連載

ネットワーク・デバイス教科書

第4回 常時接続インターネットへの第一歩「ISDNダイヤルアップ・ルータ」

渡邉利和
2001/06/07

 最近はADSLのブームで、インターネット接続のための手段としてはISDNはすっかり影が薄くなってしまったようだ。しかし、ほぼ全国をくまなくカバーするISDN網は、未だにサービス提供地域が限定されているADSLに比べて、どこでも利用できる手軽なインターネット接続環境である。居住地域によっては、アナログ電話やISDN以外の適当な選択肢がない、という人もまだ少なからずいるだろう。アナログ電話の56kbpsに比べて、ISDNは1チャネル(1B通信)で64kbps、2チャネル(2B通信)を使えば128kbpsでのデータ転送が可能だ。フレッツ・ISDNを利用することで、64kbpsの常時接続環境を構築することもできる。このISDNを経由してデータ通信を行う場合、ターミナル・アダプタ(TA)もしくはISDNダイヤルアップ・ルータをPCに接続して利用することになる。また、ISDNダイヤルアップ・ルータは、OCNエコノミーなどの64kbpsもしくは128kbpsの専用線アクセス・ルータとして利用できるものも多い。

ISDNダイヤルアップ・ルータの基本構造

 ISDNダイヤルアップ・ルータは、アクセス・ルータとしての性格とISDN機器としての性格を併せ持つデバイスである。このため、製品の機能も多岐にわたり、リストアップするのも大変なほど豊富な機能を誇る製品が多数存在する。

 もっとも基本的な機能として、ISDN回線に接続するためのポートと、イーサネット・ポートを備えるのが一般的だ。イーサネット・ポートは、ハブ機能を内蔵した機種では複数装備されているが、もちろん1ポートしか装備されていなくても別途ハブかスイッチング・ハブを接続すればよい(スイッチング・ハブの選択については、「ネットワーク・デバイス教科書:LANの基本デバイス『スイッチング・ハブ』」を参照のこと)。

ヤマハ RTA52iの背面
RTA52iでは、ハブ機能を内蔵しており4つのイーサネット・ポートを装備する。アナログ電話ポートは3つ装備されており、アナログ電話やFAXを最大3台まで接続できる。ただし、同時に通話可能なのは2台までである。
アナログ電話ポート:アナログ電話機やFAXを3台まで接続可能
シリアル・ポート:PCとシリアル接続して、TAとして利用可能
ISDN Uポート:ISDN回線と接続するためのポート
イーサネット・ポート:イーサネットと接続するためのポート
ISDN S/Tポート:ISDN機器を接続するためのポート
電源スイッチ:電源のオン/オフを行うスイッチ

 ISDN回線を利用するためには、通常DSUとTAが必要となる。DSUは回線の終端装置で、ISDN回線を利用する場合には必須の機器である。TAは、デジタル回線であるISDN回線に従来のアナログ電話機などを接続する際のアダプタで、必須というわけではない。通常はTAを介して電話機を接続することになるが、ISDN対応のデジタル電話機しか使わないのであれば、TAなしでISDN回線を利用することも可能である(ただし、デジタル電話機は高価で機種も少ないので、一般的にはTAを介してアナログ電話を接続することになる)。ISDNダイヤルアップ・ルータは、「コンピュータ・ネットワークを接続するためのTA」と理解することもできる。当然、ネットワークではなく、1台のコンピュータを接続するだけならば、TAで用が足りるわけで、この点がTAとISDNダイヤルアップ・ルータとの最大の違いといえる。

 ネットワークを構成する複数のコンピュータをISDN回線で接続することから、ISDNダイヤルアップ・ルータでは、NAT機能を備えるのが一般的だ。通常はさらにパケット・フィルタリングなどのファイアウォール機能も備えることになる。さらに、TA機能も統合し、アナログ電話機も直接接続できる「オールインワン」的な性格を持つ製品も多い。この場合、TAの機能として、着信転送やナンバーディスプレイ、疑似フレックスホン(NTTへのフレックスホン契約なしで、キャッチホン/着信転送/三者通話などの機能を利用可能にするもの)、i・ナンバー(契約によって1回線で最大3つの異なる電話番号を利用可能にする機能)といった電話機能も入ってくるため、とても複雑なものになる。

 ISDNダイヤルアップ・ルータは、「家庭で個人が利用するネットワーク機器」として、広く普及した最初の製品と位置付けることができる。そのためもあってか、使いやすくするための配慮が行き届いた製品も増え、機能が膨大な割には、複雑さを感じさせないものも多い。この点は、最近のブロードバンド・ルータよりも親切な製品が多いという印象を受ける。

 ISDNの場合、64kbpsのBチャネルを2本使っても、最大128kbpsという帯域であるため、現在となってはさほど高速であるとはいえない。もちろん、機器によって性能差はあるものと思われるが、その差はさほど大きなものではないはずだ。一般的には、イーサネット・ポートも10BASE-Tで、複数備える場合もスイッチング・ハブではなく、単なるハブとして動作するものが多い。ISDN経由のインターネット接続を中心に考えるのであれば、これでも性能的に不足することはまずないだろう。従って性能よりも、NATやパケット・フィルタリングなどの機能や、本体デザインが優先される機器と思ってよい。

