ニュース解説

Rambus社に「敗訴」の司法判断
どうなるPentium 4のDDR SDRAMサポート

―メモリ業界を二分するRambus裁判続報―
 
1.判決の内容とその影響

山崎俊一
2001/05/19

 5月4日、米国バージニア州連邦地裁は、ドイツの半導体製造大手、Infineon Technologies社に対するRambus社の特許権侵害の訴えをすべて棄却した(Infineonの「Rambus裁判に関するニュースリリース」)。この裁判に至る経緯は、「ニュース解説:メモリ業界を二分するRambus裁判」で解説したとおり。Rambus社は、DDR SDRAMを含むSDRAM製品に自社の知的所有権(IP:Intellectual Property)を主張し、ロイヤリティ(特許使用料)の支払いを求めていた。Infineon社はこれを認めず、SDRAMは標準化団体JEDECの公開仕様であることから、JEDECの特許公開原則(JEDEC’s Disclosure Rules)違反として逆に損害賠償を求めていたというものだ(JEDECのホームページ)。

 取りあえずの方向性が見えたことで、メモリ業界も一段落。懸念されていたSDRAM/DDR SDRAM対応チップセットなどへの影響も、当面は回避できそうだ。そこで、今回は5月4日のRambus裁判の概要を解説するとともに、この裁判がIntelを始めとする各チップセット・ベンダの戦略に影響を及ぼすのかどうかを探ってみよう。

5月4日判決の結果

 陪審は、57件にのぼるRambus側訴状のうち8件のみを審理対象とした。この8件のうち最大の争点が、メモリIC内部のマルチプレックス・アドレス線(多重化アドレス線)についてであった。マルチプレックス・アドレス線についてInfineon側は、「SDRAMにおいては、アドレス線が行(Row)と列(Column)の2つに独立しており、マルチプレックス(多重)化されていない。つまり、Rambus社の特許に触れるものはない」という主張であった。裁判の中でペイン判事は、「Rambusの特許は内部にマルチプレックス・アドレス線を備えたメモリICを対象とするもの」と解釈し、SDRAMはこれに該当しないため、特許侵害も成立しない、という判断を下した。判決は、Rambus社の特許そのものを否定するものではなかったが、Infineon側の主張をほぼ認めるものとなった。

 また判事は、例えこのようなSDRAMの設計がRambus社の知見に触発されたものであったとしても、同社は10年間も黙認していたことになり、今になって知的所有権侵害とは認め難い、とも指摘している。さらにJEDECの特許公開原則違反に対しては、名目350万ドルの賠償金支払いがRambus社に課されている。この判決に対し、Rambus社は、抗告の意思を表している(Rambus社の「Infineonとの裁判に関するニュースリリース」)。

Rambus社への影響

 この審判で、Rambus社が要求していたDDR SDRAMのロイヤリティは、売り上げの3.5%で、DDRではない通常のSDRAM(SDR SDRAMとも呼ばれる)は0.75%であることも明らかにされた。5月4日の判決が確定すると、すでにRambus社と契約済み、支払い済みのメモリ・ベンダ8社(うち7社は日本企業)もその支払い停止、および払い戻しを要求する権利が発生するものと思われる(非公開ではあるが、Rambus契約に見直し条項が含まれているようだ。Samsung Electronics、日立製作所が再交渉を要求する動きをみせている)。

 いずれにしても、5月4日の判決は一連のRambus訴訟の最初であり、Micron Technology、Hynix Semiconductor社(旧Hyundai Electronics)との米国内での訴訟や、ドイツでの訴訟が後に控えている。それぞれ争点も異なり、今回の判決だけで今後を予想することはできないが、Rambus社は落胆の色を隠せないでいる。

