Sun Fire 15Kに見るサーバの進化と分化 渡邉利和 |
Itaniumがついに現実の市販システムとなり、IA-64サーバがいよいよ実稼動を開始しようかという状況になってきた。一方、インターネット・サーバの分野では、大きなシェアと存在感を誇るSun Microsystemsも、フラッグシップ機「Sun Fire 15K Server(コード名「Starcat:スターキャット」)」を発表している(Sun Microsystemsの「Sun Fire 15K serverに関するニュースリリース」)。
Sun Fireは、Sun Microsystemsの最新のサーバ・シリーズで、プロセッサとしてUltraSPARC IIIを搭載するサーバ群である。「ミッドフレーム」と呼ばれるエントリ・レベルからミッドレンジの機種は、すでに2001年春に発表になっている。今回発表となった「Sun Fire 15K server」は、最上位機種であるSun Enterprise 10000(コード名「Starfire:スターファイアー」)の後継機ということになる。日本国内での発表は現在のところ正式には行われていないが、米国での発表内容をもとにこのサーバについてちょっと考えてみてみたい。
Sun Fire 15K serverとは
Sun Fireサーバは、2001年春の発表でミッドフレーム(Midframe)と表現されたように、メインフレームで利用されてきた信頼性技術の多くがミッドレンジのUNIXサーバに取り込まれたという点で注目された。これらの機能は、その多くがSun Fire 15Kにも引き継がれている。ただし、この機能はもともとStarfireで実現されていたものだ。つまり、技術導入の流れとしては、
Enterprise 10000(Starfire) → Fire("Midframe") → Fire 15K(Starcat)
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となる。Sun Fire 15KがSun Enterprise 10000の後継機であることを考えれば、実のところ極端に大きな変更があったわけではない。
この点は、実は名称を見るだけでも容易に想像がつく。Sunのサーバ・シリーズの名称は、プロセッサの世代ごとに変更されている。UltraSPARC IIの時代は、「Sun Enterprise」というシリーズ名に、機種を示す数字が付加された名称であった。プロセッサの世代がUltaraSPARC IIIに変更された結果、シリーズ名も「Sun Fire」に変更されたわけだ。一見馴染みのない表記に見える「15K」も、前モデルであるEnterprise 10000が「E10K」(イー・テン・ケー)と呼ばれていたことを知っていれば容易に想像がつく。つまり命名の意味は、「Sun Fire 15000」ということだ。ミッドレンジ・サーバに関しては、E10Kでのみ利用できたドメイン分割や高度な冗長化、動的再構成といった機能が新たに利用できるという大きな進化を見せたSun Fireシリーズだが、最上位のSun Fire 15Kでは、イメージとしてはVer. 1.0がVer. 1.5にマイナー・バージョンアップしたような感じで、少々驚きが少ない。
UltraSPARC IIIの採用により、パフォーマンスがアップしているし、最大構成ではE10Kでは64プロセッサだったのが、Sun Fire 15Kでは106プロセッサへと2倍近いスケールアップを果たしている。なぜ128プロセッサにならず、半端な感がある106プロセッサなのかという点について、個人的にはとても引っかかりを感じているのだが、ニュースリリースなどには明確な説明はない。それはさておき、バックプレーン(コンポーネント同士が相互に通信するための経路)の構成などの面では技術的に正常進化といえる革新があったことは間違いない。にもかかわらず、やや地味な印象を受けてしまうのは否みがたい。
サーバに求められる「拡張性」
クライアントPCに比べると、サーバの方が役割が明確である。その分、アーキテクチャやシステム・デザインという面が話題にのぼることも多い。
クライアントPCの技術的進歩は、基本的には「コストを抑えてより高速に」という方向に向かっている。プロセッサは、動作クロックが大幅に向上しているし、メモリやストレージはより高速なデータ転送を実現する方向で新規格が次々登場している。
一方、大規模なサーバの場合、ユーザーのニーズによっては処理能力やコストが度外視されてしまうことすらある。E10Kのユーザー事例で、2プロセッサ構成や4プロセッサ構成で利用しているユーザーの例を何件か取材したことがある。普通に考えれば、E10Kのメリットは最大64プロセッサまで拡張できるという点にあるはず。4プロセッサで足りるのであれば、同じSun Microsystemsのミッドレンジ・サーバの中でも、ずっと安価なエントリ・レベル〜ミッドレンジのサーバでも十分なはずだ。実際、値段はその方が安く済む。それでもE10Kを利用するユーザーがいるのは、いわゆる「コストパフォーマンス」を判断する基準が、演算性能だけではないことを意味している。
PCの場合は、こういう選択はまず考えられないだろう。Pentium 4-2GHz搭載機種よりも価格が高いPentium III-800MHz搭載機種をわざわざ選ぶ理由はあまり考えられない。ノートPCがデスクトップPCに比べて性能が劣り、価格が高いという例はあるが、ノートPCとデスクトップPCはまったく異なる系列のマシンと考えられている。サーバの場合も実は同様で、一般には一まとめにして「サーバ」としか呼ばれていないが、そこには実現している機能も違えば、想定される用途も異なる複数のデザインが混在しているのである。