機能面でも極端な差はない

 とにかく豊富な機能を備える製品が多いため、機能をすべて列挙することは難しい。ただし、初期のころとは異なり、最近ではかなり熟成が進んだ製品が多いため、機能面での極端な差はなくなっているのが現状だ。それでも、NAT機能などで障害が発生するといった例もあるので、ファームウェアのサポートがしっかりしたベンダの製品を選びたい。ファームウェアのサポートについては、製品のホームページを参照し、ある程度の頻度でファームウェアが更新されているかどうかを確認すればよい。アップデート内容にもよるが、古い製品でもファームウェアの更新が行われているようならば、サポートがしっかりしているベンダと判断できるだろう。

 アクセス・ルータとしての機能を中心に考えると、DHCPサーバやDNSサーバといった機能の有無や、NATやパケット・フィルタリングなどのファイアウォール機能、コールバックや接続制限といった回線接続に関する機能などが目に付くところだろう。また、設定にWebブラウザを利用するものや、専用ユーティリティを利用するもの、シリアル・ポートなどを利用したコンソール接続で設定するものなどがあり、複数の手段に対応した機種も多い。また、最低限の機能は、液晶パネルとボタンによって設定できるものが多い。一般的にはWebブラウザで設定できる機種が便利だと思われるが、この点は好みに応じて選べばよい。

大きな画面へ
ヤマハ RTA52iの設定画面 (拡大画面:約20Kbytes
RTA52iではWebブラウザを使って各種設定が可能だ。プロバイダの電話番号やDNSサーバ、NATなどの設定が行える。

 ISDN機器として見た場合のポイントは、DSU内蔵かどうか、という点が挙げられる。DSUは、1回線ごとに1台あればよいので、すでにDSUがあるという場合は内蔵している必要はない。ただし、DSU内蔵の機種では不要な際は切り離しができるようになっているのが一般的なので、内蔵していても困ることはない。最近では、DSU内蔵の機種の方が一般的となっており、DSUの内蔵の有無による価格差もほとんどないので、内蔵している機種を選んでおけばよいだろう。そして、DSU内蔵の機種では、TA機能も統合されていることが多い。コンピュータ・ネットワークも電話機も、ISDN回線に接続するものは、すべてまとめて面倒をみましょう、というタイプの機器となるわけだ。

ヤマハ RTA52iの正面
液晶パネルと7個のインジケータ、液晶パネルを見ながら設定するためのボタン類が配置されている。最低限の設定が本体だけでできるように液晶パネルと設定ボタンを装備したものがおすすめだが、そうした機種は価格が若干高くなる。予算と好みで選べばよいだろう。
液晶パネル:ルータの状態などの表示を行う
設定スイッチ:液晶パネルの情報を見ながらルータの設定を行うためのスイッチ
インジケータ:「B1チャネル」「B2チャネル」「LAN」などの使用状態を表示するためのインジケータ

 この場合、停電時のためのバックアップ電源を備えるかどうか、という点も気になるかもしれない。従来のアナログ電話機では、電話回線から給電される電力で通話が可能なので、停電時でも電話は使えるのが普通だった。しかし、ISDNの場合、TAの給電が止まるとTAに接続している電話機も通話不能になってしまう。TA機能を内蔵したISDNダイヤルアップ・ルータでは、この点に配慮して、停電時にも電話機の利用を可能とするためのバッテリを内蔵できるようになっているものがある。停電のリスクをどの程度に見込むかという問題はあるが、一応気にしておくべきポイントではある。なお、蛇足ではあるが、バックアップ用電源としては乾電池を使用するものが多いが、長期間放っておくと液漏れなどの危険がある点には注意してほしい。TAでは、充電池を利用することで、こうした心配があまりない機種もあったが、ISDNダイヤルアップ・ルータには、このような製品は見あたらないようだ。

 ISDNダイヤルアップ・ルータは、ISDN回線を経由してダイヤルアップ接続することを主たる用途として想定している。もちろん、OCNエコノミーのようなISDNベースの常時接続や専用線接続サービスにも対応しているのだが、常時接続のための特別な機能というものはないので、ISDNダイヤルアップ・ルータの特徴的な機能は主にダイヤルアップ接続のために用意されたものとなる。

 NAT(IPマスカレード)機能は、ダイヤルアップ接続時にISPから割り当てられたIPアドレスをLAN内の複数のノードで共有するための機能である。もちろん、単純なIPアドレスの変換だけではなく、ポート番号ごとの変換も行なう。また、LAN内に対しては、DHCPサーバとして動作する機能が大半の機種に備わっている。さらに、単純に静的な設定情報を配布するだけでは対応しきれないDNSサーバ・アドレスの設定に関しては、ISDNダイヤルアップ・ルータ自体がDNS中継サーバとして動作するようになっているものが多い。これは、LAN内のノードには自分自身をDNSサーバとして登録しておき、ノードからのDNS問い合わせを受信したらこれをあらためてISPのDNSサーバに転送する機能で、複数のISPを使い分ける際などには便利である。通常はISPごとに異なるDNSサーバ・アドレスが指定されるため、接続先のISPを切り替える際にはDNSサーバ・アドレスを変更する必要があるが、この機能を利用すれば、LAN内のノードでは常にDNSサーバ・アドレスとしてISDNダイヤルアップ・ルータを指定しておけば、接続先に応じて自動的に適切なDNSサーバに転送されることになる。

