岡崎勝己のカッティング・エッヂ

図書館で急速に高まるRFIDニーズ、
導入の先に見える未来とは?


岡崎 勝己
2008年2月14日


 “図書館”ならではのノウハウを積む必要性

 国内で初めてRFIDタグを利用した図書館向け蔵書管理システムが導入されたのは2001年。宮崎県の北方町立図書館(現延岡市立図書館)の開館に合わせてのことだ。この案件でRFIDタグやリーダの提供からシステムの導入まで手掛けたのが内田洋行である。

 このプロジェクトでは蔵書にRFIDタグを貼付することで、(1)カウンターでの貸し出しや返却業務の効率化、(2)蔵書の管理業務の効率化、(3)貸し出し手続きのセルフ化、(4)セキュリティゲートの設置によるセキュリティの強化の4つが目標として掲げられた。

森崎浩樹氏
内田洋行マーケティング本部特別販売部RFIDソリューション課プロジェクトリーダー

 だが、実のところ当時は課題が山積みだった。内田洋行のマーケティング本部特別販売部RFIDソリューション課プロジェクトリーダーの森崎浩樹氏は次のように振り返る。

「理論的には読めるはずのRFIDタグが現実には読めない。各種のRFID製品を手掛けてきたこともあり、技術的なノウハウをある程度蓄積していたが、図書館向けシステムの実用化には新たな経験を積むことが不可欠なことを改めて痛感した」

 特に苦労が強いられたのが(2)と(4)である。

 まず(2)では当初、書架に並んでいる本に対してリーダをなめるように動かし、RFIDタグの情報を読み取ることを想定していた。だが、実際には10冊のうち2冊程度の読み取りミスが発生する。当時は電波法の規制が厳しく、電波出力を300ミリワットに抑えたという事情もあった。

 また(4)では、書籍がゲートを通過する際の角度によって、読み取り精度が大きく変わる現象に直面した。書籍がゲートに対して水平の場合(つまりRFIDタグのアンテナ面がゲートに対して平行になる)にはすべて読み取れるのに対して、垂直の場合にはほとんど読み取ることができなかったのだ。

 図書館向け用途として“枯れた”レベルに

 一方で、内田洋行はこれまでのプロジェクトを通じて、新たなニーズへの対応も求められた。CDやDVDへのRFIDタグの添付もその1つだ。

 図書館では貸し出し用のCDやDVDの盗難を防止するため、ケースのみを棚に並べ、中身はカウンター内で管理する方法が一般的だ。だが、それらにもRFIDタグを貼付できれば、セキュリティゲートで盗難を防止できる。あらかじめ中身をケース内に収めて並べておくことができ、貸し出しの都度、あらためて中身を収納する作業を省ける。

 しかし、CDの情報記録層にはアルミニウム膜がコーティングされており、一般的なRFIDタグでは電波が遮られ、情報を正しく読み取ることができない。

 内田洋行は試行錯誤を重ね、これらの課題を1つずつ解決していったという。まず、書架に並んだ本の読み取り精度は、リーダを本の間に差し込む方法に改めることで大幅な向上を実現した。いまでは電波出力を1ワットまで高めることで、一度に15冊程度の情報を正確に読み取れるようになっている。また、セキュリティゲートも改良が進められ、いまでは書籍がどの角度であっても認識できるようになった。

中賀伸芳氏
内田洋行マーケティング本部特別販売部RFIDソリューション課課長

 CDやDVDへの貼付も専用のシール型RFIDタグを開発した。RFIDタグを厚めの樹脂板に張り、CDの情報記録層との間にミクロン単位の空間を設けるとともにアンテナの形状を工夫することで可能になった。また、高速で回転するCDやDVDのバランスを均等にするため、中心の穴を挟んだ反対側にICチップと同等のウエイトを配置している。

「読み取り精度は印刷に用いるインクや紙の種類にも左右される。また、蔵書は何年にもわたって保管されるため、ある程度の耐用年数は必要。それらを踏まえ図書館向け用途でタグのチューニングを重ねてきた。大手企業であっても、一朝一夕には図書館向けに最適化された製品を作ることはできないはず」(内田洋行マーケティング本部特別販売部RFIDソリューション課課長の中賀伸芳氏)

 そのかいもあり、「技術的にほぼ枯れた段階にまでたどり着いたのでは」というのが関係者の弁。つまり、図書館向けシステムのニーズに“火”が付いたのは、内田洋行をはじめとした各社の努力の結果、製品が実用に耐え得る段階へ入ったからだととらえることもできよう。導入が進んだことで、タグの単価も着実に下がっており、「当初、1つ当たり250円だったタグもいまでは90円程度になった」(森崎氏)という。

右にあるシールが北方町立図書館で最初に導入されたRFIDタグ。左下はCD/DVD用RFIDタグを貼付したCD。銀行通帳のようなものは、過去に借りた図書の履歴帳試作品

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Index
図書館で急速に高まるRFIDニーズ、導入の先に見える未来とは?
  Page1
盛り上がる図書館でのRFIDタグ導入
業務効率の向上を目的に導入相次ぐ
 
Page2
“図書館”ならではのノウハウを積む必要性
図書館向け用途として“枯れた”レベルに
  Page3
残された95%の市場を開拓するには
岡崎勝己のカッティング・エッヂ 連載トップページ


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