Pentium IIIプロセッサのクロック表記における「A」「B」「E」の意味デジタルアドバンテージ 島田広道 |
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PCのカタログにあるPentium IIIプロセッサのスペックに注目すると、クロック周波数を表す数値に「A」「B」「E」あるいは「EB」という文字(列)が付いていることがある。例えば1GHz版のPentium IIIの場合、PCによっては「Pentium III-1GHz」と「Pentium III-1A GHz」「Pentium III-1B GHz」という3種類の表記がある。これは、同じ1GHzというクロック周波数のPentium IIIでも、3種類の製品が存在することを意味する。すなわち、「Pentium III-1GHz/1A GHz/1B GHz」はそれぞれ別のものであり、同じ製品ではないのだ。
「A」「E」はプロセッサ・コアの違いを表す
例えばPentium III-1GHzに対してPentium III-1A GHzは、クロック周波数こそ同じだが、プロセッサ・コアには次世代のものが使われている。具体的には、Pentium III-1GHzは開発コード名「Coppermine(カッパーマイン)」が、Pentium III-1A GHzには開発コード名「Tualatin(テュアラティン)」というプロセッサ・コアに変更されている。両者の機能や性能の差は小さいが、細かい電気的特性は異なっている。
また550MHz版のPentium IIIには、「Pentium III-550 MHz」と「Pentium III-550E MHz」の2種類が存在する。この「E」の有無もプロセッサ・コアの違いを表しており、「E」のある方はCoppermineコアを、また「E」のない方は1世代前の開発コード名「Katmai(カトマイ)」というプロセッサ・コアをそれぞれ採用している。ちなみに、Katmaiに対してCoppermineは同じクロック周波数で比べると大幅に性能が向上しているほか、パッケージの小型化にも貢献している。
Pentium IIIのプロセッサ・コアによるパッケージの違い | |
左は第1世代のKatmaiコアを使っているPentium IIIのパッケージ(S.E.C.C.2)。右は第2世代のCoppermineコアを使っているPentium IIIのパッケージ(FC-PGA)。Katmaiは2次キャッシュ・メモリが外付けのため、コアと2次キャッシュなど複数のチップを搭載できるよう、S.E.C.C.2のように比較的大きめのパッケージを必要とした。一方Coppermineでは、2次キャッシュがコアに統合されて1チップ化され、より小型なFC-PGAパッケージが実現した(S.E.C.C.2も併存)。ちなみにTualatinコアのPentium IIIのパッケージは、FC-PGAとピン互換のFC-PGA2である。 |
プロセッサ・コアが切り替わる時期には、このように前世代と次世代の両方が同じクロック周波数で提供されることがある。両者には性能も含めて互換性のない部分があり、それぞれ区別する必要があるため、Intelは新世代コアを採用した方のクロック表記に「A」あるいは「E」を付けている。
「B」はFSBのクロック周波数の違いを表す
ところで1GHz版のPentium IIIには、前述のように「Pentium III-1B GHz」という製品も存在する。これはプロセッサ・コアの世代こそPentium III-1 GHzと同じだが、FSBのクロック周波数が異なっている。具体的には、
Pentium III-1B GHz: 133MHz×7.5倍=1GHz
Pentium III-1 GHz: 100MHz×10倍=1GHz
という具合に、同じ1GHzでもFSBのクロック周波数と、プロセッサ・コアに対するクロック倍率の組み合わせが異なるのだ。つまり「B」は、FSBが133MHzであることを表している。
Pentium IIIの登場当初は、その前のPentium IIと同じ100MHzのFSBを採用していた。その後、コア・クロック周波数の向上に伴い、Pentium IIIのFSBのクロック周波数は100MHzから133MHzへ引き上げられたが、互換性維持の必要性から従来の100MHz品も存続した。つまり、100MHz品と133MHz品が市場で併存することになったため、同じクロック周波数で両方が存在する場合は、後者に「B」を付けて区別するようになったのだ。
Pentium IIIのクロック表記に付く英字の法則
Pentium IIIのクロック表記に付加される英字の法則を、以下にまとめてみた。
「A」: プロセッサ・コアがTualatin
「B」: プロセッサ・コアがKatmaiでFSBが133MHz
「E」: プロセッサ・コアがCoppermineでFSBが100MHz
「EB」: プロセッサ・コアがCoppermineでFSBが133MHz
なお、Tualatinコアは必ずFSBが133MHzなので「AB」は存在しない。
ここで注意すべきは、上記の法則が当てはまるのは、同じクロック周波数で複数のバージョンが存在するPentium IIIだけ、ということだ。例えばPentium III-933 MHzというプロセッサはCoppermineコアでFSBが133MHzだが、クロック表記に「EB」は付かない。933MHz版はこの1種類しかないからだ。
歴代のPentium IIIのクロック表記と仕様の関係は、下表のとおりである。
クロック表記 | プロセッサ・コアのクロック周波数 | FSBのクロック周波数 | 2次キャッシュの容量/速度 | プロセッサ・コアの開発コード名 |
1.33 GHz | 1333MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Tualatin |
