連載:IEEE無線規格を整理する(8)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

もうすぐ実現、ケータイ&無線LANのオールIP化
〜3.5世代携帯電話網とIPネットワーク間連携〜


千葉大学大学院  阪田史郎
2006/4/11


 2. 第3携帯電話網の新しい動き: TD-CDMA

 2003年半ば以降に、ADSL業界で急速に注目を集めるようになった通信方式として、TD-CDMAがある。TD-CDMAは、図5のように、2000年5月に標準化された第3世代(3G)携帯電話網IMT-2000における5つの規格の1つであるが、現時点ではいまだ携帯電話網には適用されておらず、国内での採用は認められていない。

 TD-CDMAの一形態であるTD-SCDMA(SはSynchronous)が中国で採用が計画されているのみである。しかし、2003年11月に総務省において「携帯電話等周波数有効利用方策委員会IMT-2000技術調査作業班」が設置され、2.010〜2.025GHzの周波数を活用した国内での利用に関して検討が開始された。今後、TD-CDMAに関しては、3G携帯電話網として新たに採用されるか、モバイルブロードバンドシステム(例えば上り数百kbps、下り1Mbps程度のMANやアクセス網)の構築に採用されるか、の2つの可能性があるが、現在のところは後者への期待の方が大きい。
 
 現在3G携帯電話網で使用されているW-CDMAやCDMA2000はFDD方式であるが、FDD方式は回線交換、音声通信に向き、TDD方式はパケット交換、データ通信(インターネットアクセス)に向いているということができる。

図6 FDD方式とTDD方式の相違

 TD-CDMAでは、図6に示すように、上り下りで同一周波数を用い通信チャネルを符号多重し、時間軸でスロットに分割する。上りと下りを時分割で細かく切り替えて通信する。すなわち、上りと下りの双方向の通信が可能である。TDDが「時分割複信」と呼ばれる理由である。さらに、上り下りの割当時間の比率を変えることにより、柔軟に通信速度を変化させ、非対称速度のデータ通信サービスを効率よく提供することが可能である。これがTD-CDMAの最大の特徴であるが、他も含めて特徴を以下にまとめる。

(1) 上りと下りの速度の割合を自由に調節できる

 TD-CDMAでは、通信時間を15からなるスロットに分割し、上りと下りにそのスロットを任意の割合で割り当てる。例えば、下りに大部分のスロットを割り当てることにより、ADSLのような下りの比率の高い通信が可能となる。これが、TD-CDMAがインターネットアクセス向きといわれる理由である。FDD方式では、下りだけを高速にしようとすると、上り帯域が余ることになる。

 TD-CDMAで上りと下りを非対称にして、例えば疑似的に下り帯域を拡張することができるが、上り回線の犠牲を伴う。今後はTV電話などの双方向通信やPtoPアプリケーション(コンテンツ配信、ファイル交換・共有等)が普及すれば、上り回線の帯域増大が重要となる可能性があり、TD-CDMA事業者から将来的なTD-CDMAの帯域拡張への要求も出されている。

(2) パワーコントロールが容易

 CDMAでは、スペクトル拡散の技術を利用することで、複数ユーザーが同じ帯域を使用するため、基地局に近いユーザーがいると、基地局から遠くにいるユーザーの弱まった電波が、マスキングされて排除されてしまう、という問題が起こる。これは、FDD方式、TDD方式で共通の問題である。このため、基地局の近くにいるユーザーの電波を弱めるというような送信電力を調節する必要がある。これを、パワーコントロールと呼ぶが、具体的には、基地局への上り信号を見たうえで、端末への下り信号を用いて、送信電力が強いので絞るようにとの指示を各端末に行う。移動体では基地局と端末の位置関係が変化するため、この指示を絶え間なく行う必要がある。

 このパワーコントロールに関し、FDDでは上りと下りが別帯域で相関がないため、一連の指示に手間が掛かる。一方、TDDでは上りと下りが同じ帯域であるため、より簡単にパワーコントロールが可能である。

 なお、携帯電話網は第1世代から第4世代まで、回線交換、音声通信を主体としているが、2005年から一部実用化が計画されているパケット交換、データ通信を主体とする無線MANまたはWiMAX(IEEE 802.16、 IEEE 802.20)とは、機能、サービス面で重なる部分が多い。特に、インターネットとの親和性が高い無線MANが、VoIPの適用で音声通話をある程度の高品質でサービスできるようになると、両者間の相互接続も重要となる。その前段として、3GPPと3GPP2において、第3世代携帯電話網と無線LAN(IEEE 802.11)との相互接続に関する研究も活発に進められている。

 無線LANが導入し始められた1999年ころより、携帯電話を対象とした広域移動通信システムにおけるオールIP化の議論が活発に行われている。以下では、無線LAN-第3世代携帯電話網の連携とも密接に関連し、その前段と位置付けることもできるオールIP化の動向の概要を述べた後、802.11仕様の無線LANの普及以降急速に検討が活発になっている、両ネットワーク間の相互連携、すなわちユーザーが両ネットワーク間を移動しながら種々のサービスを受けるための技術動向について述べる。

 無線LANと第3世代携帯電話網との連携に当たっては、まず無線LANのIEEE 802.1xで確立されたユーザーの認証、さらにユーザーに提供されたサービスに対するモバイルオペレータによる課金徴収を、一連の処理として行うことが必要となる。

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目次:IEEEを整理する(8)
  <page1> 1. 3.5G携帯電話網/3.5G携帯電話網の方向性
<page2> 2. 第3携帯電話網の新しい動き: TD-CDMA /(1) 上りと下りの速度の割合を自由に調節できる/(2) パワーコントロールが容易/
  <page3> 3.オールIP化の動向



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