
近未来の家電売り場を探る―RFIDでライフサイクル管理
柏木 恵子
2007年3月1日
消費者への情報提供サービスと連携
デジタルオーディオなどの高額の小型商品の在庫は鍵の掛かるラックの中にあるため、消費者は展示品横に配置した「お持ち帰りカード」で在庫状況を把握する。客は購入のためにカードをレジへ持って行くので、カードの数と在庫の数が合っていなければいけない。
ところが、カード数と在庫数が一致しなくなることがある。商品を買おうと思ってカードを抜いたはいいが、レジに行くまでにほかの商品を見ているうちに「やっぱり、やめた。こっちにしよう」という経験はないだろうか。
このとき、カードを元の場所に戻さない人や間違えて別の商品のカード入れに戻してしまう人がいる。こうなると、カード数と在庫が合わなくなる。このカードと在庫の整合を取るという作業が大きな負担であった(毎朝、担当者がすべてのカードと在庫をチェックしていた)。
実験ではiPodを対象として、「お持ち帰りカード」をオンデマンドで発券する仕組みを構築した。
店頭には、RFIDタグを付けた商品見本(モック)や商品別のICカードを用意した。RFIDリーダ付きのディスプレイを設置し、客が自分で商品のスペックや在庫のあるカラーを確認できるようにした。購入するものが決まれば、お持ち帰りカードをその場でプリントアウトするのだ。
さらに、せっかくディスプレイがあるのだからと、商品のプロモーションビデオやアクセサリなどの関連商品の情報を表示するなど販促ツールとしても利用した。実験中には、商品展示の面白さから評判は上々だったという。この仕組みは分かりやすいものだったらしく、設置初日から使い方の問い合わせが発生することなく、客に受け入れられたという。
実験全体を通じて、自分の担当以外の製品でも、正確な在庫状況が確認できるという点が大きなメリットとなっている。これまでも各製品の担当者は、どこに何個の在庫があるかをおおよそ把握していた。しかし、客からすれば「何の担当者かは関係なく、みんなヤマダ電機の店員さん」である。
在庫のリアルタイム状況をPDAで確認することにより、販売員全員が担当にかかわりなく精度の高い情報を持つことができるため、消費者の質問に正確かつ迅速に答えられるということが実証された。
ヤマダ電機情報システム部の鈴木氏は、「RFIDを使うことによってデータとモノが一緒に流れるのは非常にありがたい。お客さまからの在庫問い合わせに即座に答えることができた。iPodの実験では、永遠の課題でもある『セルフ』に近い形で、お客さまにいかに正しい情報を与えて効率よく販売できるかという解決の糸口が見えた」と、実験の感想を述べた。
経済産業省ではここ数年、電子タグの利活用に向けて実証実験に取り組んでいる。今回の実験の意義として、浜辺流通政策課長は以下の3つのポイントを述べている。
- 家電量販のトップ企業各社が実用化に向けた実験に取り組んだことは、産業施策的にも意義が大きい
- 業務の効率化だけでなく、店頭での製品情報提供など販売促進の取り組みもあり、その効果の検証もされた
- EPC ISを活用して、メーカー、流通、小売り、消費者、保守事業者などすべての場面でのメリットがあることが検証された
家電電子タグコンソーシアムでも「メリットが出ることを確認できたことが成果」としており、今年中にガイドラインの第2版を出し、さらに検証を進めていく予定だという。
![]() |
4/4 |
Index | |
近未来の家電売り場を探る―RFIDでライフサイクル管理 | |
Page1 家電流通に日本独自の視点で適用 入荷の際にリコール品を自動検出可能 |
|
Page2 販売後の保守までをトラッキング |
|
Page3 「どこに・何が・何個」をリアルタイムで確認 |
|
![]() |
Page4 消費者への情報提供サービスと連携 |
![]() |
RFID+ICフォーラム トップページ |
- 人と地域を結ぶリレーションデザイン (2008/9/2)
無人駅に息づく独特の温かさ。IT技術を駆使して、ユーザーが中心となる無人駅の新たな形を模索する - パラメータを組み合わせるアクセス制御術 (2008/8/26)
富士通製RFIDシステムの特徴である「EdgeBase」。VBのサンプルコードでアクセス制御の一端に触れてみよう - テーブルを介したコミュニケーションデザイン (2008/7/23)
人々が集まる「場」の中心にある「テーブル」。それにRFID技術を組み込むとコミュニケーションに変化が現れる - “新電波法”でRFIDビジネスは新たなステージへ (2008/7/16)
電波法改正によりミラーサブキャリア方式の展開が柔軟になった。950MHz帯パッシブタグはRFID普及を促進できるのか
![]() |
||
|
||
![]() |
Master of IP Network 記事ランキング
- 貴社のメール送信用IPアドレスが汚れる理由――レピュテーションを高めるウォームアップの5ステップ
- SIM内蔵PCを3100台 静岡銀行がSASEで統合した新OA基盤、最大の特徴とは
- 新衛星通信サービス「Eutelsat OneWeb」は「Starlink」と何が違うのか?
- 貴社で「メールが届かない」問題が起こる理由――メール送信/受信の基礎知識
- 「メールが届かない」事態を避けるための送信要件の確認と送信用インフラ選定の注意点
- 実は「メールが届かない」問題にはドメイン名も影響する――ドメインレピュテーションの基本とGmail送信者ガイドラインの要件
- 2025年の企業ネットワークは「ワイヤレスの高度活用」と「電話の革新」に注目
- NTT Comが新たなローカル5Gを投入 クラウド型により低コストで導入しやすく
- NTTドコモのドメイン名オークション出品事例を教訓に考える“ドメイン終活”の在り方
- オリンパス「IOWN APN」によるクラウド内視鏡システムを検証 APNは企業ネットワークで使えるか?
- 「Skype」2025年5月にサービス終了 Skypeユーザー向けFAQを公開 Microsoft
- SIM内蔵PCを3100台 静岡銀行がSASEで統合した新OA基盤、最大の特徴とは
- 貴社のメール送信用IPアドレスが汚れる理由――レピュテーションを高めるウォームアップの5ステップ
- 生き残りをかける日清食品グループ、先守後攻のための「愚直」なセキュリティとは
- NTT Comが新たなローカル5Gを投入 クラウド型により低コストで導入しやすく
- 新衛星通信サービス「Eutelsat OneWeb」は「Starlink」と何が違うのか?
- 貴社で「メールが届かない」問題が起こる理由――メール送信/受信の基礎知識
- 高速性や低遅延ではない、九州電力がローカル5G「実用化」で最重視した着眼点とは?
- 「メールが届かない」事態を避けるための送信要件の確認と送信用インフラ選定の注意点
- 実は「メールが届かない」問題にはドメイン名も影響する――ドメインレピュテーションの基本とGmail送信者ガイドラインの要件