連載:IEEE無線規格を整理する(8)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

もうすぐ実現、ケータイ&無線LANのオールIP化
〜3.5世代携帯電話網とIPネットワーク間連携〜


千葉大学大学院  阪田史郎
2006/4/11


連載:IEEE無線企画を整理する「無線ネットワークの規格、IEEE 802の全貌」では、拡大するIEEE 802規格の全貌を説明している。実用化が始まった「標準化が進むRFIDと日本発ucode」、「ZigbeeとBluetooth、UWBをめぐる動き」、「高速化とメッシュ化へ進展する無線LAN」「無線MAN」に続き、「情報家電ネットワーク」「2010年の情報家電ネットワークを予想する」「2010年の情報家電ネットワークを予想する」をお伝えしている。


 前回「2010年の情報家電ネットワークを予想する」は、注目が集まる情報家電ネットワーク(ホームネットワーク)への各業界の標準化動向、プラグ&プレイ、電力線通信などの標準化動向、ホームシステムがユビキタスシステムの市場拡大の牽引役を果たしていくための課題を説明した。今回は、ユーザーに対して、第3世代の広域携帯電話網と無線LANの異種ネットワークの存在をできるだけ意識させずにサービスを提供するための相互連携について説明したい。

 1. 3.5G携帯電話網

 ユーザーに対して、第3世代の広域携帯電話網と無線LANの異種ネットワークの存在をできるだけ意識させずにサービスを提供するための相互連携については、3GPPを中心として2002年に検討が開始された。2003年末までに、図1に示すような6つの段階的なシナリオが検討されている。

図1 DLNAで想定する機器の例

 この6つのシナリオに関する設定基準の優先順は、認証・課金、サービスの継続性保証、サービスの品質保証(動画や音声の高速ハンドオーバ)である。シナリオ2からシナリオ4までが、段階的に2006〜2008年に実現されることが目標とされている。

   3.5G携帯電話網の方向性

 図2に移動通信から見た無線ネットワークの発展方向を示す。

図2 移動体通信の発展方向

 図3に携帯電話網の変遷を示す。第3世代のサービスについては、2001年10月にW-CDMA(Wideband-Code Division Multiple Access)を採用したFOMA(Freedom Of Mobile multimedia Access)が世界最初に利用が開始され、図3のように現在は世代的には第3世代ということができるが、2005年末現在携帯電話の主流はまだ第2世代である。ヨーロッパや米国においては、いまだ第3世代のサービスは始まっておらず、世界の携帯電話の90%以上が第2世代のサービスを利用している。

図3 携帯電話網の変遷

 第3世代のサービスは、IMT(International Mobile Telecommunications)-2000と呼ばれ、2000年ころに、2GHz帯を用い、静止状態では2Mbpsの通信を可能にすることを目標に開発が進められてきた。

 図4
に、2000年5月にITU-R(International Telecommunications Union- Radiocommunication Sector: ITUは通信に関するデジュール国際標準化機構でRはその中の無線部分を担当)から標準として勧告された第3世代(3G)携帯電話網の5つの規格を示す。

図4 第3世代(3G)携帯電話網の5つの規格(2000年5月)

 第4世代では、100Mbps以上の通信速度を目指し、2012年ころのサービス開始に向けて研究開発が進められている。NTTドコモは2004年12月に、第4世代移動通信システムに向けた無線アクセス実験装置を用いた室内実験により、移動フェージング環境における下り最大1Gbpsのリアルタイム信号伝送実験に成功している。

 この信号伝送実験では、無線アクセス方式として、「VSF Spread OFDM(Variable Spreading Factor Spread Orthogonal Frequency Digital Multiplexing)」と「MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)多重」技術を使い、さらにNTTドコモが独自に開発した信号分離技術を適用することにより、電波の受信強度が低い無線環境においても、100MHzの周波数帯域幅で短い処理時間による1Gbpsリアルタイム信号伝送を実現している。

 この第3世代と第4世代の間を埋める第3.5世代の高速パケット通信に関しては、第3世代でW-CDMAを採用した3GPP(3rd Generation Partnership Project)が推進するHSDPA(High-Speed Downlink Packet Access)と、第3世代でCDMA2000を採用した3GPP2が推進するEV-DO(Evolution-Data Optimized)がある。HSDPAとEV-DOの新バージョンのサービスが2006年に開始される予定である。

 図5に4G携帯電話網へのロードマップを示す。

図5 第3世代(3G)携帯電話網の5つの規格(2000年5月)

 表1表2にHSDPAに関連する主要諸元を表す。

アクセス方式 DS-CDMA
デュプレックス(複信)方式

FDD

帯域幅 5MHz
チップレート 3.84kbps
キャリア周波数 割り当て周波数帯域内のN*200kHz (周波数帯域によっては一部100kHz、Nは任意の整数)
データ速度 最大2Mbps
フレーム長 10ms (15スロット)
誤り訂正符号 ターボ符号、畳み込み符号
誤り訂正インターリーブ長 10、 20、 40、 80ms
データ変調 下りQPSK、上りBPSK
拡散変調 下りQPSK、上りHPSK
拡散率 4〜512
基地局間同期 非同期(同期運用も可)
音声符号化 AME (1.95k〜12.2kbps)
表1 第3.5世代携帯電話網 W-CDMA主要諸元

 HSDPAでは、表2のように最大約14Mbpsの仕様となっているが、当面のサービスは、端末の価格や消費電力の問題等を考慮し、CDMA2000とほぼ同様の最大3Mbps程度となるもようである。

フレーム長 2ms (3スロット)
誤り訂正符号

ターボ符号

誤り訂正インターリーブ長 2ms
データ変調 QPSKおよび16QAM
拡散変調 QPSK
拡散率 16
マルチコード数 1〜15
データ速度 最大約14Mbps
表2 HS-PDSCH主要諸元

 表3にEV-DOの主要諸元を示す。

方式 CDMA2000 1X
(Rel. A)
CDMA2000
1xEV-DO (Rev. A)
複信方式

FDD

FDD
通信方式 下り:CDM
上り:CDMA
下り:TDM
上り:CDMA
帯域幅 1.25MHz 1.25MHz
チップレート 1.2288Mbps 1.2288Mbps
フレーム長 20ms 26.67ms
スロット数/フレーム 16 16
スロット長 1.25ms 1.67ms
変調方式 下り:QPSK
上り:BPSK、 QPSK

下り:QPSK、 8PSK、 16QAM
上り:BPSK、 (QPSK、 8PSK)
ハイブリッドARQ あり
拡散レート 下り:4〜128
上り:8〜128
上り:8〜128(2〜256)
チャネル符号化 畳み込み符号、ターボ符号 ターボ符号
通信速度(下り) 〜153.6kbps (307.2kbps) 〜2.4Mbps (3.1Mbps)
通信速度(上り) 〜153.6kpps (307.2kbps) 〜153.6kbps (1.8Mbps)
チャネルタイプ 回線交換モード、パケットモード パケットモード
ハンドオフ ソフトハンドオフ 下り:ハードハンドオフ上り:ソフトハンドオフ
基地局間同期
表3 CDMA2000方式の主要諸元 (2)

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目次:IEEEを整理する(8)
<page1> 1. 3.5G携帯電話網/3.5G携帯電話網の方向性
  <page2> 2. 第3携帯電話網の新しい動き: TD-CDMA /(1) 上りと下りの速度の割合を自由に調節できる/(2) パワーコントロールが容易/
  <page3> 3.オールIP化の動向



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