元麻布春男の視点
DDRとRDRAMは次世代メモリ争いの決勝戦に勝ち上がれるのか?


元麻布春男
2001/06/22

 2001年6月13日にRambus社は、東京で開催した「Rambus Developer Forum Japan 2001」で、RDRAMとRIMMに関する2005年までのロードマップを発表した(ラムバスの「2005年にかけてのRDRAM・RIMMのロードマップに関するニュースリリース」)。ポイントは、動作周波数を現行の400MHzから600MHzまで引き上げるPC1200 RDRAMと、1つのモジュールに複数のDirect RambusチャネルをインプリメントしたRIMMのマルチチャネル化の2点。両者を組み合わせることで、2005年には、最大9.6Gbytes/sのデータ転送レートを持つメモリ・モジュールの提供を可能にしようというアイデアだ。現時点では、Intelがどのような考えを持っているのか不明だが、ピン当たりのデータ転送レートが高いDirect Rambusの特徴を生かす発表であることは間違いない。

2001年のプラットフォーム別のサポート・メモリ状況

 こうした発表があると、また次世代メモリをめぐるDDR/DDR II対RDRAMの論争が激しくなりそうだ。が、ここで重要なのは、これがあくまでも「次世代」であるということ。PC向けメイン・メモリとしてDirect RDRAMが登場し、すでに1年半以上が経過していることを考えれば、「いつまで『次世代』の冠をかぶっているの?」とでもいいたくなるが、いまだに「現世代」でないことは否定しようがない。同じことはDDR SDRAMについてもいえる。

 現在、デスクトップPCの市場には、3つのプラットフォームが存在している。Pentium IIICeleron、VIA C3(VIA Technologies製x86互換プロセッサ)が対応するSocket 370AthlonDuronが対応するSocket A、最後にPentium 4のみが対応するSocket 423の3つだ。そして、Socket 423の後継として2001年第3四半期には、Socket 478のプラットフォームが登場する(0.13μmプロセスで製造される開発コード名「Northwood:ノースウッド」で呼ばれるPentium 4)。それぞれのプラットフォームで用いられているメモリは、以下のとおり。

プラットフォーム Socket 370 Socket A Socket 423 Socket 478
対応プロセッサ Celeron/Pentium III、VIA C3 Duron/Athlon Pentium 4 Pentium 4(Northwood)
対応メモリ PC100/PC133
SDRAM

DDR-200/DDR-266 SDRAM

PC600/PC800 RDRAM
 
PC100/PC133 SDRAM

DDR-200/DDR-266 SDRAM
PC600/PC800 RDRAM PC600/PC800 RDRAM

PC100/PC133 SDRAM

DDR-200/DDR-266 SDRAM
 
各プラットフォームで用いられているメモリ

■Socket 370プラットフォームの状況
 かつてSocket 370では、PC100PC133 SDRAMとPC600PC800 RDRAMが競っていたことがあるものの、Direct RDRAMはSDRAMの前に敗れ、このプラットフォームで唯一のDirect RDRAM対応チップセットだったIntel 820は駆逐されてしまった。現在、VIA Technologies製Apollo Pro266の登場により、DDR-200DDR-266 SDRAM(PC1600PC2100 DIMM)がこのプラットフォームにやってきたところだが、まだ主流とはとうていいえない情勢だ。また、CeleronやVIA C3のプラットフォームとして、もう少し寿命がありそうなSocket 370だが、最先端のメモリを用いるパフォーマンスPC向けプロセッサとしてのPentium IIIの寿命が残り少ないとみられることから、次世代メモリをめぐる戦いの主戦場は、このプラットフォームではないと考えた方がよいだろう。

■Socket Aプラットフォームの状況
 Socket Aは、2000年11月末にAMDがAMD-760チップセットをリリースし、真っ先にDDR SDRAMが投入されたプラットフォームである。しかし、それから半年たったいまも、DDR SDRAMを採用する大手PCベンダはほとんど見かけない状況だ。ただし、それはAthlon/Duronが支持されていないからではない。特にコンシューマ市場において、多くの大手PCベンダがAthlon/Duronを採用したPCをラインアップし、大きな成功を収めている。ただそこで用いられるのは、もっぱらPC133 SDRAMであり、主力となるチップセットはいまもVIA TechnologiesのApollo KT133/KT133Aのまま、というだけのことである(VIA TechnologiesのApollo KT133Aの製品情報ページ)。AMDは、Socket Aプラットフォームに強くコミットしており、これから登場するデスクトップPC向けの「Athlon 4」でもピン互換性が保持される(ただし、BIOSや電源といった問題もあり、既存のマザーボードとの100%の互換性が保証されるものではない)。次世代メモリをめぐる戦いはこれから、と考えられるが、Direct RDRAMという選択肢がこのプラットフォームに提供される可能性は低いように思われる。

