連載:IEEE無線規格を整理する(7)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

コンセントでホームネットワークを構築する電力線通信


千葉大学大学院  阪田史郎
2006/3/2


 2. 今後の動向

 ホームネットワークに関しては、以下のようないくつかの動きがある。

  • PLC(Power Line Carrier):
    無線ではないがADSL、CATV、FTTHに続く第4のアクセス網としてPLCのサービスが2006年に開始される。PLCは、従来は低周波帯(10‐450kHz)を利用し数十‐数百kbps程度の速度であったが、2006年以降は高周波帯(2‐30MHz)を利用し将来最大200Mbps の速度の達成を目指している。

  • RF-ID(Radio Frequency IDentification):
    RF-IDは、非接触センサとしてネットワークというよりも短距離無線に位置付けられるが、食品だけでなく家電や家具、衣装、薬品、文具、書籍などさまざまな日用品に装着されていく。今後家庭内でもセンサネットワークと連携させ活用していくことが考えられる。
 3. ホームネットワーク普及に対する課題

 今後、ホームシステムがユビキタスシステムの市場拡大の牽引役を果たしていくための課題として、以下が挙げられる。

(1)屋内の白物家電とAV家電、PC機器間の相互連携と、屋内のホーム機器と屋外の携帯電話、サービスサーバとの相互連携

 白物家電を制御するための統一インターフェイスについては、電灯線と無線を用いたECHONETが国内ではすでに標準化されている。今後屋内においては、ECHONETと、UPnPを介した、白物家電とAV家電、PC機器間のシームレスな相互連携による新しいホームシステムの利用形態が考えられる。

 また、屋外の携帯電話やサービスサーバ(ホーム機器やユーザーの認証、およびISP、ASP、コンテンツサーバとして各種サービスを提供する)から、ホームサーバ、DLNA/UPnP、ECHONET、ZigBeeのインターフェイスを通して各種情報家電、白物家電さらには家庭用のロボットの操作やセンサ群の制御が可能になると、より豊富なホームコントロール機能の利用が拡大されると思われる。

(2)認証、プライバシ保護、著作権保護

 屋外の携帯電話やサービスサーバから各種ホーム機器を制御する場合、利用者や機器自体の認証、秘匿性保証、個人のプライバシ情報の流出防止、さらに特にAVコンテンツの視聴においては不正コピー防止機能が必須となる。現在、屋外端末とホーム機器が通信するときの、認証も含めたセッション制御用にSIP(Session Initiation Protocol)の利用、屋内ホーム機器の接続即利用のためのUPnPとSIPの連携が検討されている。

 さらに、今後ユビキタスシステムの進展に伴い、IPアドレス不足などの理由からIPv4からIPv6への移行が進展すると予想される。IPv6の環境においては、IPv4においてセキュリティ確保の役割も果たしたNATの機能(対屋外通信用のグローバルIPアドレス/ポート番号とホーム機器などのプライベートIPアドレス/ポート番号を変換する機能で、外部から直接屋内の個々のホーム機器にアクセスされることを防止)に代わる、新しいセキュリティ確保の仕掛けが必要となる。

(3)高速PANやセンサネットワーク、ロボットを活用した新しいホームアプリケーション


 連載第2回:2010年の情報家電ネットワークを予想する(2)のホームアプリケーション表2に挙げたホームアプリケーションは、必ずしもセンサ群や家庭用ロボットの活用を前提としたものではない。今後屋内においても、熱、温度、煙、水、湿度、光、音、風、位置、圧力、加速度、方位などを感知する各種センサや、血圧、脈拍、心拍数、血糖値、心電、筋電などを測るバイオセンサなどの活用が考えられ、動くロボットとセンサ群を組み合わせたP2P(Peer-to-Peer)自律分散制御型ホームシステムの新たなアプリケーションを開拓することが重要となる。

 4. 2006年に利用が開始されるPLC
  (電力線通信または電力線搬送通信)

 PLCとは、電力線に高周波信号を重畳し、電力線を伝送路とて双方向の通信を行う方式であり、2006年にその高速通信用といわれるサービスが開始される予定である。既存の電力線を使用することで、安価で容易なブロードバンドインターネット接続や情報家電の接続用のネットワークとしての期待が高まっている。

PLCの長所としては、

  • 既存の電灯引込線、コンセントがそのまま使えるので、新規の工事が不要
  • プラグをコンセントに差込むだけで接続でき、すぐに利用可能で家庭内の各部屋間でホームネットワークの構築が可能

PLCの欠点としては、

  • 短波ラジオ、アマチュア無線、洋上管制に短波を用いる航空無線、防衛用無線、電波天文などへ干渉による重大な障害を引き起こす可能性がある
    (電灯線は高周波を重畳することを想定した設計になっていないため漏洩電磁波が多く、またその利用周波数が短波帯の電波と重なる)
    が挙げられる。

 PLCには低速通信用と高速通信用がある。低速通信用については、現在10kHz〜450kHzの周波数が利用可能になっているが、9600bps程度の速度のためほとんど利用されていない。高速通信用については、利用周波数帯は2MHz〜30MHzに広げて理論最大値が数10Mbps〜200Mbpsの通信を可能にすることを目標に技術開発が進められている。

 次回は、最終回として「携帯電話網と無線LAN」についてお伝えする。

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目次:IEEEを整理する(7)
  <page1> 1. ホームネットワークの標準化動向/(1) DLNA(Digital Living Network Alliance)
  <page2> (2) UPnP(Universal Plug and Play) /(3) OSGi Alliance/国際標準化動向
<page3> 2. 今後の動向/3. ホームネットワーク普及に対する課題/4. 2006年に利用が開始されるPLC



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