 ちなみに、同社ホームページ上で公開されている第2四半期(2001年1月〜3月末)決算を見ると、法廷費用が急増しており、売り上げの1/4近くに達している(Rambus社の「2001年第2四半期の決算報告」)。これは、Infineon訴訟の予想外の展開によるもので、来期(2001年第3四半期)の法廷費用も多額にのぼると、同社はコメントしている。Rambus社が(実際にモノを製造しない)IPカンパニーで、原材料費などがかからず売り上げの大部分が利益になるとはいえ、この比率は尋常ではない。それが利益を圧迫していることは明らかで、この判決を受けてモルガン・スタンレー(Morgan Stanley)など調査会社による同社株ランクの格下げや、経営陣の一部入れ替えも噂されている。

Rambus社実績(概算) 売上高 法廷費用 純利益
昨年同期:2000年第2四半期 1569万ドル 66万ドル 397万ドル
前期:2001年第1四半期 3472万ドル 428万ドル 1317万ドル
当期:2001年第2四半期 3125万ドル 729万ドル 818万ドル

DDR SDRAM陣営は一安心

 このロイヤリティがゼロになっても、メモリ・ベンダが赤字状態で生産を行っているSDRAM製品の市場価格が下がるとは思えない。それでもこれ以上、訴訟が広がることはないという、一種の安堵感が業界に広がっている。というのは、仮にRambus社が勝訴した場合、メモリ・ベンダだけでなく、プロセッサのメモリ・インターフェイスやチップセットのノースブリッジまで、この特許の範疇に入りかねないからだ。実際、2000年1月の日立製作所に対する訴訟では、日立製作所製のSHシリーズ(セガのドリームキャストにも採用されているプロセッサ)が特許侵害で訴えられた(SDRAMインターフェイスを備えているため)。グラフィックス・チップの大手ベンダであるNVIDIAも、同じく特許侵害の警告を受け、ロイヤリティの支払いを求められていた。NVIDIAは、グラフィックス・チップだけではなく、XboxのDDR SDRAM対応チップセットも担当しているため、Xboxに対する影響も懸念されていた。

 極端な話、「市場全体がRambusのご機嫌次第という独裁状態になりはしないか」という危惧が、当面消えたことで業界は一安心といった状態だ。すでに定着しつつあるDDR SDRAMの普及傾向にもプラスに働くことは確かだろう。

Intel Pentium 4とIntel 845の動向

 では、このまま次世代メモリはDDR SDRAMで決まり、となるのだろうか。まずは、チップセット市場で大きなシェアを占めるIntelの動向を確認してみよう。

 Intelは、開発コード名「Brookdale(ブルックディール)」で呼ばれるSDR SDRAM対応のPentium 4向けチップセットIntel 845Aを、8月から量産開始する予定だ。これにより、これまでDirect RDRAMしか選択肢がなかったPentium 4のプラットフォームが変わってくる。

 Intel 845Aを搭載したマザーボードは、業界各社ですでに設計・試作が終了している。製品出荷は9月の予定で、開発コード名「Northwood(ノースウッド)」で呼ばれている0.13μm製造プロセスのPentium 4(動作クロック2.0GHz以上、Socket 478)と同時期になるようだ。すでに、以下のような仕様のマザーボードを、AOpen社に近い欧州のディーラーが予告している。

製品名 AOpen AX4B
マザーボード形状 ATXフォームファクタ
ソケット Socket 478
チップセット Intel 82845A Memory Controller Hub (MCH)+82801BA I/O Controller Hub (ICH2)
拡張スロット AGP 4xスロット×1、 PCIスロット×6、CNRスロット×1
メモリ・ソケット DIMMソケット×4(PC133 SDRAM対応)
サウンド機能 AC'97サウンド機能

 なお、Intel 845Aは仕様上、PC133 SDRAMさえ不要で、PC100が使える(はず)。またIntel 845A自体は、現行のPentium 4のソケットであるSocket 423(スロット&ソケット図鑑の写真)にも対応するが、そういったマザーボードが製品化されるかどうかは定かでない。

