岡崎勝己のカッティング・エッヂ

図書館で急速に高まるRFIDニーズ、
導入の先に見える未来とは?


岡崎 勝己
2008年2月14日


 残された95%の市場を開拓するには

 全国の公共図書館は約3000館。そのうち、RFID技術を活用している図書館は4〜5%にすぎず、市場開拓の余地はまだまだ残されていそうだ。豊島区立中央図書館の事業計画担当係長である廣島亜紀子氏は「図書館システムの導入効果は十分認識できた。今後はできる限り早く豊島区のほかの図書館にも導入したい」と語る。全国の図書館で同様の認識が広がることで、巨大市場が急速に立ち上がる可能性も否定できない。

 その実現に向け、現在各社は図書館向けの新たな付加価値を積極的に提案している。ベルトコンベアとの組み合わせによる返却本の仕分け作業の自動化はその1つ。また、過去に借りた本を利用者が確認するための貸し出し履歴の印刷サービスや、書架にアンテナを埋め込むことで実現する書籍検索サービスの高度化なども考えられる。

 内田洋行では同市場をさらに拡大すべく、提案に当たり他施設との情報連携を戦略的に訴求しているという。

「各地に建設された公共の博物館や資料館の多くは、満足に活用されていない。しかし、郷土品の製作工程といった展示資料をデジタル化し、図書館で閲覧できるようにすれば、資料が市民の目に触れる機会も格段に増える。その結果、市民の自主的な取り組みによって観光の促進など、さまざまな効果が期待できる」(中賀氏)

 実際に、同社ではこうした効果を観光課など、それまで図書館に縁のなかった部門に訴えることで複数の部署から予算を集め、1案件当たりの売り上げの底上げを図っているという。こうした活動が広がれば、将来的に図書館が市民にとってあらゆる情報のハブの役割を果たす可能性もある。

「当図書館では豊島区の生活産業課と連携し、ビジネス相談会など単なる図書の貸し出しを超えたサービスを展開している。こうした活動を通じ、市民が交わる場として図書館を発展させたい」(廣島氏)

 図書館システムの利用はまだ緒に就いたばかり。その利用拡大に当たっては、不安要因もある。豊島区立中央図書館はシステムの導入に当たり、約2カ月を費やしすべての蔵書やCDにRFIDタグを貼付し、その後、約1カ月をかけエンコード作業を行った。

 同図書館は移転を契機に3カ月間の閉館期間と十分な作業スペースが確保できた。しかし、図書館の開館を続けながらこれらの作業を進めるのは容易ではない。新築/改修時に導入されることが多いのもそのためだ。

 技術面を不安視する声もある。田中氏は、「果たしてRFIDタグの寿命がどれほど持つのか。バーコードレベル並みを期待したいところだが、いまの段階で確かめるすべはない」と語る。

 もっとも、それらはいずれも解決可能なものだ。業務委託など、導入時の作業負荷を軽減する方法はいくつもあり、技術開発を続けることでRFIDタグのさらなる長寿命化も見込むことができる。ともあれ、RFIDの活用を機に“図書館”の姿が変わることだけは間違いはなさそうだ。

自動返却窓口の前で。内田洋行の中賀伸芳氏(左)との森崎浩樹氏

3/3
 

Index
図書館で急速に高まるRFIDニーズ、導入の先に見える未来とは?
  Page1
盛り上がる図書館でのRFIDタグ導入
業務効率の向上を目的に導入相次ぐ
 
  Page2
“図書館”ならではのノウハウを積む必要性
図書館向け用途として“枯れた”レベルに
Page3
残された95%の市場を開拓するには

Profile
岡崎 勝己(おかざき かつみ)

通信業界向け情報誌の編集記者、IT情報誌などの編集者を経てフリーに。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に、主にIT分野や経済分野でジャーナリストとして活動中。フォーカスするテーマはITと業務改革/イノベーション、人材論など。
他方、情報システムうんぬんは抜きに、コンテンツビジネスなど面白ければ何でもやる一面も。

著書に「図解ICタグビジネスのすべて(日本能率協会マネジメントセンター)」などがある。

岡崎勝己のカッティング・エッヂ 連載トップページ


RFID+IC フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)
- PR -

注目のテーマ

Master of IP Network 記事ランキング

本日 月間
ソリューションFLASH