独自ドメインが使えるホスティングサービスは、どのように実現しているのだろうか? その鍵となるのが「バーチャルホスト」である。この機能を使うことによって、1台のマシンで複数のWebサイトを運用できるようになる。
今回は、Apacheの特徴的な機能の1つである「バーチャルホスト」について解説する。この機能により、少ないリソースで複数のWebサイトを構築することが可能になる。
通常、Webサーバへのアクセスにはwww.atmarkit.co.jpやwww.tis.co.jpといったURLが利用される。URLの「atmarkit.co.jp」や「tis.co.jp」の部分はドメイン名、「www」の部分はホスト名と呼ばれる。第2回でも説明したとおり、実際にはURLをIPアドレスに置き換えなくてはWebサーバにアクセスできない。そこで、先方ドメインのDNSにIPアドレスを問い合わせ、アクセスするホストのIPアドレスを取得する。
問題はここからで、例えば「www.atmarkit.co.jp」と「linux.atmarkit.co.jp」という異なるURLで同じページを表示したいとする。これは、どうすれば実現できるだろうか。あるいは、「www.atmarkit.com」と「www.atmarkit.co.jp」を同一のサーバで実現したいとしたらどうだろう。
前者は、「ホスト名は違うが同じコンテンツを表示したい」という要求。後者は、「単一のサーバで複数のドメイン名を使いたい」という要求である。これらを実現する方法としては、以下のようなものが考えられる。
3つの方法を挙げてみたが、それぞれに一長一短があって決め手にかける。場所などの制約でサーバを増やせなかったり、複数のApacheを立ち上げてリソースを消費したり、ネットワークカードがボトルネックになったり。それぞれの欠点をうまくカバーできる方法はないだろうか?
そこで登場するのが、バーチャルホストである。この機能を使えば、1つ(あるいは複数)のIPアドレスと1台のサーバだけで複数台のWebサーバマシンと同じ役割を果たせるようになる。台数の制限はないから、理論上は何台分の役割をさせても構わない。追加投資なしに複数台のサーバを用意するのと同じことができるわけだ。先に挙げた例のように、ホスト名を使い分けたい場合や複数のドメインを管理したい場合に非常に有益な機能といえる。しかも、バーチャルホストなら「www.atmarkit.co.jpとlinux.atmarkit.co.jpで異なるページを表示したい」といったニーズにもこたえることができる。
コラム:異なるドメインのホスト
異なるドメインのホストが同じサーバを指すことなどできるのか、と思う方もいるだろう。それどころか、本稿では同じIPアドレスを指そうとしている。
これは、一見信じられないことだが、実は簡単に実現できる。本文でも述べたとおり、URLを使ったアクセスでは、まずドメインのDNSへ問い合わせが行われる。このとき、そのDNSが返すIPアドレスは何であってもWebブラウザは信用するしかない。つまり、ほかのドメインで使われているIPアドレスであっても信じるのである。従って、「www.atmarkit.com」と「www.atmarkit.co.jp」で同じIPアドレスが返ってきても問題はない。あとは、アクセスを受けたWebサーバ側の問題となる。
独自ドメインのURLが使えるのが売りのプロバイダは、バーチャルホストを使って複数のドメインを1台のサーバで運用している。それどころか、DNSサーバすらも複数のドメインを1台のサーバで賄っているのだ。
バーチャルホストを利用するに当たって、検討しておかなければならないことがある。バーチャルホストには、「NAMEペース」「IPベース」という2種類の方式があるのだ。1つのIPアドレスで実現できるのが「NAMEベースのバーチャルホスト」、複数のIPアドレスを単一のApacheで処理するのが「IPペースのバーチャルホスト」で、それぞれメリット/デメリットがある。
IPベースのバーチャルホストは、IPアドレスでホストを区別する方式である。IPアドレスを複数用意することは可能だが、サーバを複数台用意するのが難しいという場合に有効だ。例えば、設置面積や消費電力の制約でサーバが増やせないといったケースが考えられる。この方式は、IPアドレスを消費するという点以外に特にデメリットもない。
もう1つ、積極的にIPベースを採用する理由を挙げるなら、内部アドレスと外部アドレスの両方でアクセスできるようにする場合である。これは、最近流行の電子商取引や社外からもアクセス可能なイントラネットなどで用いられる。つまり、社内LANからのアクセスと社外(インターネット)からのアクセスにそれぞれIPアドレスを割り当てたサーバで利用するのだ。社内のサーバへアクセスするために、わざわざインターネットに出ていく必要も複数のサーバを用意する必要もない。コンテンツ管理を一元化することもできるし、社内からのアクセスか社外からのアクセスかを区別できるから、コンテンツへのアクセス制限も行いやすい(アクセス制限については次回に解説する)。
なお、1台のサーバに複数のIPアドレスを割り当てるには、ネットワークカードを複数装着するか、前述したようにVIFを使う必要がある。本稿では、複数のIPアドレスが割り当てられたサーバ環境までは完成しているという前提で話を進める。
NAMEベースのバーチャルホストは、WebブラウザがWebサーバに対して送るホスト名を基にして応答するホストを決定する方式である。
NAMEベースのバーチャルホストには、大きな弱点が存在する。クライアント(Webブラウザやプロキシ)が、NAMEベースのバーチャルホストに対応していなければならないということである。つまり、アクセスしているサーバのホスト名をサーバに送り返す機能がクライアントに実装されていないと、NAMEベースのバーチャルホストが機能しないのである。最近のクライアントであれば問題ないが、一部の古いWebブラウザやプロキシはホスト名を送り出さずにIPアドレスだけをサーバに送信する。すると、サーバはどのホストへのアクセスなのかが判断できないことになる。
いずれにしても、バーチャルホストにはハードウェアコストがかからず、設定や運用が簡単であるといった多くのメリットが挙げられる(編注1)。やたらと多くのWebサーバを用意する前に、こうした機能が存在することを理解し、ハードウェア資源を有効活用するようにしたいものである。
編注1:デメリットとしては、1台のサーバで複数のWebサイトを構築するため、冗長性が低下することが挙げられる。例えば、ハードウェアトラブルが発生すれば、そのサーバで運用されていたすべてのサイトがダウンすることになる。また、複数のWebサイトへのアクセスが1台のサーバに集中するので相応のマシンパワーが要求される。
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