 Intel 845Aの登場により、IntelはDirect RDRAMのサポートを縮小し、このままSDR SDRAMからDDR SDRAMへと主軸を移すことになるのだろうか。Intelは、すでにサーバ向けには、DDR SDRAMを積極的にサポートしていくことを正式に表明している(ただし、PC1600)。しかし実は、ことはそう簡単に運ばない。

意図的に消極的なDDR SDRAM対応

 Intel 845Aに続いて、2002年早々にはDDR SDRAM対応のIntel 845Bという製品のリリースが予定されている。というか実は、2001年4月末にIntelがマザーボード・ベンダに開示したIntel 845関連の資料によれば、Intel 845AとIntel 845Bは同一シリコンであるという。これが事実なら、Intel 845Aの出荷時点でDDR SDRAM対応が行えるはずである。つまり、Intelは純粋にマーケッティング的な判断でDDR SDRAM対応版のリリースを6カ月間遅らせることにしたわけだ(と理解するしかない)。

 また、現行のPentium 4のFSBクロック周波数は、100MHz×4=400MHzと100MHzをベースにしているため、Intel 845Bのメモリ・バスもまた100MHz×2=200MHz駆動のPC1600対応になるという*1。つまり、バンド幅(転送速度上限)は200MHz×64bit=1.6Gbytes/sで、Direct Rambusチャネル1本分と同等、およびPC100の2倍速になる。例え、PC2100(133MHz×2)のDDR SDRAM DIMMを搭載しても性能は変わらない。それどころか、IDF(Intel Developer Forum:開発者向けのセミナー)などでIntelは、「PC2100の相互互換性は低く、Intelとしては動作の保証が行えない」と発言している。つまり、現行のPC2100は、将来IntelがPentium 4の133MHzのFSBクロックをサポートしたとしても、そのままでは利用できない可能性もある(PC2100にIntelが新たな仕様を加える可能性があるため)。

*1 一般的に、プロセッサ・バス(FSB)とメモリ・バスのベース・クロックは同じ周波数で同期している方が、プロセッサ−メモリ間のデータ転送を高速化しやすい。

 結局Intel 845A/B登場後も、IntelのデスクトップPC向けチップセット・ラインアップにおけるDirect RDRAMの優先的位置付けは変わらず、以下のようなセグメンテーションになる。

セグメント チップセット メモリ・サブシステム メモリ・バンド幅
パフォーマンスPC Intel 850 Direct Rambus×2チャネル 3.2Gbytes/s
メインストリームPC Intel 845B PC1600(DDR SDRAM) 1.6Gbytes/s
バリューPC Intel 845A PC100(SDR SDRAM) 800Mbytes/s

IDF 2001 Springで示されたIntelのメモリ・ロードマップ
この図は、IDF 2001 Springで示されたもの。このようにIntelは、Direct RDRAMの下にDDR SDRAMを位置付けている。この姿勢は、現在でも変わっていない。

 さらに、2002年中には、開発コード名「Brookdale-G(ブルックディール・ジー)」というグラフィックス機能を統合したチップセットも予定されている。これは、主に企業向けPC市場もしくはバリューPC向けとなると思われる。動作クロック2GHzを超えるNorthwoodとBrookdale-Gの組み合わせで、ボリューム・マーケットを目指すのだろう。

 次ページでは、Intel以外のチップセット・ベンダのDDR SDRAMへの取り組みを見ていこう。

  関連記事
メモリ業界を二分するRambus裁判
プロセッサ用ソケット/スロット
AMDがHyperTransportを公開した理由
次世代標準メモリの最有力候補「DDR SDRAM」の実像

  関連リンク
Rambus裁判に関するニュースリリース
JEDECのホームページ
Infineonとの裁判に関するニュースリリース
2001年第2四半期の決算報告
 
 

 INDEX
  [ニュース解説]Rambus社に「敗訴」の司法判断
  1.判決の内容とその影響
    2.DDR SDRAM対応チップセットの動向
 
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