元麻布春男の視点WinbondのRDRAM量産の持つ意味 |
2001年6月27日にWinbond Electronicsは、「2001年第4四半期からRDRAMの量産を開始する」と発表した(Winbondの「RDRAM量産出荷開始に関するニュースリリース」)。現在、RDRAMの量産を行っているのは、三星電子(Samsung Electronics)、東芝、エルピーダ・メモリの3社である(Micron TechnologyやInfineon TechnologiesもカタログにRDRAMを載せているが量産は行っていない)。かつてはLG電子がRDRAMの量産を行っていたが、同社が現代電子(現Hynix Semiconductor)に買収されて以来、上記の3社体制となっていた。Winbondは4社目のRDRAM量産会社になると同時に、日本と韓国以外で初めてのRDRAM量産会社となる。
Rambusのニュースリリースによると、現在Winbondは128Mbitと256Mbitの2種類のDirect RDRAMチップをサンプル出荷している模様だ(Rambusの「WinbondのRDRAM量産出荷に関するニュースリリース」)。しかし、Winbondのニュースリリースによると、第4四半期からの量産予定に挙げられているのは256Mbit品のみとなっている。ひょっとすると128Mbit品は、東芝への製品供給用なのかもしれない。実はWinbondと東芝は、1995年以来、技術供与と製品供給を含む提携関係にあり、こうしたやりとりが行われてもおかしくないのだ。
Winbondは、台湾で最大手の半導体会社(ファウンダリ企業を除く)ではあるものの、DRAMベンダとして世界のメジャーに数えられるほどではない。おそらく出荷量では10位前後になるだろう。当然、市場全体に占める生産量という点で、直ちに大きなインパクトがあるとは思えない。だが、台湾にRDRAMの拠点ができた、という点で非常に重要なのではないかと思われる。
先日開かれたRambus Developer Forumにおいて、マザーボード最大手であるASUSTeK ComputerのAssociate Vice Presidentのジェリー・シェン(Jerry Shen)氏は、RDRAMが成功するための最も重要な3つの要件として、SDRAMに対して性能差を示すこと、コストダウン、それと同列に、台湾における入手性の改善(台湾にRambusのインフラストラクチャを整備すること)を挙げた。今回のWinbondの発表は、3番目の要件の解消に貢献するだろう。
ASUSTeK Computerのジェリー・シェン氏のプレゼンテーション |
Rambus Developer ForumでASUSTeK Computerのジェリー・シェン氏が話したRDRAMが成功するための3つの条件。この中に「台湾にRambusのインフラを整備する」という項目()がある。 |
なぜWinbondはRDRAMの量産を決意したのか
それにしても、なぜいまRDRAMの量産を始めるのか。この夏にもPentium 4対応のSDRAMチップセットであるIntel 845がデビューすることになっている。Winbondが量産を開始するころには、現在とは違ってPentium 4はRDRAMだけのプラットフォームではなくなっているハズだ。状況によってはメインストリームがRDRAMではなく、PC133 SDRAMになったとしても、不思議ではない。「元麻布春男の視点:DDRとRDRAMは次世代メモリ争いの決勝戦に勝ち上がれるのか?」でも述べたように、Intel 845の性能が比較的良ければ、RDRAMの今後の出番はなくなってしまう可能性もある。
基本的に台湾のメーカーは、少量しか売れないハイエンド品より、出荷量が多いメインストリームの製品を好む。今回のWinbondの発表にしても、出荷されるのは128Mbit品と256Mbit品で、ECCをサポートした144Mbit/288Mbit品の話はない。おそらくコストを引き下げられる4バンク構成の4iも量産予定に入っていることだろう。すでに台湾の大手マザーボード・ベンダにはIntel 845のサンプルが供給されており、その性能がどのようなものになるかは、おおよそ分かっているものと思われる。
もし、Intel 845(PC133)とIntel 850(RDRAM)の性能差が小さければ、Intel 845がデビューした後、Intel 850は急速に一握りのハイエンドを占めるだけのニッチ品になってしまい、RDRAMに対する需要は激減するハズだ。果たして、それが分かっていても、なおWinbondは第4四半期から256Mbit RDRAMの量産を始めるというのだろうか。
もちろん、RDRAMの量産に踏み切る直接の理由が、低迷するSDRAMの価格にあることは明らかだ。そして、それが近い将来に劇的に回復する見込みがないと判断したからこそ、SDRAMより高い価格が付いているRDRAMの量産に踏み切ったに違いない。それでも、Intel 845の性能が高ければ(つまりIntel 850の性能に近ければ)、RDRAMはPentium III(Intel 820)に続いて、Pentium 4においても市場から駆逐されてしまい、WinbondはRDRAMから利益を上げることはできなくなってしまうのは明らかだ。そうなると、RDRAM全体がダブついてしまうから、東芝へ製品供給する必要性も薄れる。結局、RDRAMの価格も暴落することになる。
いずれにしてもIntel 845とIntel 850の性能差が、PC用メインメモリとしてのRDRAMの運命を決定付けるということに変わりはない。が、WinbondがこのタイミングでRDRAMの量産を表明したことは、Intel 845とIntel 850の間にしかるべき性能差がある(ASUSTeKの挙げた要件その1)ことのあかしのように思えて興味深い。一部では、チップセット・ベンダのALiがRDRAMをサポートしたチップセットを開発するともいわれている(Pentium 4向けのDDR SDRAM対応チップセットの開発表明は行っている)。PC133とRDRAMの間の準決勝に対する注目は、いやがおうにも高まってくる。
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DDRとRDRAMは次世代メモリ争いの決勝戦に勝ち上がれるのか? |
関連リンク | |
RDRAM量産出荷開始に関するニュースリリース | |
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「元麻布春男の視点」 |
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