次世代キャリアサービス大解剖(1)

ルータ不要の回線サービスなんて、あり?

小川悠介
AT&Tジャパン プリセールスエンジニア
2010/7/12

拠点からルータがなくなると何がいいの?

 以上の説明で、拠点からルータをなくすことが可能であることが分かりました。そうなると当然「拠点からルータがなくなると何がそんなにいいの?」という疑問が持ち上がります。

 確かに、ルータの用意が面倒だといっても、回線とルータをネットワークインテグレータからセットで提供してもらえば済むのです。しかしながら、そのセット提供と一線を画する優位点は「導入手間の軽減」ではないかと考えます。

図4 通常拠点とルータレス拠点導入比較

 WAN回線を拠点に敷設したとき、多くは、光ファイバをRJ-45ポートに変換するためのメディアコンバータ(回線終端装置)が設置されます。その後、ルータを導入し、メディアコンバータと接続することとなりますが、そのルータの作業は別の作業員、もしくは拠点担当者によって行う必要が生じます。なぜなら、回線を敷設する作業員の役割は回線終端装置までであり、ほかの機器に触れることはできないからです。

 つまり、回線を敷設するのと同じタイミングかそれ以後に、ルータを担当する別の作業員による設定と設置、メディアコンバータとルータのケーブル接続作業が必要となります。これを二度手間だと感じる担当者もいることでしょう(実際は回線を敷設する段階においても事前の現地調査やビル管理者への確認の発生が想定されますが、ここでは割愛します)。

 比べて、ルータレスの場合は、回線を敷設し、回線終端装置を設置した段階で完了です。もちろん回線終端装置とハブとのケーブル接続は拠点担当者が行わなくてはなりませんが、自宅にインターネットを用意されたことがある方ならば、ハードルはさほど高くないと想像します。結果的にルータの設置スペースも不要となり、地味ながら必要な電源コンセント数も減ります。拠点数が10なら10台のルータと導入の手間、拠点数が100なら100台の……といったふうに、拠点数が多ければ多いほど効果が期待できると想像できます。

ルータレス導入時のポイントは?

 ここではルータレスの検討ポイントを説明します。なお、詳しくは自社が利用しているキャリアやネットワークインテグレータに相談するとよいでしょう。

1 ルータレスを検討するタイミング

 ルータレスサービスの提供条件はさまざまですので割愛しますが、拠点の新規追加時や拠点ルータのサポート切れ対応など、対象拠点に「物理的作業」が発生する場合は検討可能な場合があるでしょう。

2 「ルータにできてルータレスではできないこと」の確認

 市場でルータと名の付く製品は、ローエンドであっても多機能であり、その処理性能が許す限り高度で複雑な機能が利用できます。

 しかしながら、ルータレスでは利用できる機能が限定的にならざるを得ません。例えば、設定できるサブネットマスクやネットワークアドレス数への制限は必ず存在すると考えられます。仮にルータレスでLAN側アドレスに/24ビットのネットマスクを利用した場合、バックボーンのエッジルータは200個超のMACアドレスをARPテーブル上で管理するだけのリソースが必要となるからです。

 また、拠点内にネットワークアドレスを複数持てば、拠点内通信においてバックボーンのPEをゲートウェイとして折り返す構成となるかもしれず、想定外のトラフィック処理を求められる可能性もあります。

 それでもルータレスの機能は拡張されていく可能性がありますので、確認することをお勧めします。

3 移行方法

 すでに利用している回線を何らかの理由でルータレス化する場合、その方法はケースバイケースとなります。普段意識せず使っているアクセス回線には多くの線種があり、バックボーン側にもさまざまな仕様条件があるためです。まずは、キャリアかネットワークインテグレータに相談することをお勧めします。

ルータレスでは手の届かないところとは?

