第3回 RFIDの活用によるeコラボレーションの実現


河西 謙治
株式会社NTTデータ
ビジネスイノベーション本部
ビジネス推進部
課長
2006年8月10日


 共同センター型システムの導入効果と課題

 本システムの導入により、実際の現場では以下のような具体的な効果が出ている。

  • 通い容器の所在が明確になった
  • 通い容器が滞留するポイントが可視化され、対策を立てられるようになった
     例:特定のSPのみ容器がたまっている→担当者が返却を遅延させている→注意を喚起する、など
  • 通い容器の回転率が正確に把握できるようになり、SPごとに容器の適正使用が計画できるようになった
     例:回転率アップなどの好影響
  • 容器寿命の管理が正確に行えるようになり適正補充などが可能になった

 共同センター化することによる顧客側から見たメリットとして、NTTデータのトレーサビリティ専用IDC(システムに必要なハード・ソフトの共通機能をあらかじめ備えた共同利用型センター)を活用することにより、初期投資負担の軽減(投資のランニングコストの軽減化)や保守運用負担の軽減(人的リソースを含めた負担軽減)が挙げられる。

 また、特定の企業がデータを保有するのではなく、中立的なIDCが保有することで、システムの拡張や、ユーザー企業の参加および脱退に迅速に対応(プレーヤーや新規顧客の追加などサプライチェーンの組み替えがフレキシブルに可能)できるほか、セキュリティ保持(権限のあるデータ以外は閲覧不可)が徹底している。

 一方、本システムの(というよりはRFID物流管理システムの一般的な)課題はいくつか残されている。

 まず、過酷な環境に強いタグやリーダ/ライタが必要となることが挙げられる。通い容器は、素材が金属であったり、再利用する際の洗浄が必要であったりと、RFIDを使用する環境としてはかなり過酷である。すでにこれに対応するようなタグは商用化されてはいるが、より一層の機能向上と低価格化が望まれる。

 また、リーダ/ライタについても、使用環境において必ずしもLAN環境などが整備されていない(むしろ整備されていないことの方が多い)ため、無線LAN接続や携帯電話一体型リーダ/ライタの商品化が望まれる(すでに試作レベルの機器は展示会などに出展されている)。

 2つ目の課題は、使用環境に合わせた個別の実装対応が必要となることだ。特にUHF帯のRFIDを使用する場合、以下のような事象が起こるケースが多々報告されており、顧客の適用環境ごとにオペレーションでの工夫や改善が必須となるため、ノウハウの蓄積と体系化が求められている。

  • 複数のリーダ/ライタで読み取りを行う場合、利用環境によって電波が吸収されたり反射したりして、実態とは異なった読み取り結果が出る(電波が干渉して読み取れないポイント(ヌル点)が発生したり、反射して実際には存在しないものが存在するように見えてしまう)
  • タグを貼り付ける向きにより、リーダ/ライタとの位置関係で読み取り精度が変化する
  • 電波が飛びすぎるが故に、不要なデータまで読んでしまう

 3つ目の課題は、アプリケーションの標準化だ。現時点では、共同利用センターは、機能共同利用型(ASP型)にまで収れんされていない。利用料のさらなる低価格化のためにも、同業界ユーザーの拡大、同一機能のテンプレート化が必要と考えている。

 RFID2.0への展開

 最後にRFID2.0へ至るために今後求められる要件を考察してみたい。

 RFIDを適用した情報システムは、実務への適用が始まってきてはいるものの、クローズドかつ小規模なレベルにとどまっているのが現状である。大規模な社会インフラ的なシステム(=RFID2.0)が実現に至らない理由は多様であるが、以下の2点はその要因として大きいものである。

  1. 複数プレーヤーが相乗りするための標準化されたRFIDインフラがないため、広範囲なeコラボレーションが実現しない
  2. 費用負担者と利益享受者が異なる場合のビジネスモデルが未確立である

 この2つに対して、以下のような方向性で対応を進めている。

1.複数プレーヤーが相乗りするための標準化されたRFIDインフラへの対応

 前回、「(RFID2.0では)RFIDプラットフォームは、単一利用型から共通利用型、さらに連携型に進展すると報告されている。現状のレベルを共通利用型とすれば、次のパラダイムシフトは連携型である」と記載した。

 EPCglobalやユビキタスIDセンターでは、企業間をまたがる情報共有のモデルは、今回の事例のようなIDC側でデータを一括管理するのではなく、インターネットと同様の分散型のアーキテクチャで設計されており、RFID2.0においてはこの方式が標準になっていくものと思われる。

 例えば、EPCglobalであれば、EPC IS(Information Service)とEPC DS(Discovery Service)を介して各プレーヤーが読み取り、蓄積したデータ発見と接続を行う形態となるはずである。

【参考リンク】
The EPCglobal Network: Overview of Design, Benefits, & Security(PDF)

 ところが、残念ながら現時点では仕様が検討中のため、公開されておらず、実利用ができる状態にはない。また、RFID1.5においては、特定複数のプレーヤーとの情報共有にとどまっており、むしろ集中型の方がコストや開発期間といった点でメリットが大きいと思われるため、いまはこの方法で対応を進めている。

 ただし、将来的にはEPCglobalやユビキタスIDセンターの提唱するユビキタス・ネットワーク・アーキテクチャへの対応が必須になってくると思われる。

2.費用負担者と利益享受者が異なる場合のビジネスモデルの確立

 循環型利用の最大の課題はコスト負担である。往々にして費用や作業の負担をするプレーヤーと、メリットを享受するプレーヤーが異なるケースが多い。例えば、食品トレーサビリティが典型的である。RFIDタグを付ける作業をする生産者や卸業者には直接的なメリットがない一方で、コストや作業の負担が掛かる。

 これがネックとなって連携モデルの導入が進まない場合がある。この課題へのベストプラクティスはいまだ出ていないと認識しており、モデルケースの登場が望まれている(ちなみに、今回の事例では川上の企業がすべてのコストを負担している)。

 NTTデータでは、この循環型通い容器管理システムをさまざまな業種・業界へ展開していきたいと考えており、将来的には、受発注、在庫管理、生産計画など基幹システムへの連携も視野に入れた検討を進めていく。

 次回も、RFID2.0を見据えた、RFID1.5の適用事例を紹介する予定である。

3/3
 

Index
RFIDの活用によるeコラボレーションの実現
  Page1
物流分野におけるRFID適用
通い容器物流における課題
  Page2
循環型通い容器管理システムの特徴
Page3
共同センター型システムの導入効果と課題
RFID2.0への展開


Profile
河西 謙治(かわにし けんじ)

株式会社NTTデータ
ビジネスイノベーション本部
ビジネス推進部
課長

戦略コンサルティング、新規ビジネス企画、全社事業戦略策定を経て2003年度よりRFIDビジネスに従事。NTTデータのRFID組織の立ち上げおよびサービス体系を策定。

現在は同分野におけるリレーションシップビルダーとして対外的情報発信を担当。

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