第3回
NFCは次世代近距離通信のデファクトとなるか
岡田 大助
@IT編集部
2007年8月3日
複数の非接触ICカード技術を包含する形で標準化された近距離通信規格「NFC」。日本でも2007年後半から、NFCモジュールを搭載した製品が市場に登場しそうだ(編集部)
今日、FeliCaに代表される非接触ICカード技術は、電子マネーや決済、交通チケット、入退室管理などさまざまな分野で利用されている。2007年に入り、次世代の近距離無線通信規格として注目されているのが、非接触ICカード技術を発展させた「NFC(Near Field Communication)」だ。
技術の本質部分が認知されていないNFC
NFCとは、13.56MHz帯の周波数を利用した無線通信規格だ。通信距離は約10センチ程度の「近接型」通信に含まれる。すでにお気付きかもしれないが、FeliCaなどの近接型ICカードと同じ仕様だ。
NFCを開発したのはソニーとNXPセミコンダクターズ(旧フィリップス・セミコンダクターズ)だ。ソニーはFeliCaの開発元であり、NXPはTypeA(ISO/IEC 14443 TypeA)とも呼ばれる非接触ICカード技術「MIFARE」を開発している。NFCは、双方の技術に互換性を持った近距離無線規格であり、ISO/IEC 18092として2003年12月に標準化されている。
【関連リンク】 ソニー、フィリップス共同開発の近距離無線通信規格 Near Field CommunicationをISO/IECが国際標準規格として承認 |
ちなみに、ISO/IEC 14443は近接型非接触ICカード技術の標準規格を指す。FeliCaも「TypeC」として標準化を目指していたが果たせなかった(理由は、FeliCaに技術的な非公開部分があったからとも、標準規格が多数になることを避けられたからともいわれている)。
このような背景から、NFCはFeliCaの上位規格と誤解されていることがある。NFCは、MIFAREやFeliCaの無線通信部分(エア・プロトコル)を標準化したものであって、ICチップの動作やOS、暗号化部分はそれぞれの規格に依存する。
「残念ながらNFCは、技術の本質が紹介されていないと思う。NFCを説明するためには3つのポイントが存在するのに、マルチICの説明で終わっていることが多い」と語るのは、イー・キャッシュ株式会社代表取締役社長兼CEOの玉木栄三郎氏だ。
玉木氏のいう「3つのポイント」とは、「マルチIC」「マルチリーダ」「ファイル通信」のことだ。
「マルチIC」とは、先述したように異なる非接触ICカード技術の互換性を指す。また、「マルチリーダ」とは、NFC対応ICチップを搭載した機器がNFCリーダ/ライタとして利用できることを指す。つまり、NFCとは双方向通信を実現した非接触ICカード技術なのだ。
NFCIP-1(ISO/IEC 18092)では、FeliCaとTypeA(MIFARE)の無線部分の互換性が規定されていたが、2005年1月に標準化されたNFCIP-2(ISO/IEC 21481)では、さらにISO/IEC 14443 TypeB(日本では住民基本台帳カードやIC運転免許証に採用されている)や近傍型ICカード(通信距離70センチ程度)の標準規格であるISO/IEC 15693のエア・プロトコルが使えるようになっている。
NFCと既存の非接触ICカード技術の関係(出典:トッパン・フォームズ、画像をクリックすると拡大します) |
NFC対応機器ができること、できそうなこと
むしろ、NFCが注目されている一番の理由は「ファイル通信」だ。NFCでは、データ通信でやり取り可能なデータの形式を制限していない。NFC対応機器同士であれば、かざすだけでテキスト、画像、動画、XMLデータなどをやり取りできる。通信速度は最大で424kbpsだ。
トッパン・フォームズでは9月からUSB接続型のNFCリーダ/ライタモジュールの販売を開始する。その後、miniSD型モジュール、組み込み機器向けモジュールを投入する予定だ。玉木氏に、USB型NFCモジュールと、NFC対応チップを搭載した携帯電話を使ったファイル通信のデモを見せてもらった。
まず、携帯電話のカメラを使って写真を撮る。そして、携帯電話をPCに接続したUSB型モジュールにかざす。これだけで写真データがPCへと一瞬で転送される。玉木氏は、「例えば、デジタルカメラやプリンターにNFC対応モジュールが搭載されれば、メモリを差し替えたりケーブルをつないだりしなくても、かざすだけで印刷できるようになる」と利用イメージを語る。
トッパン・フォームズでは、同社オリジナルのNFC拡張機能として、BluetoothハンドオーバーとWiFiハンドオーバーを提供する予定だ。動画のような大きなファイルの場合、機器間認証をNFCで行い、データ転送をBluetoothでまかなうといったことが可能にある。また、ホットスポットなどの認証情報をICチップ内に持っておき、NFC機器をアクセスポイントにかざすだけでプロバイダ設定やユーザー認証を完了して無線LANに接続できるという。
海外では、携帯電話のファイル転送部分にNFCが利用されていたり、MIFAREエミレーション機能が中心ではあるものの決済端末やPDA、マウスなどにも搭載されていたりするという。玉木氏によれば、「既存のICカードの置き換えだけでなく、スマートフォンとPCを同期させるネットワーク部分にNFCが入ってきている」という。
また、すでに欧州を中心にNFCの実証実験が行われている。フランスのカン市では、スーパーマーケットでのキャッシュレス決済システムやバーチャルチケットによる駐車場の自動清算システムの実験を行った。台湾でもBenQ製携帯電話を使った交通機関のバーチャルチケットや店舗や銀行でのモバイルペイメント検証した。米国では、デジタルポスターにNokia製携帯電話をかざすことでコンテンツをダウンロードさせる実験を行っている。
NFC普及に向けて、使いどころをどうするのか
既存の非接触ICカード用リーダ/ライタの中で、NFC対応をうたったものはいくつか存在しているが、相互接続まで至っていないのが現状だという。玉木氏は、「NFCで定められているすべての非接触ICカード技術に対応した製品はまだ登場していない」という。
なぜならば、NFCで標準化されているのは「相手をどのように見つけるのか」といったエア・インターフェイスのみであり、相手のOSに対してどのように働きかけてデータを取り出すのかといった部分は独自に開発する必要があるからだ。また、マルチリーダにしても、物理的に異なる非接触ICカード用リーダ/ライタモジュールを1つの筐体に搭載してしまえば実現可能だ。
データの取得であれば、既存の技術(QRコードやトルカ)などでも対応できる。また、NTTドコモの一部の機種では「IC通信」として、機器をかざしてファイルを交換できる機能が搭載されている(玉木氏によれば、IC通信はNFCで使われている技術をNTTドコモが独自に拡張して実現しているという)。
玉木氏は、「NFCが普及するためには、NFCが持つどの機能を、どのように使うのかを考えなければならない。ユーザーが『かざして使う』ということのメリットを実感できることが重要だ」と分析している。
日本国内では圧倒的なシェアを持つFeliCaもワールドワイドでみれば少数派だ(トッパン・フォームズによれば、世界の交通系非接触ICカードの利用実態はFeliCa2億枚に対してMIFARE12億枚だという)。NXPがMIFAREの次期バージョンにおいて積極的なNFC対応を表明していることも考えると、NFCが次世代の近距離無線通信規格のデファクトになる可能性は高いだろう。
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