モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


第1回 ユビキタス時代の「場」づくり入門


株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年3月5日


 集合知と実空間を結び付けて可視化する仕掛け

 別の例を挙げましょう。これは駅などの公共空間に参加する仕組みを構築して「場」の活性化を促すために、JR東日本フロンティアサービス研究所と共同で開発した“アノニマス(匿名)なコミュニケーション”をICカードのタッチで実現する端末「Pollin(ポーリン)」です。

Pollin(ポーリン)

 例えば、一般企業がディスプレイに環境問題への取り組みや広告などを表示します。ディスプレイを見た通行人が、内容に賛同した場合に自分のICカードをタッチします。端末ではできるだけ多くの人に参加してもらえるように、ICチップのIDだけを取得して個人属性は利用しない仕組みにし、カウントアップだけを端末のインジケータが表示していきます。システム構成はシンプルですが、「駅」というリアルな場に置いて運用することで、「場所」や「時間」に応じた意見を収集できます。

 あるいは、ある問い掛けに対して異なる答えを表示させた複数台のPollinを並べて設置しておきます。通行人は賛同する答えを表示しているPollinにICカードをタッチすることで電子投票に参加できます。タッチされるたびに、Pollinのインジケータがニョキニョキと下から上に、まるで「木の芽」が少しずつ伸びていくような仕掛けをすることで、利用者は参加している実感が得られ、現在の投票状況も一目瞭然になります。

 つまり、「The Wisdom of Crowds(集合知)」を実空間と結び付けて収集し、可視化することができる仕掛けの1つといえます。コンテンツを用意した企業は簡単に民意を集めることができ、その反応に応じて企業活動ができます。利用者は、その場で気軽に意思表示をすることができます。そして端末を設置している場所の提供者は、その空間を有効活用することができます。

 昨今、位置情報取得やモバイル端末など、いわゆるユビキタスな技術の発展は著しく、また、SNSなどのネットコミュニティサービスも社会に浸透してきました。ところが、ネット上のコミュニティサービスは活性化しているにもかかわらず、現実社会においては個人情報の問題もあって、オープンなコミュニティサービスがなかなか浸透しないのが現状です。そこで、ユビキタス技術を利用して、現実の世界で利用者が簡単なコミュニケーションをすることで駅というリアルな「場」の付加価値を向上させられるシステムを開発しようと考えた結果がこのPollinなのです。

 利用者の活動(行動)を中心に置くという思想

 多様化するニーズをとらえ、複合化するサービスや新しい技術と向き合いながら「場づくり」をどのようにして進めていけばよいか。当たり前のことですが、「誰の」「何のため」に「どんな場」を創ればいいのかを、常に、そして的確にとらえていかなくてはならないと思います。

 前出のスマートインフィルやスマートウェアは利用者のワークスタイルに合わせて柔軟に対応することを目指したプロダクトでした。これは、利用者が機器や建物に合わせるのではなく、利用者の活動を中心において、情報環境や空間を合わせていくということを実現するために開発したものです。

 この“利用者の活動(行動)を中心に置く”という思想を反映した開発が重要であることはいうまでもありません。プロダクトの開発においてだけでなく、「場づくり」においてもUCD(User-Centered Design)の思想が求められます。

 次回からは、“「場づくり」におけるUCDプロセスの活用”をテーマに、弊社が手掛けた数多くのトライアルや実践事例の中から具体的なプロダクトについて、そのコンセプトメイキングから実現までの流れを紹介していきたいと思います。

【注】
UCDとは、User-Centered Designの頭文字で、「利用者中心設計」と訳されます。「ソフトウェアやハードウェアなどの製品を作る際に、ユーザーにとっての使いやすさや利用価値を第一義にとらえて設計するという思想を表す」と定義されています。

UCD=利用者中心設計のプロセスとは?

3/3
 

Index
ユビキタス時代の「場」づくり入門
  Page1
イノベーションのための「場」の設定
ユビキタス時代の新たな「場づくり」
  Page2
単一製品のデザインから、「場」全体のデザインへ
情報活用空間における課題と、解決への糸口
Page3
集合知と実空間を結び付けて可視化する仕掛け
利用者の活動(行動)を中心に置くという思想


Profile
株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム

「ユーザー中心の場づくり」を実践するために、株式会社内田洋行 次世代ソリューション開発センター内に設立されたチーム。社内のさまざまなプロジェクトに参画し、UCDプロセスを軸にした「ユーザー中心の場づくり」に取り組んでいる。

モノ/ヒトをつなぐこれからの「場」のデザイン


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