 次に、ルータレスでは手の届かない部分に焦点を当ててみたいと思います。

 最初に運用面に着目してみましょう。筆者が感じる検討事項は「拠点に管理用IPアドレスがつかないことによる運用品質」ではないかと思います。

 企業の多くは通信障害を能動的に検知するために監視システムを利用しています。ネットワーク監視の基本はPingによる死活確認となりますが、拠点ルータはLANとWANの境界に位置するため、障害の切り分けにとても重宝する存在です。

図5 ネットワーク監視比較

 ルータレスの場合、拠点のどこを監視すべきか悩むところです。LANのゲートウェイは物理的には拠点から遠く離れていますから、疎通確認が取れても拠点との疎通性を確認したことにはなりません。拠点内の端末を監視対象としても、電源オフや再起動などがトリガーとなって障害として認識される可能性があります。

 ならば、回線終端装置に接続するハブを、IPアドレスを持てるインテリジェントスイッチに交換しては……となりますが、それにはインテリジェントスイッチを現地に導入しIPアドレス設定を行う作業者が必要となり、ルータ本体を設置するのと同じような手間が掛かってしまいます。

 ならば「いっそ監視をしなければ?」となりそうですが、「え? でもそもそも必要だから監視するのでは?」と、議論が堂々巡りになりかねません。キャリアからバックボーンと回線終端装置間の通信性の確認を行える場合もありますが、能動的な監視が前提となると、意図に沿えない部分が出てくるかもしれません。

 次に、通信品質について見てみましょう。例えば音声通話をVoIP化しているとき、回線帯域が込んでいても、拠点のルータで音声用の帯域を優先的に確保することができました。

 ところが、仮に10Mbpsのルータレス回線にハブを経由して複数の端末が100Mbpsで接続されていると、ハブと回線の接続ポイントでパケットドロップが発生する可能性が出てきます。対応する方法もいくつか考えられますが、拠点ルータと比べると、通信制御の品質を保てない場合があるかもしれません。

図6 帯域制御比較

 ルータレスを検討する際には、こうした事柄を頭に入れておく必要があります。

ルータレスへの今後の期待

 最後に、筆者が今後のルータレスに期待している機能を挙げたいと思います。

 1つ目は、地味かもしれませんが、回線終端装置にユーザーが利用できるIPアドレスが付与されることです。企業ネットワーク担当者としては、代替案を検討することなく同水準の監視を行える可能性があるからです。

 2つ目は、回線終端装置を1つのデバイスとしてとらえて、スイッチポートや無線LANのアクセスポイントが組み込まれる方向への期待です。そんなバカな、と思われるかもしれませんが、拠点担当者の負担が本当に軽減されるのであれば検討に値すると感じます。

 3つ目は、ルータレスの機能や利用できるアクセス回線が拡充していくことです。ここでは1つ1つを取り上げることまではしませんが。仮に今後5年間、ルータレスが市場の支持を得て順調に機能拡張を果たしていくとすれば、興味深い企業ネットワークの姿が現れてくるだろうと期待できます。

 ルータレスが今後どのように受け入れられるかはわかりませんが、便利な一手法として前向きな検討がなされることを期待しています。もちろんルータレスが使えなくとも何の問題もないことはいうまでもありません。企業ネットワークにはこれまで積み重ねてきた豊富なノウハウと十分なラインアップがそろっているからです。

 いかがでしたでしょうか? ルータレスとは、別の見方をすると、キャリアからの仮想ルータサービスと見ることもできます。なぜかといえば、バックボーンでルータレスを収容するハードウェアは複数に分割された仮想ルータ機能を提供していることになるからです。さまざまなネットワーク製品の仮想化対応が進んでいる現状を考えれば、ユーザーが自由に仮想ルータベンダを指定し、おなじみのコマンドを使って利用できる時代が来ても、まったく不思議ではないように感じます。


ルータ不要の回線サービスなんて、あり?
  はじめに
そもそも拠点にルータが必要なわけは?
ルータを不要にした仕掛けとは?
拠点からルータがなくなると何がいいの?
ルータレス導入時のポイントは?
ルータレスでは手の届かないところとは?
ルータレスへの今後の期待
「Master of IP Network総合インデックス」
→「ものになるモノ、ならないモノ」連載各回の解説


Master of IP Network フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

Master of IP Network 記事ランキング

本日 月間