脱「レガシーシステム」が加速 UNIXやERPもピークに:マイグレ・モダナイ市場動向、デロイト トーマツ ミック経済研究所が調査
デロイト トーマツ ミック経済研究所は、レガシー&オープンレガシーマイグレーション市場が2029年度に2兆2450億円規模へ拡大すると見込む調査結果を公表した。
デロイト トーマツ ミック経済研究所は2025年11月12日、同社が2025年9月に発刊したレポート「レガシー&オープンレガシーマイグレーション・モダナイゼーション市場動向 2025年度版」の調査結果を発表した。国内のレガシー&オープンレガシーマイグレーション・モダナイゼーション市場は、2024年度から2029年度まで年平均成長率(CAGR)10.0%で成長する。
同レポートは、レガシーシステムやオープン系レガシーシステムの移行を手掛けるベンダー40社を対象に、2023年度から2025年度までのマイグレーションサービス売り上げを把握し、2029年度までの中期予測をまとめたものだ。
レガシー移行市場は年平均10%成長
レポートによると、レガシー&オープンレガシーマイグレーション・モダナイゼーションの全体市場規模は、2023年度実績が1兆995億円、2024年度実績が前年比126.8%の1兆3943億円となった。2025年度は前年比約112.9%の1兆5737億円を見込んでいる。
2029年度の市場規模は2兆2450億円に達すると見込まれる。市場全体の伸びはメインフレーム移行に加え、UNIXやJava、ERP(統合基幹業務システム)、Visual Basic(以降、VB)などの案件がけん引している。
メインフレーム移行、リビルド案件がレガシー市場を押し上げ
メインフレームを中心としたレガシーマイグレーション・モダナイゼーション市場は、2023年度実績が3480億円。2024年度実績は前年比129.4%の4504億円、2025年度見込みは前年比約113.6%の5118億円と、高い成長を維持する見込み。
レガシーマイグレーションで成長をけん引しているものの一つが、富士通が積極的に展開するリビルド(既存システムの要件を基にしながら新システムを再構築)で、2024年度比約141%の伸びとなる見込み。リビルドは、現行ベンダーがユーザー企業の業務やシステムに精通している場合に提案されやすく、1案件当たりの金額も大きい。富士通メインフレームの移行は2024年度対前年比148.7%となり、今後も高需要が続く見込みだという。
一方、他社メインフレームからのリプレースなどでシステムインテグレーターの変更を希望するユーザー企業は、リホスト(既存のプログラムをそのまま新しい環境に移行する手法)やリライト(既存のプログラムを新しい言語に変換・移行する手法)など、相対的にリスクの低い移行手法を選択する傾向がある。同研究所は案件数としてはリホストが増加しているものの、売り上げとしてはリビルドやリライトの伸びが目立つとしている。
| カテゴリー | 主な特徴 | |
|---|---|---|
| レガシーマイグレーション・モダナイゼーション | リホスト | メインフレームで動作するCOBOLやPL/Iなどレガシーアプリケーションを、再開発せずにオープン環境に移行する(COBOL、PL/I→OpenCOBOL<MF COBOL、NetCOBOL>) |
| リライト | システムロジックを維持し、既存のソースコードをコンテナ環境用のネイティブJavaアプリケーションに変換、オープンシステム上で稼働させる(COBOL、PL/I→Java) | |
| リビルド | レガシーシステムをビジネスプロセスのレベルから見直し、新しいピジネスプロセスとシステムを構築する(レガシーシステム→オープンシステム、クラウドへのシステム再構築) | |
| リテイン | オンプレミス環境で稼働するシステムに変更を加えず稼働させ続け、システムを維持する。iPaaS(Integration Platform as a Service)、Web APIによるデータ連携、上流分析サービスを含む(レガレーシステム維持、データ連携) | |
| オープンレガシーマイグレーション・モダナイゼーション | UNIXスクラッチ開発案件の移行 | サイロ化され、データ活用がなされておらず、高難易度の古いUNIXシステムの移行(Solaris SPARC、HP-UX、AIX→Linux) |
| VB移行 | VB 6.0のサポート終了に伴い、VBアプリ資産を継承しながらVB.NETへ移行する(VB 6.0→VB.NET、Java) | |
| レガシーJava移行 | Javaフレームワークの移行、Javaバージョンアップ対応(Struts/Struts2/Seasar2→SpringMVC)(Java 7以前→Java 8以降) | |
| ERP移行 | SAP ERP 6.0 to S/4HANA or RISE with SAPマイグレーション・モダナイゼーション(SAP ERP 6.0→SAP S/4HANA、RISE with SAP) | |
| CRM移行 | 既存CRMシステムを、Salesforceなどクラウドベースの新CRMシステムに移行する(Excel、Notes/Domino、スクラッチ開発→移行先:Salesforceなど) | |
| Notes移行 | Notesの運用費用肥大化、外部アクセス環境やWeb対応化に伴う情報基盤の整備(Notes/Domino→Java、SharePoint) | |
| PowerBuilder移行 | PowerBuilderアプリケーションを.NETプラットフォームに移行する(PowerBuilder→Java、.NET) | |
| データベース移行 | Oracle Databaseの保守料削減を目的とする移行。異種データベースのクラウドへの移行(Oracle Database、MySQL→SQL Server、PostgreSQL)(Olacle→Amazon EC2、Amazon RDS for Oracle、Amazon Aurora、Amazon Redshiftなど) | |
| 言語変換 | Delphi、Holon、OpenCOBOLなどの言語変換(Delphi→C#.NET、Java)(Holon→VB.NET、ProC)(OpenCOBOL→Java) | |
| レガシー&オープンレガシーマイグレーション・モダナイゼーションの製品カテゴリーと特徴(提供:デロイト トーマツ ミック経済研究所) | ||
UNIXやERPのEOL対応とクラウド移行でオープンレガシー市場が拡大
オープン系のレガシーシステムを対象としたオープンレガシーマイグレーション・モダナイゼーション市場は、2023年度実績が7515億円、2024年度実績が前年比約125.6%の9439億円、2025年度見込みが前年比約112.5%の1兆619億円と見込まれている。
同市場はUNIX、Java、ERP、VB(主にVB 6.0など旧版からの移行)といった分野を中心に構成されており、特に比重の高いUNIXでは、「HP-UX」や「Solaris」のEOL(サポート終了)をきっかけに移行需要が急増している。EOLのタイミングによって売り上げは変動するものの、当面は高水準の需要が続く見通し。ERPではSAP ECC6.0のサポート終了を背景に、マイグレーション需要がピークを迎えているという。
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