近未来の家電売り場を探る―RFIDでライフサイクル管理


柏木 恵子
2007年3月1日
家電メーカーが協力して製品ライフサイクルをRFIDで管理する方法を検討している。ビックカメラやヤマダ電機で実施された公開実験をレポートする(編集部)

 2006年6月23日、家電電子タグコンソーシアムはRFIDタグを使って家電製品のライフサイクル管理を行うための「電子タグ運用標準化ガイドラインver1.0」を発表した。このガイドラインを基にして、保守・修理、在庫管理の効率化などを検証する実証実験が大手家電流通懇談会の協力を得て実施された。

 2007年1月下旬から開始されたこの実験は、同コンソーシアムが平成18年度に経済産業省より受託した「電子タグを活用した流通・物流の効率化実証実験」に基づき実施するもので、家電製品のライフサイクル全体を管理するモデルである点が画期的だ。ヤマダ電機とビックカメラで公開された実験をレポートする。

【関連リンク】
家電電子タグコンソーシアム

 家電流通に日本独自の視点で適用

 家電電子タグコンソーシアムは、ソニー、東芝、日立製作所、松下電器産業が発起人となり、みずほ情報総研を事務局として2005年10月27日に設立された。RFIDタグを用いた家電製品における機器ID・機器認証の有用性を検討し、ユースケース標準モデルを作成することを目的としている。そして、運用ガイドラインを策定して、結果を家電業界にフィードバックする。

 RFIDタグの利用については米Wal-Martのモデルが有名だ。これは、流通過程で製品が紛失すること(シュリンケージ)による損失が経営上無視できないほど大きいという事情がある(一説には、コストをかけてRFIDを導入する方が安上がりになるといわれるほどだ)。

 日本では、大量の情報を書き込むことができ、しかも書き換えることができるRFIDタグにはさまざまなメリットが考えられるのだが、これまであまり普及が進んでいない。その原因の1つに、物流のシーンでの利用にこだわるあまり、特定の事業者にしかメリットが出ないということが考えられる。また、シュリンケージによる損失が極めて少ないことも挙げられる。

 そこで、経済産業省および家電電子タグコンソーシアムは、「メーカー、物流、小売、消費者、保守事業者といったすべてのプレーヤーとユーザーがメリットを感じることが重要だ」と考えた。

 今回の実験では、「電子タグを活用した製品ライフサイクル全体にわたる業務改革の実現」を目指しており、3つの領域で2007年1月下旬〜2月上旬にかけて行われた。

実験領域 実験内容 期間
保守・修理 保証書の裏面に電子タグを貼付し、店舗での修理受け付けから保守事業者での修理業務、消費者への修理完了品受け渡しまで、家電製品の修理業務に関する電子タグの適用性について検証する 2007年1月15日〜2月8日
店舗在庫
ロケーション管理
量販店物流センターにおいて実験店舗へ納品する対象商品に電子タグを貼付して出荷し、量販店入荷、倉庫、店頭、販売までの商品在庫場所のリアルタイム管理について検証する 2007年1月26日〜2月4日
ABF
(動産担保管理)
修理部品の出荷(使用)データによる部品在庫の変動の外部モニタリングについて検証する 2007年2月1日〜2月7日

 メーカー、量販店、保守事業者、金融機関など、それぞれにメリットが出るとコンソーシアムが考えたのが、これらの領域ということになる。実験結果は3月にレポートとして公表される予定だ。また、家電業界への実導入に向けた国際標準化機構およびEPCglobalへの提案も予定されている。

 入荷の際にリコール品を自動検出可能

 家電流通業界では、部品メーカーから入荷した部品をセットメーカーで組み立て、メーカー配送センターから量販店の物流センターを経由して量販店舗までの製品の流れを血液の循環に見立てて「動脈流」、消費者が購入後、修理などのために店舗やセットメーカーへ戻し、保守事業者で修理した後に再び量販店などを通して消費者へ戻る流れを「静脈流」と呼んでいる。

実験における動脈流と静脈流の流れ(画像をクリックすると拡大します)

 RFIDを利用した小売店舗での実証実験は2006年から開始されているが、それは製造から小売りまでの動脈流での実験が主だった。今回の実験では、さらに静脈流も含めたサプライチェーン全体での適用についての検証を行った。コンソーシアムによれば、静脈流での適用実験は世界初ということだ。

 実験参加企業は、以下のとおり。このうち、ビックカメラ有楽町店において実験デモが公開された。

メーカー 日立
販売会社 日立コンシューマ・マーケティング
量販店 ビックカメラ、ヨドバシカメラ、エディオン
ソリューションベンダ 日立、NTTコムウェア、デンソーウェーブ、東芝テック

 実験全体の流れは、セットメーカーが保証書の裏にRFIDタグを張り付けるところから始まる。製品型名、製造番号、EPCが記録されているこのタグが、製品ライフサイクル全体にわたって識別の要素となる。

 出荷検品は、複数の製品を台車に載せて一括読み取りで行うため、作業が効率化できる。なお、実験では製品梱包の外側に保証書とRFIDタグの入った封筒を張り付けた。

 タグの発行データおよび出荷データは、トレーサビリティ共通基盤に登録される。配送センターや物流センターでの入出荷データは随時トレーサビリティ共通基盤に登録され、情報共有のためのEPC IS(EPC Information Service)を介して共有される。ここまでが、動脈流に当たる部分だ。

 リコールなどの製品の不具合情報がメーカーから提供されると、その情報もトレーサビリティ共通基盤に登録され、入荷検品の際に該当するロット番号を持つ製品があるかどうかのマッチングが行われる。該当製品があれば、ゲート型リーダ/ライタによる一括読み取りの際に管理用端末に瞬時に表示される。

 複数の製品梱包の中から該当する個品を探すためにはハンディリーダが用いられる。従来、このようなケースでは、メーカーから提供されるリストと倉庫内に山積みになっている製品のロット番号を目視によって照らし合わせて探す。RFIDを利用することで、該当製品の発見にかかる時間は約半分になることが検証された。

 
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Index
近未来の家電売り場を探る―RFIDでライフサイクル管理
Page1
家電流通に日本独自の視点で適用
入荷の際にリコール品を自動検出可能
  Page2
販売後の保守までをトラッキング
  Page3
「どこに・何が・何個」をリアルタイムで確認
  Page4
消費者への情報提供サービスと連携


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