
第5回 自動車組み立て現場でのRFID利用
~RFIDは既存システムの援用か、独立した新システムか
西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2006年9月9日
日本でも1、2年のうちにRFIDを利用した業務システムが実現する勢いだ。本連載はRFIDシステムの導入を成功させるために、経験豊富なコンサルタントがノウハウを伝授するバイブルである(編集部)
RFIDシステムは現在さまざまな業種・業務で利用されつつありますが、新しいシステムであることは事実です。そのような前提がある中で、現在のRFIDシステムの構築を大きく分けると以下の2つのパターンになります。
- 既存システムに連携するシステム
- 独立した新システム
現実に本運用されているRFIDシステムの7割強は前者です。既存システムに連携するシステムの場合は、既存の基幹システムなどにはできるだけ変更を加えずにRFIDシステムをそれらに合わせて設計するという要求がほとんどです。
これに対して独立した新システムの場合は、新たな業務運用に合わせてRFIDシステムを中心にして設計をしていけばよいので自由度が高いのが特徴です。新システムの場合、現在は主に以下の3つの用途が挙げられます。
- 資産管理
- 位置管理
- EPCglobalネットワークシステム
あえて順位を付けるとすれば、資産管理がダントツで多く、次いで位置管理となります。資産管理で用いられるRFIDタグはパッシブ型が主流であり、位置管理で用いられるそれはアクティブ型です。EPCglobalネットワークシステムは日本ではまさにまだ始まったばかりですが、将来、増えることが予想されています。
今回は、いくつかの導入事例を参照しながら、RFIDシステム構築の現状を追ってみましょう。
既存システムにおけるRFIDシステムの位置付け
まず、既存システムにおけるRFIDシステムの位置付けについて解説します。本連載において、日本のRFIDシステムの導入は製造業がけん引していると申し上げてきました。その中でも多いのが工程管理での利用です。
RFIDシステムから見た場合、製造業の工程管理システムは以下のような3つのレイヤに分かれます。
- 基幹の生産管理システム
- サブシステム(ラインやセル生産における工程管理システム)
- RFIDシステム(進捗管理システム)
既存システムにRFIDシステムが連携される場合には、サブシステム配下に位置付けられることがほとんどで、いわゆる基幹システムにダイレクトに連携するということはあまり見られません。
このほか、流通業などで既存システムに連携される場合には、受発注や物流システムの中の一部となります。
新システムとしてのRFIDシステム
新システムとしてRFIDが利用される場合には、先述したように資産管理と位置管理が挙げられます。これらはこれまでシステム化されていなかった領域です。
資産管理の一例としてPC管理を考えてみましょう。これは、資産や利用者管理を含むセキュリティを目的としているので、
- 利用者ID
- 機器番号
- 資産管理番号
- メンテナンス履歴
- 最終利用時
などの項目がRFIDタグに入力されます。
同じ資産管理でも、対象となるものが工具や物流機器などになれば、その目的は持ち出し管理、利用回数、メンテナンスのアラームなどに変わります。当然、データ項目はPC管理のそれとは異なります。
また、位置管理の例としては、物流機器や工具が倉庫や工場のどこにあるのかということを、アクティブタグを利用して管理するといったことが挙げられます。これに加えて、ヒトの位置管理も含まれてきます。
アクティブタグを使って位置管理をする場合、アンテナの設置位置情報と受信したタグの電波強度から、だいたいのアクティブタグの位置=対象物の位置を割り出します。
このようにRFIDを利用した新システムは、ようやく具体的な利用シーンが見えつつあります。そのため、新しい業務運用方法を検討することもありますが、システム設計における自由度は高いものとなります。
従って、皆さんがこれから構築するRFIDシステムが、既存のシステムを前提としているのか、まったく新しいシステムなのかを押さえることはとても重要なポイントとなります。
RFIDシステム構築における課題
既存システムへの連携か、それとも新システムの構築かという前提は、実際のシステム構築に当たって生じる課題をまったく異なったものとします。例えば、既存システムの場合は上位システムとの連携をどうするかが課題となりますが、新システムの場合はデータベースやネットワーク設計をどうするかが課題となります。
上位システムとの連携を目指す場合、ユーザーから「既存システムは改造したくない」という要求が非常に高い確率で寄せられます。これが何を意味しているかといえば、RFIDシステム構築エンジニアは既存システムのインターフェイスに従ってRFIDシステムの設計を進めなくてはならないということです。
具体的にはRFIDシステムのデータファイルを、「既存システムのインターフェイス=タイミング、接続方式、通信形式、データ形式、データ長など」に合わせて受け渡すようにするということです。
既存システムとの連携の場合、ベンダから提供されるRFIDミドルウェアはEPCglobalネットワークシステム接続を前提としているものがほとんどです。その結果、さまざまなインターフェイスに柔軟に対応しきれていないこともあり、現場ではAPIをベースとして開発が必要となることが多いです。
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Index | |
自動車組み立て現場でのRFID利用 | |
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Page1 既存システムにおけるRFIDシステムの位置付け 新システムとしてのRFIDシステム RFIDシステム構築における課題 |
Page2 さまざまなケーススタディから学ぶ 自動車製造業ケーススタディ |
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RFIDシステム導入バイブル 連載インデックス |
- 人と地域を結ぶリレーションデザイン (2008/9/2)
無人駅に息づく独特の温かさ。IT技術を駆使して、ユーザーが中心となる無人駅の新たな形を模索する - パラメータを組み合わせるアクセス制御術 (2008/8/26)
富士通製RFIDシステムの特徴である「EdgeBase」。VBのサンプルコードでアクセス制御の一端に触れてみよう - テーブルを介したコミュニケーションデザイン (2008/7/23)
人々が集まる「場」の中心にある「テーブル」。それにRFID技術を組み込むとコミュニケーションに変化が現れる - “新電波法”でRFIDビジネスは新たなステージへ (2008/7/16)
電波法改正によりミラーサブキャリア方式の展開が柔軟になった。950MHz帯パッシブタグはRFID普及を促進できるのか
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