ニュース解説
Rambus社に「敗訴」の司法判断 山崎俊一 |
サードパーティ製DDR SDRAMサポートのPentium 4対応チップセットの動向
Intel以外の各チップセット・ベンダは、DDR SDRAM対応のPentium 4向けチップセットを、2001年内にも発売しようとしている (VIA TechnologiesのP4M266は2002年)。
チップセット・ベンダ名 | チップセット名 |
VIA Technologies | P4X266およびP4M266(グラフィックス・コントローラ統合) |
Acer Laboratories(ALi) | M1741 |
Silicon Integrated Systems(SiS) | SiS645 |
いずれの製品も共通してAGP 4x、Ultra ATA66/100、PC2100対応といった仕様で、一見するとIntel 845Bをしのぐように見える。ただし、前述のように現行のPentium 4自体のベース・クロックが100MHzである以上、ベース・クロックが133MHzであるPC2100のサポートには疑問が残る。クロック周波数の異なる非同期動作も考えられるが、実際、どのような製品になるのだろうか。いまのところ、Direct Rambus×2チャネルのIntel 850を超えるものになるとは思えない。
Pentium III/CeleronのDDR SDRAMサポートを考える
Pentium IIIやCeleronにおけるDDR SDRAMのサポートはどのようになるのだろうか。実は、Pentium III/CeleronとDDR SDRAMの組み合わせは、PCの性能向上という意味では、技術の必然性に乏しいのだ。プロセッサ・バス側のバンド幅上限が800Mbytes/sないしは1064Mbytes/s程度であり、SDR SDRAMの性能上限と一致する。つまり、プロセッサが必要とするメモリ・バンド幅に対して、DDR SDRAMはオーバー・スペックというわけだ。
しかし、Socket 370とDDR SDRAMの組み合わせをサポートするVIA TechnologiesのApollo Pro266チップセットは、以下の表のように多くのマザーボードで採用されている。
マザーボード・ベンダ | Apollo Pro 266採用のマザーボード | 製品情報ページ |
AOpen | AX37 Pro/AX37 Plus | http://www.aopen.com/products/ mb/ddr.htm |
ASUSTeK Computer | CUV266 |
http://www.asus.com/products/ |
DFI | CD70-SC | http://www.dfi.com/frame.asp |
Gigabyte | GA-6RX/GA-6RXB | http://www1.gigabyte.com.tw/products/ 6rx.htm |
MSI | Pro266 Master(MS-6366)など | http://tw.msi.com.tw/product/ main_show.asp?pro_name=MS-6366 |
当然のことながら、パフォーマンスはPC133 SDRAM利用のシステム(例えばIntel 815チップセット採用)とほとんど差がない。だが、いち早くDDR SDRAMを利用できるといった期待感からか、秋葉原のPCパーツ販売店での売れ行きランクの上位を占めている。
VIA Technologies Apollo Pro266 |
DDR SDRAMをサポートするPentium III/Celeron向けチップセット。DDR SDRAMが利用できるチップセットとして人気が高い。 |
では、Pentium IIIやCeleronでは、DDR SDRAMサポートはまったく意味がないのかというと、そうでもない。グラフィックス機能を統合したチップセットの場合、メイン・メモリの一部をグラフィックス・メモリとして使うため、SDRAMではバンド幅が足りず、グラフィックス性能が犠牲になってしまう。しかしDDR SDRAMをメイン・メモリにすれば、バンド幅が広がることでグラフィックスの性能低下を防ぐことができる。グラフィックス統合型チップセットでは、別個にグラフィックス・チップとグラフィックス・メモリが不要になるため、PCの製造コストを抑えられるというメリットがある。DDR SDRAMの価格がさらに下がれば、廉価で高性能のPCが実現できるようになるわけだ。ちなみに、前述のApollo Pro266チップセットは、グラフィックス統合型ではない。
AMD AthlonとNVIDIAのCrushチップセット動向
プロセッサ・ベンダとしてIntelに対抗しているAMDは、DDR SDRAMの普及を先導しているようにみえる。DDR SDRAM対応チップセットもAMD-760を始め、Athlon/Duron向けに各社が発表している。しかし、今後のDDR SDRAMの動向を占ううえで最も注目されるのは、NVIDIA社の新しいAthlon向けグラフィックス統合型チップセット「Crush(クラッシュ)シリーズ」ではないだろうか。
NVIDIAは、グラフィックス・チップのRIVA TNTシリーズやGeForceでよく知られている会社だ。最近では、Microsoftのゲーム専用機「Xbox」のチップセットと統合グラフィックス・コアを担当していることでも有名である。このXbox向けのチップセットは、IntelからチップセットIPを入手したものである。ちなみに、この時期にRambus社から特許侵害の警告を受け、ライセンス契約を迫られていた。