分かりやすい例は、「スケールアップ」と「スケールアウト」と表現される拡張手法の違いである。スケールアップは、単体のサーバ機の性能向上を図ること、スケールアウトはサーバの台数を増やして全体の処理能力向上を図ることを指す。どちらも、処理能力の総計は増加するが、効果は同じではない。もともと相互に関連の薄い処理が大量にある場合にはスケールアウトが有効だが、とても負荷が高い単一プロセスの処理時間を短縮するには、スケールアップが有効となる。たとえば、アクセスが集中するWebサイトでWebサーバの処理能力向上を図る場合は、サーバを高性能な機種に置き換えるよりも、サーバを追加して負荷分散を実現する方が安価で効果が上がる。一方、データベース・サーバのレスポンスを向上させたい場合には、むやみにデータベース・サーバの数を増やしてはデータの整合性の維持など余分な作業が増えて管理が大変になるばかりなので、数を増やさずに性能向上を実現する方がよいわけだ。
スケールアップとスケールアウト |
スケールアップは、プロセッサの動作クロックを上げたり、マルチプロセッサ化するなどして、サーバ単体の性能を向上させて処理能力を上げること。これに対しスケールアウトは、ロード・バランシング(負荷分散)などを行って、複数台のサーバに処理を分散させることで、処理能力を上げること。Sun Fire 15KやItaniumシステムがターゲットとするデータベース・サーバでは、スケールアップが求められる。 |
Sun Fire 15Kのようなハイエンド・サーバは、スケールアップが有効な用途で利用されることが前提である。もちろん、メインフレーム由来の高信頼性機能を必要とするユーザーの利用も考えられるが、この面では従来はE10Kを使う以外に選択肢がなかったのに比べ、現在では「ミッドフレーム」サーバ群が充実したため、必ずしもSun Fire 15Kでなくてもよいという事例も増えるだろう。
そして、Itaniumが参入しようとしているのもこうした市場である。64bitプロセッサの直接的なメリットはアドレス空間の大幅な拡大であり、大規模なテラバイト級データベースを運用する場合などには欠かせない。Intelは、Itaniumをハイパフォーマンス・ワークステーション向けとしても売り込んでいるが、やはりトップエンドはデータベース・サーバということになるだろう。PCサーバがコストメリットを活かして急速にシェアを伸ばしているといわれるが、実は伸びているのは「スケールアウト」市場であり、「スケールアップ」市場向けにはそう極端にシェアを伸ばしているわけでもない。しかし、それこそエントリ・レベルのスケールアウト市場ではIA-32でも処理能力的には十分で、かつコストも安くて有利だと考えられる。ラックマウント・タイプの1Uサーバが使われている用途に向けて、Itaniumサーバを投入するのは、かなり先の話になるだろう。となると、2001年から2002年にかけて立ち上がるItaniumサーバは、やはり最初はスケールアップ市場を狙うしかないということになる。
この市場においては、性能が高くて値段が安ければ採用されるとは限らないのは前述のとおりだ。信頼性に対する要求も高く、かつ「実績」が求められる。ちゃんと動いてくれないサーバでは何の役にも立たないわけで、確実に期待どおりに動くことを実証してみせる必要がある。すでに豊富な実績を誇るE10Kの後継であるSun Fire 15Kが地味な改良に見えるのは、実はこの点で有利に働く可能性がある。つまり、E10Kでの実績がそのままSun Fire 15Kへの信頼感につながるからだ。一方Itaniumは、新アーキテクチャの宿命として、実際に信頼に足るものであることをOSやデータベースなどのアプリケーションを含めて、自力で実証していかなくてはならない。
昨今は不況やデフレの影響もあり、IT投資が冷え込んできていると報じられている。サーバを導入する企業にとっても、やはり価格が安いのに越したことはない。また、どのようなOSやアプリケーションを利用するのかも重要な検討事項となるだろう。サーバの選定にはさまざまな要件が絡むため、単純にSun対Intelという図式で片付く問題ではないのだが、それでも、ようやくフルラインナップが完成したSun Fireシリーズと、出始めたばかりのItaniumサーバの今後の展開がどうなるのかは興味が尽きない。
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関連リンク | |
Sun Fire 15K serverに関するニュースリリース |
「Opinion:渡邉利和」 |
渡邉 利和(わたなべ としかず)
PCにハマッた国文学科の学生というおよそ実務には不向きな人間が、「パソコン雑誌の編集者にならなれるかも」と考えて(株)アスキーに入社。約1年間技術支援部門に所属してハイレベルのUNIXハッカーの仕事ぶりを身近に見る機会を得た。その後月刊スーパーアスキーの創刊に参加。創刊3号目の1990年10月号でTCP/IPネットワークの特集を担当。UNIX、TCP/IP、そしてインターネットを興味のままに眺めているうちにここまで辿り着く。現在はフリーライターと称する失業者。(toshi-w@tt.rim.or.jp)
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