 フィルタリングに関しては、無用な自動ダイヤルアップを抑制するための設定があらかじめ行われているのが一般的だ。Windowsネットワークなどでは、定期的に問い合わせパケットを発信するため、何の対策もせずに自動ダイヤルアップを有効にしておくと、そのたびにISPへのダイヤルアップ接続が発生して通話料金がかかることになる。これを抑制するには単に該当するパケットを外部に転送しないようにすればよいのだが、最近はこの設定が最初から有効になっていることが多い。

 一方、ダイヤルアップ接続であることを前提にすると、インターネット側から入ってくるパケットのフィルタリングに関しては、危険性が相対的に低いとも考えられる。しかし、テレホーダイによる半常時接続やフレッツ・ISDNによる常時接続を考慮すると、パケット・フィルタリングの機能も重視したい。とはいえ、最近のISDNダイヤルアップ・ルータでは、プロトコル種別やポート番号によるフィルタリングが設定できるのが一般的だし、初期設定で必要最低限のフィルタリングが行われているものが多い。また、フレッツ・ISDNやOCNエコノミーなどの常時接続環境で使う場合は、外部からのアクセスに関するログなどが記録できるログ機能が充実した機種の方が安心だろう。


日本電気 Aterm WB45RL
ADSLやCATVによるブロードバンド接続とISDN接続をサポートし、無線LANアクセス・ポイント機能も装備可能な複合機。ブロードバンドの普及にともない、こうした複合機が今後のトレンドになると思われる。

 TAとして電話を便利に利用するための機能は豊富に用意されているが、どの機種でもあまり大きな違いはないように思うので、ここでは特に触れない。ただ、シリアル接続のためのポートの利用法には注目してもよいかもしれない。最近ではUSB接続に対応した機種が多く、従来のRS-232C接続に比べると利便性が向上している。さらに、USBやシリアルで接続したPCをネットワークに加えるアクセス・サーバ機能を持つのも一般的になったようだ。この機能を使えば、イーサネット・インターフェイスを持たないPCをLANに参加させることも可能になるため、機器構成によっては便利だろう。

 なお、2001年7月上旬発売予定のヤマハ製ルータであるネットボランチ「RTA54i」は、WANポートとしてイーサネット・ポートも用意している。つまりADSLやCATVでの接続にも対応した1台2役的な性格のモデルである。現在はISDNでの接続だが、近い将来ADSLやCATVに移行したいと考えている、といった場合は、こうした機種を選ぶのも面白いのではないだろうか。また、無線LANアクセス・ポイントと統合した複合機も各社から販売されている。このような複合機は、それぞれを購入するよりも安価に済む場合が多い。ただし、ADSLを導入した場合に設定が面倒になるといった面もあるので、十分に検討してから導入していただきたい。記事の終わり 


機能 チェックポイント
ケースのデザイン TA内蔵の場合は電話機も同時に接続することになるため、デザインが重要となるだろう。ナンバーディスプレイなどを利用する場合は、表示用のディスプレイを備えた機種を見やすい場所に設置しないと意味がない
インジケータ/液晶パネル 「B1(B1チャネルの使用状態)」「B2(B2チャネルの使用状態)」「LAN(LANの使用状態)」「POWER(電源)」などのインジケータが装備されていると便利。また、大型の液晶パネルを装備したものの方が、状態が分かりやすくおすすめだが、この点は好みで選べばよいだろう
設定ユーティリティ LANでの利用を中心に考えるとWebブラウザで設定できる機種が便利だろう。TA機能に関しては、電話機のダイヤルボタンを利用した設定に対応したものもある
ハブ機能 どうせならあった方がよいかも、といった程度のものである。TA機能内蔵の機種で電話機のそばに設置する場合は、接続されるケーブル数が増えると、どうしても乱雑な感じになってしまうので、別途ハブ/スイッチを用意する方が使いやすい
シリアル接続 LAN接続だけでなく、RS-232CやUSBを介した接続も利用したい場合は、アクセス・サーバ機能を持ち、シリアル接続の端末をLANに組み込める機種が使いやすい
TA機能 SOHOでは、ISDN回線の契約で1回戦最大3つの異なる電話利用できる「i・ナンバー」や、内線通話/内線転送をサポートしたものが便利だろう。これらの機能は、最近の機種ではすべてサポートされているので、選択の際にそれほど気にする必要はない
 
  関連リンク 
RTA52iの製品情報ページ
121ware.comのページ(Atermシリーズの製品情報)
 
 
     
 
「連載:ネットワーク・デバイス教科書」


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