連載:IEEE無線規格を整理する(5)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜
無線MAN標準化でも新幹線でワイヤレス通信
千葉大学大学院 阪田史郎
2006/1/7
2. IEEE 802.16-2004とIEEE 802.16e |
2.1 標準化動向 |
IEEE 802.16委員会での検討対象は、当初FBWA(Fixed Broadband Mobile Access)と呼ばれ、移動体を対象としたネットワークは除外されていた。しかし、IEEE 802.20の主対象が最高時速250〜300km、すなわち新幹線のような高速鉄道ということもあり、2003年以降最高時速150〜200kmの車を対象とした検討は、IEEE 802.16eにおいて行われるようになった。このため、IEEE 802.16委員会での検討はFBWAからFixedが除かれ、BWAと呼ばれるようになった。IEEE 802.16 eはIEEE 802.16-2004との互換性を保つため、2〜11GHz帯、免許が必要な帯域を対象とし、最終仕様は2005年中に策定される予定である。今後、さらに高速な時速250km強まで対応可能なIEEE 802.20との相互連携・すみ分けが必要となる。
図2 802.16-2004の位置付け |
図2にIEEE 802.16-2004と無線PAN、無線LANの位置付け、図3にIEEE 802.16-2004、IEEE 802.11eが想定する利用環境を示す。表2にIEEE 802.16-2004、IEEE 802.16eの標準仕様、表3に無線LANとの仕様の詳細比較を示す。
図3 IEEE 802.16ファミリーが想定する利用環境 |
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表2 IEEE 802.16標準仕様 QPSK:Quadrature Phase Shift Keying QAM:Quadrature Amplitude Modulation MIMO:Multiple-Input Multiple-Output SC:Single Carrier OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing OFDMA:OFDM Access SOFDM:Scalable OFDMA PMP : Point-to-Multipoint (1対多接続) SC : Single Carrier (シングルキャリア変調) OFDM : Orthogonal Frequency Division Multiplexing (直交周波数分割多重) OFDMA : Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access(直交周波数分割多元接続) DFS : Dynamic Frequency Selection(動的周波数選択) AAS : Adaptive Antenna System(適応アンテナシステム) ARQ : Automatic Repeat reQuest(自動再送制御) STC : Space Time Coding(時間空間符号化) |
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表3 無線MANと無線LAN仕様詳細比較(クリックして別表が拡大詳細表示) モバイル加入者局(MSS:Mobile Subscriber Station)、MMR:Moile Multi-hop Relay、MIB:Management Information Base |
図4 IEEE 802.16-2004、IEEE 802.16 eのプロトコルスタック |
図4にIEEE 802.16-2004、IEEE 802.16eのプロトコルスタックを示す。図5にIEEE 802.16-2004、IEEE 802.16eの仕様分類を示す。
図5 IEEE 802.16-2004、IEEE 802.16eの仕様分類 |
韓国では、WiBroの名で802.16eベースの技術を第4世代(4G)携帯電話網への移行を容易にする第3.5世代(3.5G)携帯電話網の1つとして採用し、2006年4月にサービスを開始する予定である。車内でも1Mbps の通信を可能にすることを目標にしている。
IEEE 802.16-2004、IEEE 802.16eの無線LANとの大きな相違は、MAC層でコネクション単位の管理を行う点にある。下記のようにQoS制御はコネクション単位に行う。IEEE 802.16-2004、IEEE 802.16e共通の主な特徴は以下のとおりである。
- 共通のMACレイヤ: 多様なアプリケーションに対して共通なインターフェイスを提供するため、帯域によって異なるPHYレイヤ(物理層)の上位のMACレイヤは共通。
- 異なるQoS要求への対応: アプリケーションごとに異なるQoSに対する要求に対して、MACレイヤでその相違に対応する。このQoS制御には以下のような特徴がある。
・ コネクション単位に制御: 表4に示すUGS(Unsolicited Grant Service) 、rtPS(Real-time Polling Service)、 nrtPS(Non-Real-time Polling Service)、 BE(Best Effort)の4種類のQoSタイプを、コネクション設定時のDSA(Dynamic Service Addition:コネクション設定に相当)のプロセスで指定。SS(Subscriber Station)の初期化時にもBS(Base Station)が遅延、ジッタ、スループットを決めておくことが可能。
