第5回
奥義その壱 ソフトウェアシーケンス図を制する
西村 泰洋
富士通株式会社
マーケティング本部
フィールドイノベーション
プロジェクト員
2008年1月24日
現実の世界への適用
対象物を時速36キロで走行する自動車に変えてみましょう。また、自動車はいつ来るか分からないが1台ずつ入ってくると仮定します。ダンボールの例と比べると、かなり難易度が高くなった気がしますね。
この場合、
- 対象物(RFIDタグ)に対して、実際に使える通信範囲は「2メートル」
- 対象物(RFIDタグ)の滞留(通過)時間は「200ミリ秒」
- 直接的にRFIDタグの読み取りにかけられる時間は「???」
ということになります。これを図にしたのが図8です(リトライは省略した表現にします)。
図8 対象物を自動車に |
自動車1のように読み取りの1サイクルに入ってくるタイミングもあれば、自動車2のようにサイクルの谷間に入ってくる場合もあるでしょう。自動車1は確実に読み取りできそうですが、自動車2はちょっと心配です。
図8は予定している性能(通信範囲)が十分に出ており、反射などの影響もないという前提で作成されています。しかし、現実には利用環境や対象物の性質による影響もありますし、LBTによる遅延や全体システムの処理による遅延なども考えられます。
つまり、そのような条件を無視した、理想的な状況のソフトウェアシーケンス図の段階で、すでに読み取りが困難だと予想される場合、そのプロジェクトは相当な苦労が必要とされるか、もしくは断念せざるを得ないということになります。
ここで読者の皆さんにクエスチョンです。図8のようなケースで読み取りを確実にする、または読み取り精度を高めるためには、どういうアプローチがあるでしょうか。答えは本原稿の末尾にあります。ヒントとして、RFIDシステム導入バイブルの「第7回 RFIDシステム導入を成功に導く最適化作業」が役に立つかもしれません。
リーダ/ライタを見抜く、それはシーケンス図を描けること
奥義その壱として、RFIDシステムプログラミングを進めていくうえで重要な考え方であるソフトウェアシーケンス図について解説しました。これ自体はRFIDのリーダ/ライタというハードウェアを理解するだけでなく、実際のRFIDシステム開発ならびに運用で利用するリーダ/ライタの動作をよく知ることにほかなりません。
それは、メーカーごとのハードやAPIの癖を知り、見抜くことでもあります。
奥義その壱 |
実際にこのようなソフトウェアシーケンス図の作成を必要とするのは、難易度の高いプロジェクトです。ここで作り上げたソフトウェアシーケンス図は、プログラミングの詳細設計の際のチェックシートとして利用することもできます。
冒頭でも述べたとおり、ソフトウェアシーケンス図を活用するやり方を知っていれば、「読み取りにかけられる時間が極めて短い」といった難易度の高いプロジェクトだけでなく、ZigBeeなどの近距離無線でも同じようにシステム設計・開発に取り組むことができます。
【問題の回答例】 図8のようなケースで読み取りを確実にする、または読み取り精度を高めるために、筆者は大きく3つのアプローチを想定します。 1. 通信範囲を広げる
2. 対象物の速度を遅くする
3. 読み取りシーケンスを変える
正解は、これに限ったものではありません。上記に加え、システム全体としてレスポンス性能を向上させる必要もあるでしょう。 |
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Index | |
奥義その壱 ソフトウェアシーケンス図を制する | |
Page1 ソフトウェアシーケンスの基本 プログラミングレベルのシーケンス |
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Page2 シーケンス図作成のポイント システム設計におけるシーケンス図の活用 |
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Page3 「BPOE」を踏まえてシーケンスを考える |
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Page4 現実の世界への適用 リーダ/ライタを見抜く、それはシーケンス図を描けること |
Profile |
西村 泰洋(にしむら やすひろ) 富士通株式会社 マーケティング本部 フィールドイノベーション プロジェクト員 物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。 RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、自動車製造業、流通業、電力会社など数々のプロジェクトを担当する。 著書に「RFID+ICタグシステム導入構築標準講座(翔泳社)」がある。 |
RFIDシステムプログラミングバイブル 連載インデックス |
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