連載:IEEE無線規格を整理する(9)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

ケータイと無線LANオールIP化への6ステップ
〜第3世代の広域携帯電話網と無線LANの相互接続〜


千葉大学大学院  阪田史郎
2006/5/23


 6つのシナリオ、それぞれの概要

 この6つのシナリオに関する設定基準の優先順は、認証・課金、サービスの継続性保証、サービスの品質保証(動画や音声の高速ハンドオーバ)である。シナリオ2からシナリオ4までが、2006〜2008年に実現されることが目標とされている。以下に、各シナリオの概要を述べる。

(1)シナリオ1: 課金明細のみ連携
 無線LANと3GPP間のコネクションは単一ユーザーと設定し、ユーザーは、3GPPと無線LANのアクセスサービスを管理するモバイルオペレータから、1枚の課金明細を受け取る。3GPPと無線LANのセキュリティのレベルは独立であり、現在の3GPPの仕様変更は不要である。第3世代携帯電話サービスをすでに提供しているモバイルオペレータにとっては、実施が可能な状況である。

(2)シナリオ2: 認証、課金の連携
 AAAの機能が3GPPシステムから提供される。モバイルオペレータは、オペレータ、ユーザーの双方に最小の手間で、3GPPの加入者を3GPP-無線LAN加入者に変換する。ユーザーは、3GPPサービスと3GPP‐無線LANサービスとのアクセスの違いを意識する必要がない。3GPPシステムは、無線LANにアクセスしてきたユーザーに対するアクセス制御についても、3GPPパーマネント加入者データベースであるHLRを使用する。無線LAN上で提供されるサービスに対しては、新たな要求は発生しない。

図3 シナリオ2における認証の連携イメージ

 図3図4にそれぞれ、シナリオ2における認証、課金の連携のイメージ、連携インターフェイスを示す。

図4 シナリオ2における課金の連携イメージ

 図5に、シナリオ2における認証、課金プロトコル(正常終了の場合)を示す。

図5 シナリオ2における認証、課金のプロトコルの例(正常終了の場合)

 図6に、認証と認可のシグナリングについて、いずれも正常に認証された場合の例を示す。

図6 認証と許可のためのシグナリングの例

 図3の連携イメージにおいて、ユーザーはまず、図6に示す無線LANのIEEE 802.1xに基づく認証手順により認証を受ける(1)。このときの認証サーバ(RADIUSまたはDIAMETER)は、モバイルオペレータが管理する。認証情報、ユーザープロファイルが得られない場合はHSSから検索し、ユーザーが未登録の場合はHSSに登録する(1')。ユーザーがサービスを受ける(2)。ユーザーの課金管理には、モバイルオペレータが携帯電話の課金で利用しているHSS/HLRを用いる(3)

(3) シナリオ3: PSドメインサービスの連携
 
 モバイルオペレータは、無線LANを通した、3GPPベースのパケット交換(PS)サービスへのアクセスを可能にする。例えば、モバイルオペレータが、WAP(Wireless Application Protocol: ヨーロッパを中心として提供されているモバイル用データ通信用のプロトコルスタック)サービスを提供している場合、そのサービスは無線LANのユーザーにも提供される。サービスとしては、IMS(IP Multimedia Subsystem)サービス、位置情報サービス、IM(Instant Messaging)サービス、プレゼンスサービス等を対象とする。3GPPと無線LAN間でのサービス継続の保証は要求しない。

図7 シナリオ3における無線LANと携帯電話の連携イメージ

 図7に、シナリオ3における両ネットワークの連携のイメージを示す。

(4) シナリオ4: 移動時のサービス継続を保証、瞬断は許容

 3GPPと無線LAN間でのサービス継続の保証が主眼であり、特別なサービスを除きハンドオーバによる品質の維持は保証しない。すなわち、両ネットワーク間での品質の相違は許容し、コネクションが切断しない範囲で通信の継続を行う。例えば、GPRSベースのWAPサービスを使い始めたユーザーが、移動して無線LANに移っても、そのサービスは継続される。逆も同様である。

(5) シナリオ5: シームレスハンドオーバ

 シームレスサービス継続とも呼び、シナリオ4に加え、データロスや遅延を最小限に抑えてユーザーにとって滑らかな通信品質を維持する。非リアルタイムサービス(ダウンロード型のコンテンツ配信、ファイル転送・共有等)に対しては、Mobile IPを用いた疎結合型の連携を行う。リアルタイムサービス(ストリーミング、ライブ配信、ビデオ・オンデマンド(VOD)、テレビ電話・会議等)に対しては、現在研究または開発中の以下の技術を利用する予定である。

・ 高速Mobile IPプロトコル
・ Context Transferプロトコル
・ アクセスルータ発見方式

(6) シナリオ6: CSドメインサービスの共有

 このシナリオの目的は、モバイルオペレータが、ユーザーに対して、無線LANからの3GPP回線交換(CS: 音声通話等)サービスへのアクセスを可能にすることである。CSサービスのためのシームレスモビリティもサポートする。 次回はいよいよ連載の最終回として、携帯電話用の拡張可能認証プロトコルと認証方式について説明したい。

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目次:IEEEを整理する(9)ケータイと無線LANオールIP化への6ステップ
  <page1> 携帯電話網と無線LANとの相互連携のための6つの段階的シナリオ
<page2>
(1)シナリオ1: 課金明細のみ連携
(2)シナリオ2: 認証、課金の連携
(3) シナリオ3: PSドメインサービスの連携
(4) シナリオ4: 移動時のサービス継続を保証、瞬断は許容
(5) シナリオ5: シームレスハンドオーバ
(6) シナリオ6: CSドメインサービスの共有



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