第2回
こだわりCDを多くのユーザーに快適に試聴させよ
株式会社内田洋行
次世代ソリューション開発センター
UCDチーム
2008年4月7日
デザインの背景にユーザーニーズを置く
操作フローから具体的なモノに落としていく過程では、すべての要素に対するデザイン理由を明確にしていくことが重要です。
例えば今回の開発の場合、システム全体を通してジャケット画像を大きめに用いるようデザインしています。その理由としては、ターゲットユーザーの試聴の動機付けにジャケットのイメージが大きく影響するという仮説が観察結果とペルソナから導き出されていたからです。
また、試聴中に次のCDを選ぶとまずダイアログが表示され、試聴中の音楽を途切れさせずに次のCDを選べるデザインとなっています。この理由は、試聴中にほかのCDを手に取り、試聴を途切れさせることなく次々に聴きたいというニーズが存在していると考えられたためです。
澤野工房オリジナルのテーマに沿ってCDを紹介する画面を設けたり、すべてのCDにおすすめ曲を表示したりといったデザインも、ペルソナが他人のおすすめを頼りにCDを選ぶ傾向があったことが理由となっています。
しかしながら、観察結果とペルソナから導いたニーズを基準にデザインを決めていったとしても、そのニーズが仮説であることは否定できません。本当にユーザーが求めるものとなっているかどうかは、ユーザーテストを行うなど実際のユーザーの声を聞く機会を作るほかありません。
このCD試聴システムの開発でも、最初のデザイン案の時点でペーパープロトタイプによるユーザーテストを実施しました。
ペーパープロトタイプとは、開発するシステムなどの画面を「紙」で作成し、ユーザビリティテストを行う手法です。開発の初期段階から何度もペーパープロトタイプを作りながらテストすることで、ユーザビリティの問題を早い段階で修正していくことができます。 |
形にしてみて初めて明らかになる課題も少なくないので、できる限りユーザーテストと修正の繰り返しを行い、実際のユーザーのニーズとのブレを改善することは重要です。
出来上がった「場」は……
では、実際にCD試聴システムが導入された店舗では、どのような「場」が生まれたのでしょうか。
CD試聴システムの利用ログを分析したところ、おすすめCDを紹介する画面で紹介されたCDの試聴回数がほかを大きく上回り、またそれらが売上においてもかなり伸びていることが分かりました。
また、RFIDタグ読み取りからの試聴が最も多く、ついでおすすめ画面からの試聴回数がほかの数倍となっていました。
さらに、ユーザーへのインタビューでは、「ジャズのことが分からなくても、ジャケットのイメージで聞きたいCDを選べる」といった声や、観察からは、CDを次々に置き換えて試聴を楽しむ姿も見受けられました。
このような結果から、UCDプロセスを活用し、ユーザーのニーズを読み解いてデザインを行ったことによって、「エンドユーザーの」「試聴のため」に「快適な場」をつくりだすことができたといえると思います。
また、分かりにくさ故に、ともすれば一般ユーザーからは敬遠されがちなタッチパネルやRFIDの技術を、UCDプロセスを用いて利用の文脈にうまく当てはまるようにデザインすることで、ユーザーに身近なものとして提供できたことも成果であると考えています。
このプロジェクトは、開発期間1カ月とタイトなスケジュールの中でも、「場づくり」において必要な「誰の」「何のため」に「どんな場」をつくればいいのかを的確にとらえることを、UCDプロセスを適用して実践した事例です。
次回以降も、このような「場づくり」の考え方をベースに取り組んだ実践事例について、さまざまな視点からご紹介していきたいと思います。
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Index | |
こだわりCDを多くのユーザーに快適に試聴させよ | |
Page1 利用品質を満たすということ UCDプロセスを理解するための3つのフェーズ |
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Page2 ミッション:こだわりCDを多くのユーザーに快適に試聴させよ プロダクトが利用される文脈を知る |
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Page3 ターゲットの明文化「ペルソナ」 文脈に当てはまるプロダクトをつくる |
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Page4 デザインの背景にユーザーニーズを置く 出来上がった「場」は…… |
Profile |
株式会社内田洋行 次世代ソリューション開発センター UCDチーム 「ユーザー中心の場づくり」を実践するために、株式会社内田洋行 次世代ソリューション開発センター内に設立されたチーム。社内のさまざまなプロジェクトに参画し、UCDプロセスを軸にした「ユーザー中心の場づくり」に取り組んでいる。 |
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