岡崎勝己のカッティング・エッヂ

図書館で急速に高まるRFIDニーズ、
導入の先に見える未来とは?


岡崎 勝己
2008年2月14日
非接触ICカードやRFID技術が社会にもたらす変化とは何か。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に取材活動を続けるジャーナリストが、独自の視点で“近い未来”の行く末を探っていく(編集部)

 RFIDの活用が進んでいる分野の1つが図書館である。書籍に貼付したRFIDタグを複数同時に読み取れるというメリットが、図書館運営にまつわる業務の効率向上につながっている。

 ただし、RFID技術の実用化に当たっては、製品化に関する各種の課題解決を欠かすことができなかったのも事実である。果たしてRFIDタグはどのような進化を遂げてきたのか。また、RFID技術は図書館にどのような未来をもたらすのか。

 盛り上がる図書館でのRFIDタグ導入

 いまから四半世紀も昔、RFIDタグを用いたオフィス向け製品が存在したことを知る人は多くあるまい。内田洋行が1985年に発売した「板脳」がそれだ。同製品はリーダを組み込んだホワイトボードと、RFIDタグを内蔵したマグネット・チップで構成されている。ホワイトボード上に掲示されたマトリックスにチップを張り付け、その位置に対応した情報を板脳に接続されたPCに自動的に入力するのだ。

 建設会社であれば、各マトリックスを建設現場と設定し、作業員の名を記したチップをマトリックスに張り付けることで、誰がどの建設現場で作業に当たっているのかをPCで履歴として管理できる。その使い勝手の高さから建設会社や配送業務を手掛ける会社を中心に引き合いを集め、いまだに売れ続けるロングセラー商品だ。

 以来、内田洋行ではRFID事業を長らく展開してきた。2000年には文書管理用の「光キャビネット」も実用化する。同製品は発光ダイオード付きの小型タグを資料保管用ファイルに取り付け、専用端末での検索時に該当資料のLEDを発光させるという先進的なものだ。

 もっとも、業界関係者が「今年こそRFID普及元年」と長らく口をそろえていってきたのと同様に、同社でもRFID事業は採算的に長らく“冬の時代”にあった。

 そしていま。ついに同社に春が訪れようとしている。同社が力を入れてきた図書館分野でのRFIDシステムに対する自治体の関心が徐々に、しかし着実に盛り上がってきたからだ。

 業務効率の向上を目的に導入相次ぐ

 ここに来て、図書館におけるRFID技術への関心が高まっているのはなぜか。理由は明らかだ。多くの地方自治体では不況の影響で税収が減少を続けており、図書館運営のための予算確保が困難になりつつある。こうした中で、運営コストの削減に加え利用者へのサービス向上のためにRFID技術が大いに活用できると考えられているからだ。

 従来用いられていたバーコードとは異なり、RFIDタグであれば複数枚同時に情報を読み取れることから、貸し出しや返却作業の業務効率を高めることが可能になる。同様の理由から蔵書の点検作業も効率化を見込むことができる。

 来訪者自身が貸し出し処理を行える環境を整えれば、待ち時間の短縮も図れ、ひいては司書が本来の仕事に取り組めるようになり、さらにきめ細かなサービスも可能になる。図書館内の本が盗難される問題は古代エジプト時代にまでさかのぼるといわれるが、セキュリティゲートにRFIDリーダを応用することで対応を図ることができる。

 これらのメリットを評価し、RFIDを利用したシステムを導入する図書館が相次いでいる。2007年7月の移転を機に図書館システムの利用を開始した東京の豊島区立図書館の中央図書館もその1つだ。

ライズアリーナビルの4階と5階に入っている豊島区立図書館の中央図書館

 同図書館ではシステムの導入前、22〜23台のパソコンを用いて約9日間をかけて20万冊の蔵書点検作業を行っていたが、導入後には5台のリーダを用い2日半で完了させたなど、業務効率の大幅な向上を実現しているという。豊島区立中央図書館の事業計画担当係の田中正幸氏は「何冊もの本を一度に処理できるため、蔵書点検はもちろん返却処理を非常に円滑に行えるようになった」と語る。

 利用者側もシステムに対してそれほど戸惑いはないようだ。同図書館では利用者が自分で貸し出し処理を行うための端末をフロア内に設けている。端末利用時の注意事項を張り出すなどの図書館側の努力によって、利用者の端末利用割合はすでに4〜5割に達した。

ブース型の自動貸出機。右側のバーコードリーダで利用者カードを読み取り、机に仕込まれたアンテナ(白い部分)の上に借りたい本を載せる

 利用者カードの読み取りはバーコードで行われている。システム導入時には、利用者カードをかざす部分の形状に問題があり、読み取りエラーが多く発生した。また、子どもが利用する際に、バーコードリーダを下からのぞき込めてしまうことも分かった。実運用を始めて分かったこれらの問題は、すでに仕様変更が行われている。

スタンド型の自動貸出機。運用後にバーコードリーダの取り付け方やディスプレイの高さが改良された

 もちろん、システムを導入することで図書にRFIDタグを張る作業が新たに求められることになる。そこで、同図書館はそのためのコストを削減するため、週刊誌など廃棄までの期間が短い図書にはRFIDタグを入れる封筒を張り付け、RFIDタグの再利用を推し進めている。これは、RFID導入を先行していたほかの図書館から学んだ技だ。

 
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Index
図書館で急速に高まるRFIDニーズ、導入の先に見える未来とは?
Page1
盛り上がる図書館でのRFIDタグ導入
業務効率の向上を目的に導入相次ぐ
 
  Page2
“図書館”ならではのノウハウを積む必要性
図書館向け用途として“枯れた”レベルに
  Page3
残された95%の市場を開拓するには
岡崎勝己のカッティング・エッヂ 連載トップページ


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