■Socket 423プラットフォームの状況
 Pentium 4に対応したSocket 423は、特殊な状況にあるプラットフォームだ。現時点で、Socket 423に対応するチップセットはIntel製のIntel 850しか存在しない。そのため、このチップセットがサポートするPC600/PC800 RDRAMが市場を独占する無風状態となっている。しかも、このプラットフォームは、当面既存製品の供給は続けられるとはいえ、まもなく新しいプラットフォームに取って代わられる運命にある。やはり、ここも次世代メモリの主戦場ではない。

■Socket 478プラットフォームの状況
 Socket 478(μPGA478)は、Socket 423の後継となるPentium 4対応のプラットフォームだ。このプラットフォームの立ち上げ時(2001年第3四半期)に提供されるチップセットは、現在Socket 423をサポートしているIntel 850と、新しく追加されるIntel 845(開発コード名「Brookdale:ブルックディール」)の2種類となる。前者がDirect RDRAM対応であることは上述したとおり。Intel 845は、「まず最初にPC100/PC133 SDRAMをサポートし、2002年前半にDDR SDRAMをサポートする」というのが、Intelの公式なロードマップとなっている。同じチップセットでありながら、当初はDDR SDRAMをサポートしない点、サポートするDDR SDRAMがDDR-200(PC1600 DIMM)のみに限定されることなどが論議を呼んでいるが、いまのところ予定を改めることはないようだ。

Socket 478に対応したマザーボード
Rambus Developer Forum Japan 2001で公開されたMicrostar製MS-6504「850 Pro3」。チップセットとしてIntel 850を採用したSocket 478に対応したマザーボード。ヒートシンクは、既存のSocket 423と同様、マザーボードに固定する。

 このSocket 478プラットフォームには、第4四半期にもサードパーティ製チップセット(DDR SDRAMサポート)が投入されるとウワサされているものの、新しいプラットフォームに対応した第1世代のサードパーティ製チップセットということで、最初から大きなシェアを得るとは考えにくい。実質的には2002年の製品と考えた方が適切だろう。2002年は、IntelとサードパーティによるDDR SDRAMのサポートが確実なうえ、Intelからは新しいDirect RDRAM対応のチップセットもリリースされることになっており、次世代メモリの主戦場となる可能性が高いが、年内はPC800 RDRAM対PC133 SDRAMの戦い、ということになりそうだ。

■2001年はDDRとRDRAMの直接対決はない
 というわけで、冷静に市場の情勢を見ると、まだ半年近く残っている2001年において、よくいわれるようなDDR SDRAMとDirect RDRAMの直接対決はないことが分かる。両者をサポートしたプラットフォームは、2001年には事実上存在しないのである。可能性としては、Socket 370でDDR SDRAM対Direct RDRAMの戦いが起こりえたのだが、DDR SDRAMが登場する前にDirect RDRAMが事実上PC133に敗れ去ってしまったため、戦いになりえなかった。

2001年の準決勝を勝ち残るのは?

 筆者は2001年を「準決勝の年」と考えている。準決勝の組み合わせは、DDR SDRAM対PC133、Direct RDRAM対PC133だ。「結果は戦う前から分かっている」という人もいるかもしれないが、Socket 370でDirect RDRAMがPC133に敗れたこと(実際はその前のSlot 1で勝負がついていたが)を考えれば、PC133が決して侮れない相手であることが分かるハズだ。Socket Aプラットフォームにおいて、半年たってもDDR SDRAMが大手PCベンダに採用されていない状況は、DDR SDRAMがまだPC133に勝てていないあかしでもある。DDR SDRAMは、Direct RDRAMを心配する前に、Direct RDRAMはDDR SDRAMを気にする前に、まずそれぞれがPC133にキッチリと勝つことが、2001年の重要なマイルストーンだと考えている。それなしに、2002年の決勝戦は始まらない。

 勝利の条件はいろいろと考えられるが、「価格」「性能」「価格性能比」の3つが代表的な「決まり手」だろう。といっても、価格が安ければ性能はどうでもよいとはいえないし、性能がよければどんなに高くてもいいわけではない。性能で上回りつつ、価格の上昇を許容範囲におさめる、というのが王道に違いない。

