特集:総務省が公表するWiMAX規格のチェックどころ(後編)
2007年、いよいよWiMAX始動か?!



2007/1/23
原 孝成
ノーテルネットワークス

 WiMAXでのMVNO

 総務省は12月13日、MVNO事業の定義を明確にし、移動通信分野のさらなる競争促進、利用者環境をより良くするために、「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」の改正案を発表した。

 これによると、移動通信事業者(MNO)は合理的な理由がない限り、MVNOへサービスを提供しなければならない。つまり、先の公聴会に参加した企業・団体はすべてがBWA事業の免許を取らないとサービスができないわけではなく、事業規模、サービス内容、サービス料金などでMNOと折り合いがつけばすべてのBWAインフラを展開、所有しなくてもサービスを提供できる。

 特に移動通信事業は初期投資や設備の維持管理にたくさんのリソース、資金を必要とするので、ハードルが高い。もし周波数の割り当てが全国バンドだけで、例えば地方都市やデジタルデバイド地域だけのサービスを考えている場合は、全国バンドを持つ事業者からインフラを借りた方が自分で考えているビジネスモデルに集中できるかもしれない。ただデジタルデバイド地域に関しては、MNOが必ずしも設備を打つとは限らないので、何らか補助のようなMNOへのインセンティブも必要であろう。

 先のMVNOのガイドラインでは、第2章(2)においてMVNOとMNOとの間の関係を定義している。1つ目は卸電気通信役務の提供による場合、つまり設備の一切合切をMNOから借り受けるケースで、2つ目は事業者間接続による場合、つまりMVNOが何らかの電気通信設備を所有し、それをMNOと接続するケースである。

 WiMAXにおいてMVNOが所有する可能性のある何らかの電気通信設備とは、前述したWiMAXネットワーク参照モデルの中で、CSNの部分に相当する。ここで、MVNOが自ら加入者情報や認証機能を管理したり、機器の監視を行ったりすることが考えられる。この場合、MVNOはMNOと認証機能、トラフィックポリシー、課金機能などについて話し合い、接続できるようにする必要がある。

・総務省 : 「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」の改正案に対する意見募集
総務省、改正MVNOガイドラインを発表――改正案への意見も募集


 WiMAXに募る今後の期待

WiMAXの商用スケジュール>

 総務省は前述した公聴会においても今後のBWA導入に向けたスケジュールを示している。下記の図は総務省が前述した公聴会に用意した情報通信審議会広帯域移動無線アクセスシステム委員会報告(案)の概要からの抜粋である。

図4 2.5GHz帯のBWA導入に係わる今後のスケジュール
出典:総務省 情報通信審議会広帯域移動無線アクセスシステム委員会報告(案)の概要

 ここでは、免許の方針案はだいたい年明けくらいに示されるとされている。この時点で、全国バンドなのか、地域分割バンドなのか、80MHzのうちどのくらいの帯域が何社に割り当てられるのか、といった方針が見えてくる。

 次にその案に対するパブリックコメントが募集され、意見を基に内容が決まった後、特定基地局の開設計画申請というかたちで事業者免許の申請が始まり、総務省で検討が行われた後、だいたい夏ごろには事業者が決定する。BWAの事業者となることを希望する企業・団体はその申請までに、どこをカバレッジとするかという基地局の展開計画、スケジュール、サービスモデルなどの事業計画をまとめていくことになる。

 公聴会においては、各社・各団体が、さまざまな駆け引きがある中で、どのような免許を希望しているのか、どのような事業モデルを考えているのかといった最初のカードを見せ合った。これにより、需要や市場の大きさ、どのようなサービスが出てくるか、といったことも見えてきた。これらを踏まえ、各候補者は、どうすれば事業として成り立つのか、どことパートナーシップを結べばよいのか、どうすれば事業免許を獲得できるのか、といった戦略を修正し、練り上げていくであろう。

 WiMAXの機能拡張 〜802.16j、802.16m〜

 WiMAX自体も今後も機能拡張が予定されている。特徴的なものとしては、802.16jと802.16mが挙げられる。802.16jはリピータ機能で、例えばビルの陰などで電波がうまく届かない場合、電波が届いているところにこのリピータ子機を置いて、親基地局からは直接は電波が届かないところに向かって電波を吹き直す機能である。

 このような不感地対策や、ビルの屋内に屋外の電波を取り込むソリューションとして使える。現時点で、標準化が進んでいる。また、802.16mは、802.16の仕様をITU-Rで議論されているIMT-Advanced標準の1つとして位置付けることを目標にしていて、スループットや周波数利用効率のさらなる向上が必要なものの、WiMAXが第4世代のワイヤレス技術として成長するための大きな節目となる活動である。

 次世代高速無線データ通信サービスは、非常に期待されているマーケットである。既存の3GやPHSのデータ通信速度では満足できず、特に3Gのデータ通信は非常に高額である。出張先や客先などでもっと気軽に無線データ通信をしたいと思うビジネスマンは多いはずだ。

 無線LANサービスは、確かにアクセスポイントの数は増えてきたが、やはりサービスエリアを探してそこまで行かなくてはならない。これまでPDAは何度かブームを経験してきたが、やはり快適な無線アクセス環境がないという理由もありなかなか普及しなかった。デジタルデバイド地域といわれる場所は、ADSLを引くには距離があり過ぎて、山、川、谷を越える工事のコストからなかなかファイバー敷設も進まないため、高速データ通信を行うことができない。

 WiMAXには、こういった通信速度、カバレッジ、サービス価格といったすべての問題を解決できる可能性がある。これまでずっとできなかったこと、我慢していたことから開放される。そしてこういったインフラを整備するということは、それを提供する通信事業としてのマーケットだけでなく、その上に載るさまざまなサービスのマーケットが広がることも意味する。

 日本は世界一のブロードバンド大国になったといわれるが、WBAシステムによりまた次のステージに進むことができる。WBAを使った新しいサービスを、より多くの人が受けられるようになり、より豊かな生活が送れるようになると、夢は広がる一方である。 

著者の勤務先であるノーテルも国内外でWiMAXシステムの提供をしている。実際の活用例として参考にしていただければ幸いだ。

ノーテルと東芝、総務省 東北総合通信局のモバイルWiMAXの実証実験に機器を提供
ロシアのゴールデンテレコムにモバイルWiMAXのフィールドトライアルソリューションを提供
台湾で最初の統合型地方政府向けWiMAXネットワークを提供




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目次:2007年、いよいよWiMAX始動か?!
  <page1> どうなった事業者向けヒヤリング/難産だった?! 技術条件
  <page2> BWAに対する要求条件/BWAシステムのライセンスはいくつ出るか?/3Gシステムとの比較
  <page3> 無線LANとの比較/WiMAXシステムの構成要素
<page4> WiMAXでのMVNO/WiMAXに募る今後の期待/WiMAXの機能拡張 〜802.16j、802.16m〜

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