですか?」といった、依存的な問いを立ててしまうのか? ひょっとしたら、それは「問いの立て方が間違っている」のかもしれません。
実は、「問い」というのは、ボクたちが使う言葉の中でも、とても面白い性質を持っています。なぜなら、あらゆる思考は問いから始まるからです。また、問いの質によって、思考も変わってきます。
例えば、何か目の前に問題があるとき、「なぜ、私はいつもダメなんだろう?」という問いを立てると、「私がダメな理由」を考え始めます。一方、同じ状況でも「どうすれば、この問題は解決できるだろう?」という問いを立てると、問題の解決策を考え始めることになります。
このように、問いは思考の入り口であり、行動の入り口なのです。
「あなたが私に期待していることは何ですか?」という問いは、期待値を相手にゆだねることになります。一方、以下のような問いは、自発的、自律的に問題を解決していくための問いです。
- いま、目の前に起こっている課題は何か?
- なぜ、この課題が起こっているのか?
- もしも、理想的な状況があるとしたら、それは何か?
- 自分にとって、理想的な状況をかなえる意味は何か?
- そもそも、何のためにこれをする必要があるのか?
- いまの自分に、できることは何か?
- そもそも、私の強みは何か?
- まず、何から始めるか? 小さな努力で始められることは何か?
ここに挙げたのは、現状の課題を客観的に見つめ、理想を明確にし、理想を実現するための価値を意味付けし、小さな行動を起こすために必要な問いのリストです。問いの主語は自分にする。そして、目の前の課題の把握と、理想的な未来に向ける。こうした思考習慣やマインドセットが、自律的なキャリア形成に必要なのではないかと思います。
自律とは「自分で考え、自分で行動し、その結果に責任を持つ」ということ。それは大きな挑戦のように思えるかもしれませんが、その入り口は、思考習慣やマインドセットです。日常の中で「どうすればもっと良くなるのか」を考え、それを実行してみること。
この小さな習慣が、キャリア自律の入り口なのではないかと思います。
筆者プロフィール
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。
著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「主体性を持て」「自立しろ」というけれど、どうすればいいの?
不確実で先行きの見通しが立てにくい時代になって、「主体性を持て」「自立しろ」といろいろな場面でいわれます。でも、自立するのはいうほど簡単ではありません。何をどうすれば自立できるのでしょうか? - エンジニアに「キャリア安全性」はあるのか
働き方が変わろうとしているいま、「将来も、きっと大丈夫だ」と思えていますか? - 「自分が知らない、自分」を知ると、未来のキャリアが見えてくる
人生100年時代や、未来の見通しが立てにくい中「キャリアの主体性が大切」といった言葉を見聞きするようになりました。言葉の意味は分かります。でも、具体的にどうすればいいのかが分からない。その答えは、未来よりも、過去にあるようです。