 そういう意味で、DDR SDRAMとDirect RDRAMの双方に求められるのは、PC133に対して明確な性能差をつけるということだ。価格的には、DDR SDRAMは、すでにリーズナブルなところにきており問題ない。Direct RDRAMも、すでに128Mbytes RIMMが1万円を切ってきており、第3四半期の準決勝時には、パフォーマンスPCなら十分許容できる価格レンジに入ると思われる。特にDirect RDRAMの場合、性能による差別化ができなくて、すでにPC133に対して1敗している。Intel 850(Direct RDRAM)は、Intel 845(PC133)に対し必勝を期さねばならない。筆者は、メジャーなベンチマーク・テストにおいて、Intel 850はIntel 845に対して、10%以上の性能的なアドバンテージが必要であると感じている。それができなければ、Direct RDRAMは決勝戦へ進めない可能性が出てくる。

 一方、DDR SDRAMの場合、すでにチップセットは出そろいつつある。中ではAMD-760が最も性能が高そうだが、それでもPC133に対するアドバンテージは10%ギリギリのところ。サードパーティ製チップセットでは、PC133に明確な性能差をつけられないものが大半だ。チップセット自体、BIOSによる設定、ドライバの改善などを行い、もう少し性能マージンを広げる必要があるだろう。

 ただ、DDR SDRAMには価格を同じにする、という「決まり手」も考えられる。DDR SDRAMとPC133 SDRAMの価格が同じなら、期待も込めてDDR SDRAMが選ばれるというシナリオだ。DDR SDRAMで最有力のサポーターであるMicron Technologyが、かねてよりこの主張を行っており、子会社のCrucial Technologyによる直販価格はこれを裏付けるものになっている(Crucial Technologyのメモリ直販ページ)。とはいえ、以下の表を見ても分かるようにPC133の価格が市場価格より高く設定されている感は否めない。さらにDDR SDRAMの価格を下げることで、「価格を同じにする」という手で準決勝を勝ち抜くことは可能だが、その場合、何社かがメモリ事業から撤退する可能性が考えられる。

メモリ・モジュールの種類 価格 パーツ番号
DDR SDRAM
128Mbytes PC1600 CL=2 31.49ドル CT1664Z202
128Mbytes PC2100 CL=2.5 31.49ドル CT1664Z265
256Mbytes PC1600 CL=2 59.39ドル CT3264Z202
256Mbytes PC2100 CL=2.5 59.39ドル CT3264Z265
SDRAM
128Mbytes PC100 CL=2 29.69ドル CT16M64S4D8E
128Mbytes PC133 CL=2 34.19ドル CT16M64S4D7E
128Mbytes PC133 CL=3 31.49ドル CT16M64S4D75
256Mbytes PC100 CL=2 59.39ドル CT32M64S4D8E
256Mbytes PC133 CL=2 62.99ドル CT32M64S4D7E
256Mbytes PC133 CL=3 59.39ドル CT32M64S4D75
Crucial Technologyの直販価格(2001年6月21日現在)
この価格表を見る限り、DDR SDRAMはSDRAMよりも若干高い程度にまで安くなっていることが分かる。ただPC100/PC133の価格を市場価格に比べて高めに設定することで、DDR SDRAMを安価に見せているような気がする。秋葉原のPCパーツ販売店では、DDR SDRAMはSDRAMの2倍程度の価格で販売されている。最新の秋葉原のPCパーツ販売店における価格は、「サハロフの秋葉原レポート」を参照のこと。

 同様のことは、もちろんDirect RDRAMにおいてもいえるのだが、それには製造コストなどの問題からしばらく時間がかかりそうだ。そのタイミングはこの準決勝よりもっと後になるだろう。つまり、PC133との戦いにおいて、「価格」という「決まり手」は使えないことを意味する。

 果たして、DDR SDRAMとDirect RDRAMは厳しい準決勝を勝ち抜き、決勝へと駒を進めることができるのか。2001年後半の見どころはここにあると考えている。くれぐれも、両者とも準決勝で敗退とか、準決勝が引き分け再戦になることがないように願いたい。記事の終わり

  関連リンク 
2005年にかけてのRDRAM・RIMMのロードマップに関するニュースリリース
Apollo KT133Aの製品情報ページ
メモリの直販ページ
秋葉原のPCパーツ販売店の価格
 
「元麻布春男の視点」


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