1.20 GHz | 1200MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Tualatin |
1.13 GHz | 1133MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
1.13A GHz | 1133MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Tualatin |
1.10 GHz | 1100MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
1 GHz | 1000MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
1A GHz | 1000MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Tualatin |
1B GHz | 1000MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
933 MHz | 933MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
900 MHz | 900MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
866 MHz | 866MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
850 MHz | 850MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
800 MHz | 800MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
800EB MHz | 800MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
750 MHz | 750MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
733 MHz | 733MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
700 MHz | 700MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
667 MHz | 666MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
650 MHz | 650MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
600 MHz | 600MHz | 100MHz | 512Kbytes/ハーフ | Katmai |
600B MHz | 600MHz | 133MHz | 512Kbytes/ハーフ | Katmai |
600E MHz | 600MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
600EB MHz | 600MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
550 MHz | 550MHz | 100MHz | 512Kbytes/ハーフ | Katmai |
550E MHz | 550MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
533B MHz | 533MHz | 133MHz | 512Kbytes/ハーフ | Katmai |
533EB MHz | 533MHz | 133MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
500 MHz | 500MHz | 100MHz | 512Kbytes/ハーフ | Katmai |
500E MHz | 500MHz | 100MHz | 256Kbytes/フル | Coppermine |
450 MHz | 450MHz | 100MHz | 512Kbytes/ハーフ | Katmai |
Pentium IIIの各種バージョンとクロック表記の関係 | ||||
2002年2月末までに出荷されたPentium IIIの各バージョンについて、クロック表記とプロセッサ・コアの種類やFSBのクロック周波数などの仕様を記してみた。「2次キャッシュの容量/速度」欄の「フル」はプロセッサ・コアと同じ速度で、また「ハーフ」はプロセッサ・コアの1/2の速度で2次キャッシュが動作することを表している。これを見ると、例えば600MHz版には4種類もバリエーションがあることが分かる。 |
プロセッサ・コアの世代が変わると、同じクロック周波数でも性能や機能が変わることがあるので、Pentium III搭載PCのスペックを比較する場合は、プロセッサ・コアの世代を意識する必要がある。FSBについても、当然ながら100MHzより133MHzの方が高速なので、横並びでPCを比較する際には注意したいポイントだ。
また、PCのアップグレードでは、使用中のプロセッサと同じ種類でクロックの高いものに交換して性能を向上させるという手法があるが、元のPentium IIIより新しい世代のプロセッサ・コアを搭載したPentium IIIでは正常に動作しないことが多い。プロセッサ・コアの世代をまたいでPentium IIIを交換しない、あるいは新世代コアにPCが対応しているかどうかを確認するなど、注意が必要だ。
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