このXbox向けチップセットを出発点とするのが、Crushと呼ばれるユニークなチップセットである。Crushには4種のバリエーションが予定されており、非公式ながら以下のような仕様概略がベンダ筋に伝えられている。
チップセット | メモリ・インターフェイス | バンド幅 | グラフィックス・インターフェイス | グラフィックス・コア |
Crush11 | PC133/DDR266 | 1.0Gbytes/sまたは2.1Gbytes/s | 64bit | GeForce 2 MX相当 |
Crush12 | DDR266×2チャネル(PC2100×2) | 4.2Gbytes/s | 128bit | 同上 |
Crush17 | DDR333(PC2600) | 2.66Gbytes/s | 64bit | GeForce 3 MX相当 |
Crush18 | DDR333×2チャネル(PC2600×2) | 5.33GB/秒 | 128bit | 同上 |
Crushシリーズのグラフィックス統合ノースブリッジ | ||||
ノースブリッジにグラフィックス・コアを統合している。メイン・メモリとグラフィックス・メモリを共有するUMA(Unified Memory Architecture)を採用する。サウスブリッジにはXboxにも搭載されているMCP-1というチップを組み合わせる。Ultra ATA/100と10/100BASE-TXをサポートする。 |
Crush18がサポートするDDR SDRAMの2チャネル化と、これによる最大5.33Gbytes/sのメモリ・バンド幅が注目である。Crush18は、2002年登場予定であるが、この時点でDDR SDRAMの性能はDirect Rambusに追い付く可能性もある。それだけに、技術的には容易でないかもしれない。
Crush製品化の動向
すでに、マザーボード・ベンダのABIT Computerは、Crush12を搭載した2種類のマザーボードを準備しているといわれている(2001年第3四半期出荷予定)。
型番 | NV7 | NV-22 |
チップセット | NVIDIA Crush12+MCP-1 |
←
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マザーボード形状 | ATXフォームファクタ | microATXフォームファクタ |
拡張スロット | AGPポート×1、PCIスロット×5 | AGPポート×1/PCIスロット×3 |
メモリ・ソケット | DDR SDRAM DIMMソケット×3 |
←
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拡張インターフェイス | USBポート×4、Ultra ATA/100 |
←
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サウンド機能 | AC'97 サウンド |
←
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ABIT Computerが準備しているCrush12搭載のマザーボードの仕様 |
ちなみに、サウスブリッジのMCP-1はXboxにも搭載されることから、そのストリーミング・オーディオ機能にも注目が集まっている。また未確認だが、AMDのHyperTransportも採用されているらしい(HyperTransportについては、「元麻布春男の視点:AMDがHyperTransportを公開した理由 」参照)。
Crushの特徴的構成は、その多くがXboxと共通で、各社(特にIntel)の調整がつけば、Pentium III版Crushの製品化も予想されている(つまりXboxチップセットの独立製品化)。もし、Crushが成功すれば、今年一番の話題作になるだろう。開発経緯も面白いし、技術としても興味深い。PCアーキテクチャにちょっとした新風をもたらすことになるだろう。
仮に、今回の裁判でRambus社が勝訴していたら、NVIDIAへの影響もまぬがれなかっただろう。その意味で、今後のMicronやHynixとの訴訟も目が離せない。ただし、例えRambus社が逆転、全面勝訴するようなことがあっても、いったん動き出した業界の流れは変わらないかもしれない。一方で、前述のように世界最大のプロセッサ・ベンダであり、チップセット・ベンダとしても大きなシェアを誇るIntelが、DDR SDRAMのサポートに対して消極的なのは気になるところだ。もともと素性のよい、独創性にあふれた技術であるだけに、Rambusテクノロジも発展が続くことに期待したい。
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メモリ業界を二分するRambus裁判 | |
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AMDがHyperTransportを公開した理由 | |
次世代標準メモリの最有力候補「DDR SDRAM」の実像 |
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[ニュース解説]Rambus社に「敗訴」の司法判断 | ||
1.判決の内容とその影響 | ||
2.DDR SDRAM対応チップセットの動向 | ||
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