(無線MANのQoSタイプは、ATMにおける制御をベースとしたこともあり、無線LANのIEEE 802.11eのEDCAにおける、Voice、Video、Best effort、Backgroundの4種類のアクセスカテゴリとは微妙に異なる。)
・MACレイヤで交換されるパケットヘッダ内のConnection Identifier(1バイト)によって識別されるコネクション(サービスフロー)に対応付ける
・ダウンリンクとアップリンクで別々に指定可能
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表4 IEEE 802.16における4つのQoSタイプ モバイル加入者局(MSS:Mobile Subscriber Station)、MMR:Moile Multi-hop Relay、MIB:Management Information Base |
- 適応変調方式(Adaptive Modulation)をサポート: 高いオーダの変調方式を用いると、伝送速度を上げることができるがリンク品質の影響を受けやすくなる。一方、低いオーダの変調方式を用いると、リンク品質の影響は受けにくくなるが伝送速度を上げることができない。このバランスを取るため、SS単位、バースト単位、アップリンクとダウンリンクで、リンク品質に応じた適応変調方式を採用。
- PHYレイヤ(物理層)においてFDDとTDDをサポート: FDDはよく使われる2重化(複信)方式であり、2つのチャネルを使用して送信と受信を並行する。TDDは1つのチャネルを使用し、時間で上りと下りの通信を分割することにより、必要とされる帯域に応じて上りと下りの帯域を動的に割り当てることが可能。
- 帯域割り当てやQoS制御のスケジューリング、資源管理方法はベンダの裁量: 帯域割り当てやQoS制御の機構は標準化しているが、具体的なスケジューリングや資源管理方法はベンダに任せ自由度を与えている。
なお、IEEE 802.11におけるWi-Fi Allianceに相当する、WiMAX(World interoperability for Microwave Access) Forumと呼ぶ米国主体の業界団体が、IEEE 802.16の仕様群の業界標準化、相互接続検証、仕様準拠製品認定を行う。WiMAXという名称は、組織の名称だけではなく、IEEE 802.16-2004 とIEEE 802.16eの規格、製品、技術に対しても用いられており、標準規格に関する相互接続性を有する範囲全般を指すような使われ方がされている。IEEE 802.16eを特にモバイルWiMAXと呼ぶこともある。
2.2 無線MANの展開に関する動向 |
(1) 使用周波数
表5に、各国におけるIEEE 802.16-2004、IEEE 802.16eで使用する周波数を示す。日本ではすでに、2.5GHz帯は防災無線等の公共業務で利用/3G用途に予約、3.5GHz帯は放送用途に予約(利用可能となるのは2012年以降)、5.8GHz帯は航空レーダとの干渉回避検討中/DSRCで利用中となっている。
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表5 IEEE 802.16-2004、IEEE 802.16eで使用する周波数(各国の周波数動向) |
(2) 国内における展開計画
以下のように、国内での使用周波数が未定ながらも、2005年以降急速に実証実験、サービスに向けた動きが活発になっている。
- 2005年2月: YOZAN(鷹山)が定額携帯電話サービスをIEEE 802.16-2004により2005年12月より東京都23区内で開始することを発表した。ほかの事業者にネットワークを開放するVNO(Virtual
Network Operation)方式、全国展開するためのフランチャイズ方式を採用する予定である。将来IEEE 802.16eに拡張する予定である
- 2005年5月: イーアクセスが第3世代携帯電話網(3G)のW-CDMAを補完するシステムとしてIEEE802.1beに準拠した無線通信規格を総務省に提案
- 2005年6月: KDDIが大阪市内でIEEE 802.16eの実証実験を2005年7月から開始した。時速120km以下の速度で、通信速度の目標を最高15Mbpsに設定している
- 2005年7月: 平成電電とドリームテクノロジーズが、2006年より無線LANとIEEE 802.16-2004 、IEEE 802.16eを組み合わせた高速無線通信サービスを提供することを発表した
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目次:IEEEを整理する(5) | |
1. 無線MANの研究と標準化の推移 | |
2. IEEE 802.16-2004とIEEE 802.16e | |
3. IEEE 802.20(高速移動体対応) |
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over Wireless LANの実現 第1回 無線IP電話の思わぬ落とし穴 第2回 無線IP電話の音質を左右する機器の選び方 |
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【トレンド解説】802.11n、UWB、WiMax 2005年のワイヤレスの行方を占う |
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